サッカー元日本代表監督の岡田武史さん（６８）が学園長を務める「ＦＣ今治高校里山校」（愛媛県今治市）が、開校２年目を迎えた。 　次世代のリーダー育成を掲げ、生徒が地域と関わりながら自立を目指す教育を実践する。初年度はＰＲ不足で定員割れしたが、主体性を尊重する教育が注目され、２年目の今年は国内外から定員の１・８倍以上の志願者が集まった。（松山支局　宇仁菅玲香） 特別授業にトヨタ会長や佐渡裕さんも 　サッカー・Ｊ２「ＦＣ今治」の運営会社で会長を務める岡田さんは２０２３年、同校を運営する学校法人「今治明徳学園」（今治市）の学園長に就任した。前身校は定員割れが続いており、立て直しを依頼された。 　教育は素人だったが、関心はあったという。「ＡＩ（人工知能）が発達するほど、人間には主体性が必要になる。タフで適応力があり、社会とつながる人材を育てたい」。学園長就任前の２０年から、参与や理事として教育を学び、方針を決めた。 　校名にクラブ名が入るが、サッカーを学ぶ学校ではない。目指すのは、学力によらず、「主体性」を育む教育だ。 　入試に筆記試験はなく、１泊２日のグループワークなどで意欲や適性を見る。数学の授業は、自分のペースで教材を解く「自学自習型」、互いに教え合う「交流型」、教諭が解説する「講義型」の３種類から生徒自身が選ぶ。 　岡田さんは足しげく、同校を訪れる。トヨタ自動車の豊田章男会長や指揮者の佐渡裕さんらによる特別授業のホスト役を務めたり、生徒や保護者との面談を担当したりしており、生徒からは「岡ちゃん」と慕われている。 オリジナル飲料を作り、ＦＣ今治のホーム戦で販売 　同校で欠かせないのが、地域との関わりだ。 　午後の授業は校外学習に充てられることが多く、地元企業と協力して課題解決を目指す「探究学習」などを行う。四国八十八か所霊場を巡る野外学習にも取り組み、２年生は昨年、５泊６日で四国地方を約１２０キロ歩いた。 　生徒の多くは寮生活だが、３年生は寮を出て自分で住む場所を探さなければならない。地域の人のサポートを受けて空き家を改修したり、民家を間借りしたりすることを想定している。 　２年生の男子（１６）は、地元農家からもらったレモンや甘夏を使ってオリジナル飲料づくりに取り組み、５月末にはＦＣ今治のホーム戦で販売した。「挑戦と失敗を繰り返しながらやってきた。地域で活動するのは楽しい」と話す。 　定員は１学年８０人。１期生の入学は３４人のみだったが、岡田さんの積極的なＰＲなどで今春は１４６人が出願。全国２４都府県とシンガポールから８５人が入学した。１年生の男子（１５）は「学校を飛び出して、色んな経験をしながら学べる環境が良いと思った」と話す。 主体性を持って動く「キャプテンシップ」持つ人材を…岡田武史さんインタビュー 　岡田さん＝写真＝に同校について聞いた。主なやりとりは以下の通り。 ——教育方針は。 　社会が劇的に変わろうとしている時に、今までと同じ教育でいいのか、という思いがあった。僕は教育のど素人。「やってみなきゃわかんない」と踏み出した。 　今後は誰も正解がわからない時代が来る。学校では多様な考えの人がいるコミュニティーで主体性を持って動き、落としどころを見つけられる「キャプテンシップ」を持つ人材の育成を目指している。高校の３年間で、社会に出ても自分の力で歩けるようにしてやらなきゃだめだ。 ——１年間を振り返って。 　１期生は８０人の枠に３４人しか来ず、ショックだった。それでも勇気ある生徒が来てくれた。生徒同士のトラブルや寮の騒音など、問題もたくさん起きたが、今は成長を感じさせてくれる。 　生徒たちは地域にも溶け込んでいる。３年生になれば寮から出て地域の中で暮らさなければならない。今からどんどん外へ出て、おじいちゃん、おばあちゃんと知り合い、居候先を探している（笑）。 ——やりがいは。 　地域に生徒を送り出すのは心配もあるが、学校での日々は本当に楽しい。１期生が今後、どんな進路を歩むかが今から楽しみだ。 　ある大学関係者は「チャットＧＰＴにやらせたら満点を取るような一般入試の結果を競っても仕方ない。これからは総合型選抜の枠を増やす」と言っていた。今後、大学や企業が欲しがる人材は変わる。うちのような教育を受けた子が活躍できるようになるはずだ。