２０１１年の東京電力福島第一原発事故を巡り、東電株主４０人超が旧経営陣に対し、事故対応で生じた損害約２３兆円を東電に支払うよう求めた株主代表訴訟の控訴審判決で、東京高裁は６日、勝俣恒久・元会長（故人）ら４人に計１３兆円超の支払いを命じた１審・東京地裁判決を取り消し、株主側の請求を棄却した。 　逆転敗訴となった株主側は、判決を不服として最高裁に上告する方針。 　判決で木納敏和裁判長は「東日本大震災による巨大津波の襲来を具体的に予測できず、対策を怠ったとは言えない」と述べ、旧経営陣の賠償責任を否定した。 　訴えられたのは、勝俣元会長のほか、清水正孝・元社長（８０）、武黒一郎・元副社長（７９）、武藤栄・元副社長（７４）、事故前年に常務になった小森明生氏（７２）。昨年１０月に亡くなった勝俣元会長については、遺族が訴訟を引き継いだ。 　２２年７月の１審判決は、国の機関が０２年に福島県沖で巨大地震が起きる可能性を公表した「長期評価」を「日本のトップレベルの研究者によって取りまとめられた」とし、これを根拠に「巨大津波を予測できた」と指摘。対策を指示していれば事故を防げたのに怠ったとして賠償責任を認めた。 　控訴審では、長期評価が、巨大津波を予測して対策を義務付ける根拠となるかが争点となった。 　高裁はまず、事故を防ぐ対策として国民生活や企業活動に多大な影響が及ぶ原発の運転停止が求められたとし、こうした対策を義務付けるには、これを正当化する程度の合理的な根拠が必要だと指摘。長期評価はデータが少なく信頼性が低いとされ、国の防災対策にも採用されなかったなどとし、津波を予測して対策を義務付ける根拠には不十分だと述べた。 　その上で、「旧経営陣は事故の損害に大きな社会的責任を負うが、津波を予測できない以上、法的な責任を認めることはできない」と結論付けた。ただ、事故を経験した現時点では「電力会社の取締役に、より一層重い責任を課すことを検討すべきだ」とも付言した。 　事故を巡っては、争点が共通する二つの刑事・民事裁判で、最高裁が「巨大津波は予測できなかった」「対策を取ることはできなかった」とする判断を示している。