「すでに手遅れだ」と諦めの声も聞こえる少子高齢化の最先端、秋田で、少子化対策の法案が否決されてしまった。このままでは、人が消えてクマばかりが街中を闊歩することになりかねない……。現地を訪ね、ここまで少子高齢化が進んでしまった理由を聞いた。 前編記事『【なまはげより怖い…】出生率29年連続ワースト「日本一の高齢化県・秋田」で起きている「悲惨すぎる若者離れ」の現状』より続く。 「80歳お祝い金」廃止案が出たが…… こうした状況は「シルバー民主主義」といわれる。有権者が高齢者ばかりのため、政治家が高齢者向けの政策を重視し、若者の意見が反映されにくくなることをいう。 冒頭で紹介した仙北市では、'23年に市議会で「80歳お祝い金の廃止案」が否決された。「80歳お祝い金」とは、満80歳になる人に5000円、満100歳になる人に10万円を支給する制度で、全国に同様の条例がある。 '23年、少子化に危機感を抱いた田口知明市長(54歳)がこの条例を廃止し、その予算を少子化対策に充てることを提案したが、あっけなく否決された。この出来事がシルバー民主主義の象徴的な例として全国的に話題になった。 当時の議会で、「80歳お祝い金の廃止案」に賛成した澤田雅亮市議(34歳)が、否決された理由を語る。 「理由は、政治家がよく言う『説明が足りていない』というものでした。でも、反対に足る意見は特になかったという印象です。何をもって反対なのかわからず、怒りややるせなさを感じました。賛成したのは議員16人のうち4人くらいしかいませんでした」 別の議員は、「80歳お祝い金の廃止案は、当初は可決される流れだった」と、これまで表に出なかった事情を明かしてくれた。 市議会議員は「落ちこぼれで残念」 「公明党がいきなり手のひら返しで『こんなのダメだ』と言い出して意見を変えたんです。そこから自民系の会派も反対に回った。 おそらく、地域の高齢の支援者に強く言われて、公明党が日和ったのでしょう。当時は廃止案について『議論することが大事だ』『十分な説明がなされていない』などと言われましたが、そもそも議論なんて全然せずに採決されてしまったのです。 これこそシルバー民主主義ですよ。変化を嫌う。自分たちにわからないことを進められると、受け入れられないんです。ついていけないから。 シルバー民主主義の一番の問題は多数決です。多数のほうに固まれば、議論せずに楽なんです。調べたり考えたり議論したりするのは大変だから、新しいことをするのはやめようという話になる」 前出の小川氏は、「議員も役場の職員も、自分たちのことしか考えていない」と怒りを滲ませる。 「大きな声では言えませんが、市議会議員なんてクラスでも落ちこぼれの残念な連中しかいません。他所ではペコペコしても地元では大威張りしている。 市内の産業はことごとく右肩下がりで、勢いがあるのは葬儀屋と寺、建築・土木関係だけ。昔と変わらぬメンツが、少ない取り分を貪り合っているわけです」 「すでに手遅れだ」と諦めの声も 他方で、若者たちは秋田県の現状をどう感じているのだろうか。県内随一の国立大学である秋田大学の理工学部の学生は語る。 「秋田は海も山もあって、故郷としては最高です。でも、仕事をしたり子育てをしたりする場所ではないかもしれません。秋田に住むのは、上の世代のツケを払うことなんですよね。こうなるまで放置してきた自治体や国には不信感しかありません」 5月14日には、秋田大学の正門前でクマが軽自動車とぶつかったという報道もあった。別の学生はこう話す。 「ヤバいっすよ。秋田市の中心に近い大学でクマが出るとなると、どこにでもいるってことですから。クマとの共存なんて無理ですよ。秋田には就職先も少ないし、給料がヤバい(少ない)から、ここで一生過ごすのはありえない」 県の中央に位置する大仙市に住む若い男性は「秋田で生活する将来が想像できない」と語る。 「私は秋田市内の食品工場に勤務、妻はスーパーでレジ打ち、年収は二人合わせて400万円くらいです。 しばらく前に親父が病気になって、実家の田んぼを継いでくれと頼んできました。親の希望も叶えたいと思ってはいるのですが、宮城県の会社に転職することも考えています。でも、親を悲しませるので言い出せずにいるんです」 取材した若者の中には、保育士資格を取得したが、少子化で募集がほとんどなく、県外に出るしかなかったという人もいた。故郷に残りたくても残れない……それが秋田の若者の現実なのだ。 「すでに手遅れだ」と諦めの声も聞こえるが、この一年ほど、秋田では20〜40代の若手が続々と県知事や市長に当選しているのが唯一の希望だ。 2040年には、日本の高齢化率が今の秋田県と同じ40%になるという。秋田の惨状は、日本の未来を教えてくれているのかもしれない。 【こちらも読む】『秋田の山中に出没した「人喰いグマ」の「ヤバすぎる正体」…!報じられない地元の証言「どう見てもツキノワグマじゃねえ」「デカすぎる」』 「週刊現代」2025年6月9日号より 【こちらも読む】秋田の山中に出没した「人喰いグマ」の「ヤバすぎる正体」…!報じられない地元の証言「どう見てもツキノワグマじゃねえ」「デカすぎる」