移動の権利と自由はなぜ重要なのか? コロナ危機でドイツのメルケル首相がスピーチで語ったこと

この世界には「移動できる人」と「移動できない人」がいる。 日本人は移動しなくなったのか? 人生は移動距離で決まるのか? なぜ「移動格差」が生まれているのか? 発売即重版が決まった話題書『 移動と階級 』では、通勤・通学、買い物、旅行といった日常生活から、移民・難民や気候危機など地球規模の大問題まで、誰もが関係する「移動」から見えてくる〈分断・格差・不平等〉の実態に迫っている。 (本記事は、伊藤将人『 移動と階級 』の一部を抜粋・編集しています) ドイツ首相が込めた「移動の自由」への思い 「私は保証します。旅行および移動の自由が苦労して勝ち取った権利であることを実感している私のようなものにとっては、このような制限は絶対的に必要な場合のみ正当化されるものです。そうしたことは民主主義社会において決して軽々しく決められるべきではなく、一時的にしかゆるされません。しかし、それは今、命を救うために不可欠なのです。」(Mikako Hayashi-Husel訳:2020) 2020年3月18日、ドイツのメルケル首相(当時)は、就任後14年あまりのなかで初めて、恒例の大みそか以外でテレビ演説を行った。新型コロナの感染拡大を受け、今回の危機がドイツにとって「東西ドイツ統一以来、第二次世界大戦以来の市民による一致団結した行動が重要な事態」であることを、国民に伝えるためだった。 彼女は、演説を通して個人の移動を大幅に制限する措置への理解を求めた。 では、なぜ、メルケルはテレビ演説で旅行と移動の自由にあえて言及したのだろうか。 スピーチの背景にあったのは、旅行や移動の自由はドイツ国民が“苦労して勝ち取った権利”であり、自分たちにとって大切な移動の自由を制限することへの心苦しさであった。鍵を握るのは、ヨーロッパ、ドイツにおける移動の自由と権利の歴史、そしてメルケルの過去の経験である。 第二次世界大戦後、ドイツは東西に分断された。ベルリンの壁がつくられてから崩壊するまでの間に、多くの人が壁を越えようとして犠牲になった。 1989年、「東ドイツ市民の旅行を自由化する」という誤った発表(実際は許可書の大幅規制緩和)により、市民が壁に大量に押し寄せた。そして、ベルリンの壁は崩壊した。 つまり、ドイツは自由に旅行や移動ができた時代から、壁によって移動を制限された時代を経て、壁が壊れる/壁を壊すことで移動の自由を獲得し一つになったのである。これが、“苦労して勝ち取った権利”という言葉が意味する歴史である。 それでも少しの疑問は残る。果たして、旅行や移動の権利は、それほど大きな価値をもつ大切なものなのだろうか。 本記事の引用元『 移動と階級 』では、意外と知らない「移動」をめぐる格差や不平等について、独自調査や人文社会科学の研究蓄積から実態に迫っている。 【つづきを読む】この世界には「移動できる人」と「移動できない人」に大きな格差があるという「深刻な現実」

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