開幕2カ月、12球団で最も“采配上手”な監督は誰!? 「ピタゴラス勝率」から見えた意外過ぎる「名指揮官」とは

 2025年のプロ野球は、開幕から2か月が経過した。12球団はおおむね50試合前後を消化。セ・パともにシーズン最序盤の団子状態から、6月を迎え徐々に勢力図が固まりつつある。 【八木遊/スポーツライター】  *** 【写真を見る】12球団で最も“采配上手”な意外過ぎる「名指揮官」とは セ・パともに2〜5位は混戦模様  パ・リーグは、新庄剛志監督率いる日本ハムが頭ひとつリード。それを追う2位から5位の4球団が僅差でひしめき合っている。  前評判の高かったソフトバンクは4月こそ、最下位に沈んだ時期もあったが、5月に入ってから徐々に復調。5月以降の同一カード負け越しは雨天中止の影響で0勝1敗だった5月25日の対オリックスのみで、それ以外は勝ち越し、もしくは1勝1敗で乗り切った。過去8度の優勝を誇る交流戦で白星を積み重ね、首位の座をうかがいたいところだ。 バンテリンドームナゴヤ  一方のセ・リーグは、阪神が首位に君臨。ただし、こちらも2位から5位が混戦状態だ。もちろん、セ・パともに今後3週間はリーグ内の直接対決がないだけに、交流戦の期間中に大きな順位変動があってもおかしくないだろう。  そこでシーズンの約3分の1が終わったタイミングで、今季開幕から最も巧みにチームを勝利に導いていると見られる監督を各リーグから1人ずつ選んでみたい。 ピタゴラス勝率から“采配上手”な監督を選出  監督の“采配力”を決める最も手っ取り早い方法は、チームの勝率を比較することだろう。現時点なら新庄監督と阪神・藤川球児監督が各リーグの“最優秀監督”ということになる。  しかし、その方法では、チームの戦力差が考慮に入らない。戦力豊富なチームは、監督の采配によらず必然的に勝率は高くなるし、その逆もしかりだ。そのため、監督の采配力を測る指標としてしばしば用いられるのが、ピタゴラス勝率と実勝率との差だ。  ピタゴラス勝率とは、「得点の二乗/(得点の二乗+失点の二乗)」という計算式で算出できる。チームの得失点差のプラスが大きければ大きいほどピタゴラス勝率は高くなり、マイナスが大きければ大きいほど低くなる。  もともとピタゴラス勝率は、野球統計学の第一人者ビル・ジェームズによって考案され、チームの得点数と失点数に基づいて、実際の勝率を推測するためのもの。メジャーリーグ公式サイトの順位表にも掲載されている由緒ある指標だ。  かつてメジャーリーグでは、ピタゴラス勝率と実勝率との差が監督采配の指標としてよく使用されていた。最も有名な事例の一つが、1997年にサンフランシスコ・ジャイアンツを率いたダスティ・ベイカー監督。この年のジャイアンツは、784得点に対して793失点と、失点数が得点数を上回ったにもかかわらず、90勝72敗で地区優勝を達成した。ベイカー監督は文句なしのナ・リーグ最優秀監督に選ばれたのは言うまでもない。  本来は1年を通じて見れば、実際の勝率とピタゴラス勝率は強い相関性を示すはずだが、その年のベイカー監督は見事な手腕でそれを覆したのだ。  今季のプロ野球でいうと、セ・リーグ首位の阪神は交流戦前まで178得点に対して121失点。得失点差「+57」は両リーグでも断トツだった。これを計算式に当てはめると、今季の阪神のピタゴラス勝率は.684。実際の勝率.600よりもかなり高いことが分かる。  これが意味するのは、阪神が開幕から2か月の間に発揮した攻撃力と投手力(=チームの総合力)の割に、実際の勝率はあまり高くないということだ。つまり、勝つべき試合を落としているケースが少なくないとも言い換えられる。 12球団トップは中日・井上一樹監督  そこで全12球団の実際の勝敗と、ピタゴラス勝率から算出した勝敗を洗い出したのでご覧いただきたい(交流戦開始前の6月1日現在)。 【セ・リーグ 実際の勝率とピタゴラス勝率から算出した勝敗(引き分けを省く)】 1位 阪神 30勝20敗/34勝16敗(-4) 2位 DeNA 26勝21敗/30勝17敗(-4) 3位 巨人 28勝24敗/26勝26敗(+2) 4位 広島 24勝23敗/26勝21敗(-2) 5位 中日 23勝26敗/19勝30敗(+4) 6位 ヤクルト 14勝31敗/12勝33敗(+2) 【パ・リーグ 実際の勝率とピタゴラス勝率から算出した勝敗(引き分けを省く)】 1位 日本ハム 29勝20敗/31勝18敗(-2) 2位 オリックス 25勝21敗/22勝24敗(+3) 3位 西武 27勝23敗/28勝22敗(-1) 4位 ソフトバンク 24勝24敗/26勝22敗(-2) 5位 楽天 23勝26敗/21勝28敗(+2) 6位 ロッテ 17勝31敗/16勝32敗(+1) ※()内は実際の勝利数とピタゴラス勝率から算出した勝利数の差  12球団の中で最も“プラス”の乖離があったのは、中日の「+4」。19勝30敗であってもおかしくない得失点差にもかかわらず、実際は23勝26敗で乗り切っていた。  昨季まで3年連続で最下位に沈み、今季も12球団最少得点の貧打に苦しむ中、井上一樹監督はでき得る限りの戦略と戦術を用いて、何とか最小限の借金で踏みとどまっている。もちろんチームの勝利には采配以外の要素が占める部分も大きいが、4勝の上積みに成功していることは、井上監督の手腕による面も少なからずあるだろう。  一方でパ・リーグの采配上手は、オリックスの岸田護監督。170得点、175失点なので、本来は負け越していてもおかしくない状態だが、貯金をつくることに成功している。投手陣のやりくりに苦労しつつも、リーグ2位で交流戦に突入した岸田監督の手腕には合格点を与えてもいいだろう。 真の実力チームは阪神とDeNA?  もちろんこれらの数値と監督の采配力は必ずしもイコールというわけではない。しかし、こと井上監督と岸田監督に関しては、1軍監督の経験がないところからのスタート。“ルーキー監督”として評価に値する仕事をしているのではないだろうか。  2人の采配力の高さは、接戦時の粘り強さにも現れている。仮に2点差以内で決着した試合を接戦と定義するとすれば、井上中日が17勝14敗(2分)、岸田オリックスが14勝8敗(3分)と、ともに接戦の試合で勝ち越していることも高く評価できるだろう。  最後に、ピタゴラス勝率が示すもう一つの重要なことが、今後の傾向である。例えばプラスの乖離が大きかった中日とオリックスはもともとの総合力は実際の勝率よりも下。つまり今後は苦戦を強いられる可能性が高いということになる。  逆にピタゴラス勝率が実際の勝率よりも高かった阪神、DeNA、日本ハム、ソフトバンクなどは、“真の実力チーム”と呼べるだろう。今後はセオリー通り、実際の勝率がピタゴラス勝率に追いついていくことになるのだろうか。  いずれにしても、「投高打低」が続く今季も1点の重要度が非常に大きく、それだけ監督の采配が勝敗を左右する確実が高くなる。井上、岸田両監督は、指揮官として迎える初めての交流戦で、どのような形で白星を拾っていくのか。2人の今後の采配に要注目だ。 八木遊(やぎ・ゆう) スポーツライター 1976年生まれ。米国で大学院を修了後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLなどの業務に携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬記事を執筆中。 デイリー新潮編集部

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