農村の娘、つかの間の輝きから破滅への転落描く「マライア・マーティンの物語」

 5月の好舞台を担当記者が語り合った。  山内則史 5月は、英国女性作家の戯曲を小田島則子が翻訳した2作品に強くひかれた。一つは、新劇女優のユニット「On7(オンナナ)」による「マライア・マーティンの物語」で、寺十吾(じつなしさとる)演出。19世紀前半に英国で実際に起きた殺人事件が基となっていて、貧しい農村の娘マライア(吉田久美)のつかの間の輝きと友情、苦難に満ちた人生が描かれる。マライアの純粋さと、それが拒まれ、破滅していくさまに胸を引き裂かれる思いがした。  武田実沙子 冒頭でマライアはすでに死んでいて、納屋の床下に埋められている。そんな彼女が人生を回想する形式で物語が進むが、聡明(そうめい)で頑張り屋さんだった少女時代からの変わりように驚かされた。照明も、女性の感情の移ろいをうまく表現していた。 家族の物語、視点に広がり…「星の降る時」  山内 もう1作はベス・スティール作の現代劇「星の降る時」で、演出は栗山民也。かつて炭鉱で栄えた町に住む3姉妹とその家族の物語。三女がポーランド移民と結婚することをきっかけに、それぞれが抱えるトラブルが浮上し、差別などの社会的な問題と連動していく流れが興味深かった。  武田 「幸せで華やか」という結婚式のイメージからかけ離れた事態となってしまうのが新鮮。明確な解決策が提示されない一方で、登場人物の視点が宇宙にまで壮大に広がっていく物語だった。終演後、じんわりと余韻をかみしめた。  祐成秀樹 ほろびて「ドブへ INTO THE DITCH」に心を揺さぶられた。細川洋平作・演出。舞台は踊ることが禁じられた格差社会。権力者が表現の自由を奪い暴力で支配する世界の隠喩だろう。葛藤を抱えて生きる人々の会話から、人間の尊厳、秩序の維持、無償の愛など様々なことを考えさせられた。終盤にダンサー・柴一平の伸びやかな踊りを配すなど、構成も見事だった。  小間井藍子 ミュージカル「ダンス オブ ヴァンパイア」は6年ぶり6度目の上演。若い女性がドラキュラのクロロック伯爵の城にいざなわれるシンプルな物語ながら、伯爵の言葉は哲学的で深みがある。今回、新たに伯爵を演じた城田優は妖艶(ようえん)な美しさで甘く優しい歌声を響かせ、初演から演じ続ける山口祐一郎は迫力のロングトーンで唯一無二の存在感。見比べる楽しさがあった。  祐成 「陽気な幽霊」は英国のノエル・カワードが第2次大戦中に書いた喜劇。上流階級の作家(田中圭)が先妻の幽霊(若村麻由美)と今の妻(門脇麦)の板挟みになる。色っぽく夫を翻弄(ほんろう)する若村の振り切れた演技に感心した。死の恐怖に覆われた戦時下の戯曲だけに、生き生きした幽霊の姿は死は克服できるという作者の思いを反映したのだろう。名作の本質を外さず、役者の潜在力を引き出す熊林弘高の演出力を評価したい。  山内 小松台東「ソファー」は松本哲也の作・演出。父親が亡くなり、処分することになった実家で、唯一引き取り手がない巨大なソファー。3人のきょうだいが集まり、どうしたものかと話し合う。父と母の記憶、家族の悲喜こもごもを受け止めてきたソファーが、脱線しがちな話し合いの行方に気をもみながら、呼吸をしているかのように見えた。  武田 「神谷町小歌舞伎」は中村橋之助、福之助、歌之助の「成駒屋3兄弟」による自主公演。歌之助が「義経千本桜・四(し)の切(きり)」の源九郎狐(げんくろうぎつね)の大役を勤めた。弾むような軽快な動きに、独特な抑揚が特徴の「狐詞(きつねことば)」を軽やかに操って、親思いのかわいらしい子狐を好演していた。

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