「硬い」だけじゃない 最先端科学で覗き見る機能や活動の実態

私たちの体の中にあり、普段見ることができない骨。「硬くて動かない」というイメージがありますが、最新科学で覗き見ると、免疫や、ホルモンなどによる全身制御、人類の敵・がんとのかかわりなど、驚くべき機能や活動が見えてきました。骨は「体を支える」だけではないのです! そんな骨研究の最前線をとりあげた、『硬くて柔らかい「複雑系」 骨のふしぎ』(石井優著、講談社ブルーバックス)から、注目のトピックを紹介します。 *本記事は、『硬くて柔らかい「複雑系」 骨のふしぎ』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。 活動的な骨の実態——「硬い」だけじゃない 「硬くて柔らかくて、ずっと動いていて止まっているものって、なーんだ?」。こんななぞなぞがあったら皆さんはどう答えますか。その答えは、ズバリ「骨」です。 私たち人間(成人)には、頭蓋骨から背骨、手指の骨など、大小合わせて実に206本の骨があります。骨は歯と並んで体の中で最も硬い組織の一つですが、実は、常に少しずつ壊されたりつくられたりしています。「壊される」と「つくられる」のバランスが保たれていることで、骨は一定の安定した状態に保たれているのです。これを動的平衡状態と言います。計算上では、骨は約2〜4年かけて全てが入れ替わることになります。 出鼻から衝撃的な事実に驚かれた方もいるかもしれません。動的平衡状態は本書の重要なテーマとして、この後も登場しますので、まずは、こうした均衡によって骨が存在しているのだという事実を押さえていただければと思います。 それにしても常に骨を壊したりつくったり……、どうして私たちの体は、そんなややこしいことを繰り返しているのでしょうか。これには実にさまざまな理由があり、この分野に携わる研究者の大きな関心事でもあります。これから順を追って述べていきますが、本章ではまず、その理由を大まかに捉えておきましょう。 高速道路と骨の“補修”に共通点 骨の最もわかりやすい働きと言えば、体を支える支持組織としての機能です。重力に抗して二足歩行を行う人間にとって、体幹・四肢を支える骨は、硬くて丈夫である必要があります。ところが、立ったり歩いたりといった、普通の生活をしているだけでも、骨には微小な「傷」が入ってしまい、放っておくと年月とともに積もり積もって、骨が脆くなって折れやすくなってしまいます。 ですので、古く傷んだ骨を壊して、新しい骨をつくる、といった定期的な補修作業を常に繰り返しておく必要があります。これは高速道路の補修工事とよく似ています。毎日車が走っているだけで道路の舗装が少しずつ傷んできますので、定期的に傷んだ舗装を壊して剥がして、新しく舗装する必要があります。 また、骨が壊されたりつくられたりするのには別の理由もあります。骨は単に体を物理的に支えているだけではなく、その中には、体にとっていろんな大切なものが保存されており、必要に応じて骨が壊されることで溶けて流れ出ていきます。簡単に触れておきましょう。 骨から溶け出るものの代表がカルシウムです。カルシウムは体にとって大切な無機金属で、血中では常に一定の濃度に保たれています。骨は体の中でカルシウムの最大の貯蔵庫であり、食事によって摂取するカルシウムが足りないときは、骨が壊されることで血中のカルシウム濃度を維持します。そのため、カルシウムを摂らないと骨が壊れる、というのは間違いではないですね。 ところで、一概に骨といってもいろんな部分があります。例えば、足の太もものところの大きな骨(大腿骨と言います)は、外側の硬い部分(皮質骨=緻密骨と呼ぶこともあります)と、内側にある網目状の部分(海綿骨)といった、異なる2つの部分から成り立っています。 皮質骨の部分は、ハバース管と呼ばれる血管を中心にして、バウムクーヘンのように骨が層状に硬くパッキングされた単位が束になって詰め込まれており、重力に抗して体幹部を支えるための強度が保たれています。一方で海綿骨は、骨の中に“隙間”があることで、外部から衝撃が加わったときにクッションのような役割を果たします。また、血中のカルシウムの調節を担っているのは、主に海綿骨であると考えられています。ただ、同じ骨でも頭蓋骨のように体を支える必要のない骨では海綿骨はあまり存在しません。 骨は“建築構造物” さて、それでは、この常に「つくられる」と「壊される」が繰り返されている骨の構造を、素材に注目しながら、より細かく見てみましょう。簡単に言うと、そのつくりは「鉄筋コンクリート」のようなものと言えます。骨の構造を詳しく見ると、主に膠原線維(1型コラーゲン)がつくるしなやかな骨組み(柱)の周りに、リン酸カルシウム結晶が蓄積されています。 一方、鉄筋コンクリート構造(RC構造)は現在の建築構造物としては、最も強度・安定性の高いものの一つとして知られています。鉄筋の骨組みにコンクリートを流し込むことで、工期やコストがかさむものの、鉄筋の強靱さとコンクリートの強固さを併せ持った構造となります。RC構造は19世紀後半にヨーロッパで確立した近代建築学上の大きな成果の一つと言われていますが、驚くべきことに骨はすでにこの工法を“採用”していると言えます。 生命の設計図は極めて巧妙で、誰がそれをつくったのかは、大きな神秘です。自然の面白さを感じます。ちなみに、骨と似た支持組織である「軟骨」は、2型コラーゲンの束のみによって形づくられ、構造体としての“コンクリート”はないので、さしずめ「鉄骨構造」といったところでしょうか。 「硬い」のに「柔らかい」、毎日壊れてつくられる……「骨」に隠された、実にふしぎな機能

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