ハイキングコースとして人気の高い「山の辺の道」沿いにある西山塚古墳（奈良県天理市萱生町）のふもとに今春、古民家を改修した民泊施設「ｃｏｆｕｎｉａ（コフニア）」がオープンした。 　「古墳で眠るのが夢」との言葉を、多くの人を巻き込んで実現。古民家を奈良の自然と歴史が調和したロマンをくすぐる施設に再生した。考古学ファンにとどまらず、評判は上々だ。（山田珠琳） ＳＮＳで活用案 　共同代表である前田知里さん（４３）は、京都府出身。元々個人で旅行会社を経営していたが、２０１９年に市内に移住。その後、薬膳料理教室を始めた。コフニアを開くきっかけとなったのは２１年。知人から長年空き家となっていた築１００年以上という７棟の古民家と古墳の一部の敷地を譲りたいと持ちかけられたからだ。 　西山塚古墳は前方後円墳で、全長は約１１４メートルある。墳丘上から埴輪（はにわ）が見つかっており、古墳時代後期の築造とされる。その東側のふもとにあったのが、古民家だった。近くに山の辺の道があり、何かの拠点にできないかと考え、当初は複数の店舗が入る商業施設を検討した。しかし、市街化調整区域だったために断念し、別の策を模索した。 　「古墳、もらっちゃった。ここで何かやりたい人集まれ」 　前田さんがＳＮＳで活用に関するアイデアを呼びかけると反響があった。その人たちとオンライン会議や現地ツアーを行い、アイデアを出し合うと、考古学ファンの１人から「古墳で眠るのが夢だった」との意見が出て、古墳との近さも考え、民泊施設として活用することにした。 　「『絶対おもしろい』と感じた」と共同代表を務める高野琢巳さん（６０）（東京都）。奈良の日本酒とリノベーションに興味があった高野さんはエンジニアを早期退職したタイミングで、前田さんの投稿を見つけ、取り組みに参加した。 延べ１６００人協力 　２２年に古民家の掃除を始めると、コロナ禍の影響が残る中だったが、学生や外国人ら約５０人が集まった。２４年３月以降、リノベーションに本格着手すると前田さんのＳＮＳでの発信力も相まって、ものづくりに興味がある人たちがボランティアで加わった。同年７月末の完成までに少なくとも延べ１６００人が協力した。 　施設のコンセプトも携わった人たちのアイデアが基になっている。東洋の陰陽五行「木・火・土・金・水」にちなんだ４棟の宿泊棟と、飲食棟１棟となった。洞窟のような雰囲気で、前方後円墳形の浴槽を備え、窓から墳丘を眺められる「土」の棟や、ロフトとツリーハウスがある「水」の棟など、こだわった部屋を楽しめる。 　昨年１０月から３か月間のプレオープン時には県内外から１８９組３４８人が訪れた。今年３月のオープン後も好評で、ＳＮＳには利用者の好意的な感想が相次いでいる。 　古墳のふもとにあり、周辺に里山の原風景が残るコフニア。大仏や鹿といった従来の奈良のイメージとは異なる。前田さんは「墳丘から見渡す風景など、ここでしか味わえない空間をぜひ楽しんでほしい」と話している。 　問い合わせは、コフニアのメール（reservationcofunia.co.jp）まで。