「惜しまれる人材になって死にたい」“拘禁刑”導入で変わる刑務所 再犯防止・社会復帰が最大の目的に【Nスタ解説】

刑務所での懲役刑と禁錮刑が廃止され、新たに「拘禁刑」が導入されます。刑罰が見直されるのは、1907年に刑法が制定されて以来、初めてのことです。刑務所の様子も大きく変わろうとしています。 【写真を見る】「拘禁刑」導入で変化 塀のない畑で農作業をする受刑者も 拘禁刑導入 「懲らしめ」から「立ち直り」へ 高柳光希キャスター: 1907年に現行の刑法ができてから初めての大転換です。元々「懲役刑」「禁固刑」だったものが、「拘禁刑」に一本化されます。 拘禁刑は「受刑者の改善更生のため、必要な作業を行わせ、必要な指導を行う」というものですが、具体的には、どういうことなのでしょうか。 TBS報道局 社会部 重松大輝さん: 刑罰の大半を占めていた「懲役刑」は文字通り、“懲らしめる”意味合いが強く、木材加工や裁縫、社会貢献などの刑務作業を1日最大8時間、義務づけていました。 「拘禁刑」ではその義務がなくなり、社会復帰に必要と判断された場合は作業が課されますが、それ以外の社会復帰に向けた指導や教育、治療などを重視して、これまで以上に取り入れられるようになります。 日本の刑罰が「懲らしめ」から「立ち直り」の支援へと、大きく舵を切ることになりました。 受刑者の約5割は再犯者 拘禁刑の導入で再犯減に期待? 高柳キャスター: 「入所受刑者数の推移」にも注目しているそうですね。 TBS報道局 社会部 重松さん: 今回の大転換の最大の目的は、再犯防止と社会復帰にあります。 【入所受刑者数の推移】※法務省 犯罪白書より ・2023年 1万4085人 1年間で入った受刑者の数は、2006年をピークに17年連続で減少し、現在はピーク時の4割程度になっています。 その一方で、▼再犯者(2回以上刑務所に入った者)の割合が55.0%(7748人)、▼高齢者の割合も14.3%(2009人)と年々、増加傾向です。 高止まりしている再犯者を減らすために、拘禁刑が導入されることになりましたが、その背景として、▼再犯者の7割が無職、▼出所しても、職にありつけない、▼職にありつけても、すぐにやめてしまって再び犯罪に走ってしまうということがあります。 取材した受刑者は、「何も身につけずに刑務所を出た結果、 社会でできることが何もなかった」と話していました。 高齢者、知的障害者、薬物依存症とそれぞれに課題が異なるのに、これまでの刑務所では同じような作業をさせていたということに課題がありました。 「特性に応じたプログラム」拘禁刑 仕組みは 高柳キャスター: 拘禁刑導入によって、受刑者の特性に応じて、24のグループに分けて対応されるということです。 例えば… ▼「薬物犯罪者」 依存症回復の治療を重視したプログラム ▼「高齢受刑者」 身体機能を向上させるプログラム ▼「若年受刑者」 更生教育の比重を重くしたプログラム 井上貴博キャスター: これまでは、“秩序”を重んじるために、「基本的には全員同じ対応を行い、管理していく」ということでしたが、「1人1人の特性に応じて対応することで再犯率を下げていこう」という流れになったということですね。 個人的には、この大きな方向性には賛成ですが、きめ細やかさを実現するために、不足する刑務官をどう増やすのかという点や、根本的に「そんなにきめ細やかにする必要があるのか」という声に、どう対応・説明するのかという点は気になります。 スポーツ心理学者(博士) 田中ウルヴェ京さん: 「きめ細やか」なのか「システム設計をきめ細やかにした」のかは別だと思います。 一番の問題は「厳罰によって再犯率は減ったのか」という点だと思います。 犯してしまった罪を償うことはとても大事ですが、一方で、いつか受刑者が外に出るときに必要なのが「自立」と「自律」でしょう。 経済的な「自立」と、自分を“律する”意味での「自律」。つまり、自分をしっかりコントロールして生きる能力を持ち続けるかということです。 罪を償いながらも自立・自律を続けていくための支援が必要だという意味ならば、再犯は防いでほしいということですよね。 出水麻衣キャスター: 「塀の中にいる方が過ごしやすい」と思う受刑者が出てこないかという疑問も生まれたりします。 「更生の前に償い」拘禁刑導入に批判的な声も 高柳キャスター: 再犯者が多いということは、決して無視できる問題ではありません。 まず、犯罪者が増えると同時に、被害者も増えるわけですから、▼被害者になるリスクがあります。 また、▼刑務所の維持費や受給者の生活費は税金で賄われていて、年間約350億円という大きな額です。 こうした状況を改善するために、拘禁刑の導入は意味があるものの、批判的な意見が多いのも現実です。 拘禁刑導入にネットでは… ●「入りたくないというぐらい厳しい施設じゃないと犯罪の抑止にならない」 ●「被害者は懲らしめを望んでいると思う」 ●「罪の償いはどこに行ったんだよ…更生の前に償いでしょう」 「受刑者なのに楽しんでいいのか?」罪と向き合う受刑者の声 TBS報道局 社会部 重松さん: 拘禁刑の導入には批判的な声も多く聞かれます。 拘禁刑に先立って始まった、社会復帰のプログラムなどを受けている受刑者にも話を聞くと… 入所6回目の受刑者(50代) 「楽しんで農業に取り組んでいるのは事実。被害者のことを考えると、自分は受刑者なのに 楽しんでいいのか?と思うこともある」 複数回入所の受刑者(30代) 「自分で考えることを学んで、初めて他人の気持ちを想像するようになった」 押し付けられることをするだけではなくなったことで、ようやく罪と向き合えた受刑者もいるようです。 一方で、素直に受け入れるのが難しいという気持ちはもちろん理解できます。 日本は死刑制度が残っている数少ない国でもありますし、犯した罪に対する“懲らしめ”を求める声は根強いです。 自分たちが被害者にならないためと、当事者として意識を変えていかなければならない問題で、議論していく必要があるのかなと思いました。 井上キャスター: 立場によって全く捉え方が変わるニュースだと思うので、感情論だけではなく、海外の事例で再犯率がどう変化したのか、日本は今までどうだったのかなど、客観的なデータを知りたいですね。 ========== <プロフィール> 重松大輝 TBS報道局社会部 法務・検察担当 事件・事故の「その先」を取材 田中ウルヴェ 京さん スポーツ心理学者(博士) 五輪メダリスト慶應義塾大学特任准教授 こころの学びコミュニティ「iMiA(イミア)」主宰

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