［ミスターの記憶］＜５＞ 　「亮子ちゃん、元気？　えっへっへ」——。 　いつも優しい笑顔で声をかけてくれた。３日、ご自宅へ弔問にうかがうと、今にも話しかけてくれそうな穏やかな表情。「三奈ちゃんとまた一緒に食事に行きましょう」。心の中で、そうつぶやいた。 　中学３年生だった１９９０年の福岡国際女子柔道選手権４８キロ級で優勝し、東京都内で行われたスポーツ賞の表彰式に出席した時のこと。「田村亮子さんですね」と呼んでくださった。当時の私は身長１メートル４３くらいで、長嶋さんは１メートル８０ぐらい。体の大きさだけでなく、巨大なオーラを放つ姿は今も忘れられない。その後は大会前後に激励会や祝勝会を開いていただき、いつも応援してくれた。 　２０００年のシドニー五輪前には、横浜での激励会で「亮子ちゃん、今回は金メダルを取るよ」と言ってくれた。バルセロナ、アトランタと２大会連続で銀メダルだった私の悔しい思いをくみ取ってくれていた長嶋さん。自身のデビュー戦で４三振したことを引き合いに出し、「苦い思いや屈辱を味わったからこそ、足元を見直すきっかけになった」と教えてくれた。 　便箋３枚にわたる手紙もいただき、力がみなぎった文字で思いがあふれてくる言葉がつづられていた。「今回は絶対に大輪の花が咲くから」。私のお守りとなり、決勝の舞台に上がる前には手紙を読み返して力に変え、念願の金メダルを手にすることができた。 　いつも絶妙なタイミングで連絡をいただき、よく赤いバラの花束を贈ってくれた。結婚式の披露宴では主賓あいさつをしてくれたり、壇上で音頭をとって盛り上げてくれたり。何げなくさらりとされることが、魅力あふれることばかり。目配り、気配り、心配りが行き届いていて、ファンを愛する人でした。私にとっての英雄。心の中でも、ずっと輝き続けてくれる存在です。（西部運動部　平島さおり）