物価高が各家庭の台所事情を直撃しているいま、開店時から「半額シール」を貼った商品を並べ、行列ができるスーパーマーケットが話題となっている。東京、千葉など1都4県で14店舗を展開する「おっ母さん食品館」だ。運営会社の社長は「正直、安売りとは思っていない」と豪語するが、そこにはどんな秘密が隠されているのか。 【画像】「うちのような中小企業が大手の向こうを張って勝てない。ならば…」朝から“半額”になる目玉商品 ほか 朝から半額、行列、レジは激込み…… 朝から店舗の前に客の行列ができる。目指すのは、朝から「半額シール」が貼られた目玉商品。我先に商品をアレコレと買い求めてレジへ急ぐが、そこにも長い行列ができている……。東京・北千住の「おっ母さん食品館北千住店」では、こんな光景が日常化している。 「クリエイト」と看板が並ぶのにもワケがあって… たとえば、一束158円で売るほうれん草や小松菜が2束で158円になることあれば、4点盛のお刺身(1000円)、8カンお寿司(980円)に半額シールが貼られることも。100gあたり68〜98円で並ぶ豚や合挽きなどのひき肉が対象になるのも、お財布には嬉しいサービスだろう。 「面白いことをやってるな、とか、すごい客だな、とか、レジもめちゃくちゃ混んでるな、というのが安売りイメージにつながっているんだと思いますが、われわれとしては適正売価であり、販売促進策のひとつにすぎないんです」 そうあっけらかんと話すのは、「おっ母さん食品館」を運営する「三和」の岩本正社長だ。 その言葉通り、朝から貼られた半額シールは、原価割れというわけではなく、利益が出る仕組みはきちんと構築されている。その理由のひとつは「市場仕入れ」だという。三和の本社は千葉県柏市の「柏市公設卸売市場」内にあり、常に魚介類や野菜などの価格をチェックしながら場内を歩く岩本社長ほか各店舗の店長やバイヤー、売り場のチーフらの姿が見られる。 市場で目を付けた商品が…… 「市場は情報の宝庫。大手スーパーのような物流センターを構えるのではなく、各店の店長やバイヤー、チーフが市場で仕入れ、直接トラックで運んで各店売っています。自分で目利きしたものだけでなく、さまざまな商品で、競り人と商談するわけです。旬の時期に取扱量が多いものや、さばき切れずに売れ残りがちになるものもある。担当者は市場を歩きながら、そういう野菜や魚に目をつけて仕入れをし、販売するのです」 例えば、普通ならば100円で仕入れ、198円や280円で販売するような商品を、競り人との交渉で30円で仕入れることに成功したとする。それを自店で値付けをする際に、思い切って通常の半額にすることもできる……これが朝から「半額シール」を貼っている商品の正体だ。値付けについて、一定の利益率を取れるよう本社は指導しているが、基本的には各店に一任している。 「任されたほうが、人間は生き生きと仕事をすると考えています。企業も人の集まりなので、個の力を大切にしています。ビジネスマンであるからには会社に利益をもたらして当然ですが、各店長やチーフ社員には『商売人であれ』と常日頃から言っています」 野菜の詰め放題が「おっ母さん食品館」の名物のひとつだが、これも市場の青果担当者との交渉の末、品目や売価を決めている。同じものを仕入れたとしても、店によって売価が違うこともあるが、そこも各店の裁量に任されているゆえ。各店舗は先述の柏の市場のほか、豊洲、大田、船橋、横浜にある市場を拠点として、それぞれトラックを出して仕入れを行っている。 客も市場も店も生産者も「ウィン‐ウィン」の関係に お客が殺到する光景が当たり前という店もある「おっ母さん食品館」だが、岩本社長には「決して店だけが勝ち続けてはならない」という持論もある。 「お客さんも私ら店も、そして市場、生産者も、みんながウィン‐ウィンでなければ、ビジネスモデルとしては成功しないんです。1週間のうち、7回勝負して全勝、つまり店だけがいいとこ取りできるような価格で売り続ければ、お客さんは離れていく。もちろん全敗すれば店の経営は成り立たないし、意味もなく値引けば、『安かろう悪かろう』の印象を持たれかねない。負ける日があってもいいし、引き分けでもいい。でも7回勝負したら1回は勝たせてもらえ、と各店には言っています」 ドラッグストアとのハイブリッド型で もともとは、日配品も含めた品ぞろえで直営店を展開してきたが、2018年末から「クリエイトエス・ディー」が運営するドラッグストア「クリエイト」と売り場を一体化させた店舗を始めた。魚介類や野菜、肉、一部総菜などを「おっ母さん食品館」が、残りの日配品や薬品などを「クリエイト」が担う売り場作りだ。 「うちのような中小企業が大手のスーパーマーケットやドラッグストアの向こうを張って戦っても勝てない。ならばどうやって生き残るのか。共同店舗出店について、創業者は反対していましたが、会社を引き継いだオーナーと『やるだけやってみよう、ダメならやめればいい』と話し合って決めました」 狙いが奏功したのは、先に述べた盛況ぶりを見れば明らか。当初こそ、店の入り口からはしばらく「クリエイト」の売り場が続くため、奥まで行かないと「おっ母さん食品館」にたどり着かないことが懸念されていた。だが、今では買い物カートの上下にふたつのかごを載せ、薬品や家庭用品と、生鮮食品を別々に入れて店内を回る客の姿が目立つ。 もともと北柏店は別の場所でスーパーとして単独で運営していたが、当時は倉庫のような売り場で通路も狭く、商品が所狭しと積み上げられていたために買い物を楽しめる状況ではなかったそう。現在の店舗は買い物がしやすいと好評だ。 岩本社長によると、共同店舗と同様の面積の店を自前で用意するのに比べ、初期投資は大幅に抑えられることになるという。現在展開する14店舗のうち、9店舗がクリエイトとの共同。今後もしばらくはこうした出店が続きそうだ。 安売り→評判を呼び→多くの客来店→また安売りのループ 現在は「単独で出店する時期でない」と岩本社長は認識しているものの、「おっ母さん食品館」の旗艦店ともなっている北千住店は単独の店舗だ。自動車のショールームだった物件を居抜きで改装したという。こうした“出物”が数多く出れば、直営店の出店増につながる可能性は大いにある。 「搬入口とトイレさえある物件ならば、バックヤードのスペースを確保してカスタマイズし、店にできますからね」 市場での直接仕入れをはじめとする各店舗に権限を任せた販売戦略によって「なんで混んでるの?」「安いね」「面白いね」と評判を呼び、さらなる客が集まる。それが新たな安売りへとつながっていく。そうしたサイクルを繰り広げながら、さらなる多店舗展開も見据える「おっ母さん食品館」。物価高の世相の中で、より多くの支持を集めることができるか。 デイリー新潮編集部