【前後編の後編/前編からの続き】 石破茂首相(68)が政権浮揚の切り札に登板させた小泉進次郎農水相(44)。就任して間もなく、随意契約による備蓄米放出がテレビでは評判で上々な滑り出しに見える。だが、現場に目を向けると「江藤米」の弊害をはじめ、ほかにもさまざまな問題が山積しているのだ。 *** 【写真を見る】雨の中大行列が… 備蓄米を手に入れようと朝から集まった人々 前編【「マスコミは小泉大臣に現状を伝えてよ!」 備蓄米放出でも問題は山積み… 「政府が民間在庫を把握できていない」現場から苦言】では、農水省が民間在庫を把握できていない問題などと併せ、備蓄米放出でも解決が見えないコメ問題について報じた。 小泉進次郎農水相 埼玉の米穀専門輸送業「G.R.TRANS」代表の山際満氏が言う。 「われわれは2桁台の精米を行う大手卸と契約を結んでおり、精米の配達に関しては関東でダントツです。例えばドン・キホーテさんにも普段から精米を届けているのですが、ドンキさんは玄米状態の備蓄米を自社で精米できません。ドンキさんは大手卸に精米を頼まねばならず、その精米をわれわれがドンキさんの各店舗に運ぶわけです。当面、運ぶのは都心の大型店が中心です」 山際氏は今回の備蓄米の配送が本格化するのは6月下旬になるとみるが、こんな不安があるという。 「前回までに入札された備蓄米のうち(3月分の)計21万トンが今さらになって、世に出始めているんです。今回の備蓄米と前回分の配送が重なって、目詰まりしないか心配です」 「最初に備蓄米を買ったのはなんだったのだ、と」 この点、さる老舗米問屋もこう語る。 「3月の2回目の入札時に20トン備蓄米を注文したのですが、5月中に届く予定が延びて、6月に入ってからようやく届くことになりました。われわれは江藤(拓・前農水相)さん時代に放出された備蓄米を、随意契約の価格よりも1俵1万円以上高く買っています。最初に備蓄米を買ったのはなんだったのだ、と思います」 同じ備蓄米でも「江藤米」は5キロ3000円台、「進次郎米」は約2000円と、値付けに1000円以上の差が出る見込みだ。せめて、「江藤米」さえ予定通りに搬送されていれば今般の逼迫(ひっぱく)した状況に至らなかったはずである。 山際氏が苦言を呈する。 「そもそも、物流がうまくいっていたら3月の政府の21万トンもとっくに配り切っていたはずです。なのに、今度のヤツも“早く売って”と催促するだけ。小泉さんは、何を言っているんですかね。どこかで血管が詰まっているから、血流が止まっちゃっているんじゃないですかって話です」 「重労働に耐えられる運転手さんがいない」 さらに、現場ではこんな問題も。 「今、配送業者でコメを扱えるところがすごく少ない。玄米は1袋30キロ。コメをトラックの荷台からバラで(手作業で)下ろす重労働に耐えられる運転手さんがいないんです。フレコン(大容量の袋)やパレット(荷役台の板)で搬送して、フォークリフトで荷下ろしすれば運転手の負担は減りますよ。でも、狭い荷下ろし場所ではフォークリフトは使えませんし、パレットを持ち出せない倉庫や精米工場が大半なんです」(山際氏) ある長距離輸送専門大手の役員もこう言う。 「備蓄米を輸送できるかという問い合わせは複数あるものの、うちではお受けできていません。6月中旬以降はお中元や清涼飲料水などの運送が多い時期で、元々繁忙期なんです。また、働き方改革の影響でトラックの運転手に長時間労働を課することができなくなったという事情もあります」 「精米工場の確保に必死」 問題は物流だけにとどまらない。 経済部デスクの話。 「備蓄米の大半は長期保存に適した玄米ですが、白米に加工できるコメ卸などの精米工場の数には限りがあります。独自の精米能力を持たない小売り各社は精米工場の確保に必死です」 精米処理能力のキャパオーバー及び配送の遅滞という流通上の問題は、一朝一夕には解決できそうにない。 「値段が下がったとしても、せいぜい300円程度」 「小泉農水相は“まずは熱過ぎるコメのマーケットを冷ます”と随意契約による備蓄米の放出を正当化しています。実際、全国のスーパーで先月25日までの1週間に販売されたコメの平均価格は5キロ4260円(税込)と前の週から25円下落し、3週間ぶりに値下がりに転じました。ですが、現実に備蓄米が市中に行き渡らなければ、今後の効果は極めて限定的になるのは明らか。特に、価格帯の異なる銘柄米の値段はほぼ下がらないでしょう」(前出の経済部デスク) スーパー「アキダイ」の秋葉弘道代表もこう語る。 「連日お米を食べる様子や炊き立てのご飯がテレビに映るせいか、お米の販売量自体が増えています。ウチだと普段の120%ぐらいになっています。それに、今あるお米の在庫はすでに高値で仕入れたものです。値段が下がったとしても数百円、せいぜい300円程度だと思いますよ」 元農水相が進次郎氏を批判 コメの値段が下がらなければ国民の期待が失望に変わるのは自明だが、すでに厳しいまなざしを向けているのが農水族である。特に、野村哲郎元農水相(81)は先日、「ルールを覚えてもらわないといけない。森山(裕)先生からチクリとやっていただきたい」と語り、小泉農水相が党の農林部会に諮らず、備蓄米の随意契約に踏み切った点を批判し話題を呼んだ。 農水族のドン、森山幹事長(80)本人に話を聞くと、 「小泉さんがルールを守っていないわけではありません。大きく政策が変わる場合は与党としてもいろいろ考え方を申し上げなければなりませんが、今は安い米をどうスピーディーに届けるかが一番大切です。政府は執行権を持っていますし、今回は別に問題ないと私は思います」 「コメは国産であるべき」 一方、小泉農水相が積極的な姿勢を示す輸入米の拡大については、 「コメの輸入には慎重であるべきです。日本は瑞穂の国で古き時代から米を主食としてきました。食料安保の面からも、主食であるコメは国産であるべきです。小泉さんは、私が農水相だった時の農林部会長ですし、農家が損をしてはコメは作れなくなることをよく分かっている。そこは心配していません。そもそも外国産のコメの食味は日本人に合わないと思います」(森山幹事長) 輸入米の拡大にはくぎを刺しつつ、あくまで小泉農水相に理解を示すのである。 政治ジャーナリストの青山和弘氏は、 「年金法案も野党に掻っ攫われて、自民党が夏の参院選でアピールできるのはコメの価格と日米関税交渉くらいです。森山幹事長も夏の参院選までは、小泉農水相を見守る姿勢を続けるはずです」 参院選の投開票日まで残り2カ月を切った。今は満員御礼の「シン・小泉劇場」だが、観客の熱気が冷めれば千両役者の人気もろとも政権の運命もついえよう。 前編【「マスコミは小泉大臣に現状を伝えてよ!」 備蓄米放出でも問題は山積み… 「政府が民間在庫を把握できていない」現場から苦言】では、農水省が民間在庫を把握できていない問題などと併せ、備蓄米放出でも解決が見えないコメ問題について報じている。 「週刊新潮」2025年6月12日号 掲載