SUBARU(スバル)はモータースポーツ専門の子会社スバルテクニカインターナショナル(STI)が手掛けたコンプリートカー「S210」を全国500台限定で発売、その抽選申し込みを2025年5月22日に始めた。S210はクルマ好きの間で、かなりの反響を呼んでいる。 カスタムカーとは似て非なる存在 S210はスバルのスホーツセダン「WRX S4」をベースにSTIがチューニングしたコンプリートカーだ。コンプリートカーとは、自動車メーカーやSTIのようなメーカー系のモータースポーツ専門会社が独自に開発したパーツを組み込み、一般公道を合法的に走ることができる高性能車のことだ。 コンプリートカーはエンジンや足回りを専用部品に組み替えた広義の改造車だ。改造車と聞くと「不正改造」などネガティブな印象を持つ人もいるが、コンプリートカーは文字通り、改造車でも車検に通る「コンプリート(完成)したクルマ」という意味だ。 メーカー系と異なる一般の部品メーカーやショップが専用アルミホイールやエアロパーツなどを組み込み、ドレスアップしたクルマは一般にカスタムカーと呼ばれる。そんなカスタムカーとコンプリートカーは似て非なる存在だ。 トヨタ「TRD」、日産「NISMO」、ホンダ「Modulo X」 コンプリートカーは見た目だけでなく、エンジンや足回りなど中身にも手が入り、車検にも通るため、安心して乗ることができる。 近年はフェンダーから、ほんの少しはみ出したホイールを履いているだけでも、ディーラーで整備を断られることがある。その点、コンプリートカーは基本的にメーカー公認なので、そんな心配は無用だ。 とは言っても、コンプリートカーと称して、そのままでは車検に通らない改造をしているショップ系などのクルマもあるので、注意が必要だ。カスタムカーとコンプリートカーの境界は、やや曖昧といえる。 トヨタなら「TRD」、日産なら「NISMO」、ホンダなら「Modulo X」など、メーカー系のコンプリートカーなら、正真正銘のコンプリートカーで、車検の心配もないだろう。 「6速マニュアルでなくCVTなのは物足りない」の声も いま話題のスバルのS210は、熱烈なファンが多いスバルのコンプリートカーゆえに、賛否両論がある。S210はスバルのSシリーズで初のCVT搭載車だ。スバルは最新の高性能CVTを「スバルパフォーマンストランスミッション」と呼んでいる。 ネットでは「従来の6速マニュアルでなく、CVTなのは物足りない」「これまでと比べてチューニングパーツが少ない」など、不満の声が挙がっている。筆者も、その点は理解できる。 S210はエンジンやトランスミッションなど細部にまで手が加えられている。その中で、筆者はネットや他のメディアではあまり取り上げられていない「スバルパフォーマンストランスミッションフルードクーラー」について指摘しておきたい。 CVTはサーキットはもちろん、箱根(神奈川、静岡県)や六甲(兵庫県)のようなワインディングロードを連続して全開で走った場合、CVTフルード(オイル)の温度が上昇する。するとパドルシフトでシフトダウンができず、アクセルペダルを踏んでもエンジン回転が上がらない「セーフモード」に入ることがある。こうなると、CVTフルードの温度が下がるまで、スポーツ走行はおぼつかなくなる。 これはスバルのCVTに限ったことではないが、従来の6速マニュアルトランスミッションではあり得ない現象だ。自動車専門誌の中には、これまでスバルのCVTがスポーツ走行に適さない現実を指摘するものもあった。 このため、スバルはCVTフルードを冷やすオイルクーラー(スバルパフォーマンストランスミッションフルードクーラー)を開発し、レヴォーグやWRX S4などの限定モデルに搭載してきた。 クーラー装着で連続してスポーツ走行を楽しめる 今回、スバルのSシリーズで初のCVTとなるS210も、当然というべきか、スバルパフォーマンストランスミッションフルードクーラーを搭載している。これがなければ、S210でスポーツ走行などできないからだ。 しかし、従来通り3ペダルの6速マニュアルであれば、トランスミッションフルードクーラーなど必要ない。そんなデバイスが必要なCVTをなぜスバルがSシリーズに選んだのか。疑問を感じるスバリストがいてもおかしくないだろう。 とは言え、S210はトランスミッションフルードクーラーを装着したことで、CVTながら連続してスポーツ走行を楽しめることだろう。3ペダルなど過去の遺物で、2ペダルが当たり前と考えるドライバーにとって、トランスミッションフルードクーラーを装着したS210は「水を得た魚」になることは間違いない。 そんなS210の販売価格は870万円という。ベースとなるWRX S4(447万円台から)の倍近い。S210にそれだけの価値があるか否かは、各自の判断によるだろう。筆者としては、CVTのトランスミッションフルードクーラーの存在は良くも悪くも大きいと思う。 いずれにせよ、全国で500台限定のコンプリートカー、S210は応募が殺到しているようだ。抽選申し込みの期限は6月29日となる。 (ジャーナリスト 岩城諒)