元宝塚歌劇団月組トップスターで、退団後は大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK)や日曜劇場『VIVANT』『アンチヒーロー』(TBS)など映像作品でも活躍を見せる珠城りょう。この夏、自身の大劇場トップお披露目公演『グランドホテル』でも縁のある音楽家モーリー・イェストンの生誕80年を記念するコンサートに出演し、再び“男爵”として歌声を披露する。そうそうたる顔ぶれとの共演に胸が高鳴るという珠城に、『グランドホテル』の思い出や宝塚退団後に自身に生まれた変化について話を聞いた。 【写真】珠城りょう、優しい笑顔からアンニュイな視線まで さまざまな表情を魅せる撮りおろしショット ◆重厚感ある『グランドホテル』は挑戦しがいのある作品 珠城が出演するモーリー・イェストン生誕80周年記念コンサート 『Life’s A Joy! Life Goes On!!』〜with 20years of Gratitude from Umeda Arts Theater〜は、『グランドホテル』『ファントム』『TITANIC』『NINE』『DEATH TAKES A HOLIDAY』など数々の名作で知られるモーリー・イェストンの生誕80周年を記念し、過去に彼の作品を彩った豪華キャストが集結し代表曲を披露する夢のステージ。城田優、加藤和樹、中川晃教などミュージカル界のスターのほか、宝塚OGからは安寿ミラ、涼風真世、和央ようか、真彩希帆ら華やかな顔ぶれがそろう。 ——モーリー・イェストンさんの生誕80周年をお祝いするコンサート。出演のお話を聞かれた時のお気持ちはいかがでしたか? 珠城:こんな記念すべきコンサートに呼んでいただけるなんて思っていなかったので驚きましたが、とても光栄でうれしかったです。ご一緒する皆さんもミュージカル界でご活躍なさっている方々ばかりで、どういうコンサートになるのだろうとワクワクしていますし、なかなか共演することのない皆さんから学べることや得るものがとても多いと思うので楽しみにしています。 ——珠城さんとモーリー・イェストンさんは『グランドホテル』でご縁がありますが、今回のコンサートには、宝塚での『グランドホテル』初演でオットー役を演じた涼風真世さんや、2016年上演のミュージカル『グランドホテル』で珠城さんと同じフェリックス・フォン・ガイゲルン男爵を演じられた伊礼彼方さんもご出演されます。 珠城:もしかしたら世代を超えたコラボレーションもご覧いただけるかもしれないですし、私のところだけではなく、いろいろなコラボレーションがあると思うので、楽しみにしていただければと思います。 ——今回演出を務められる生田大和先生とは、『グランドホテル』や『春の雪』などでご縁がありますね。 珠城:そうなんです。生田先生は細かいところまでこだわって作品を作られる印象があるので、今回はコンサートを演出されるということで、どんな世界観になるのだろうととても楽しみですね。 ——トップ就任時を振り返って、お披露目公演が『グランドホテル』とお聞きになった時のお気持ちはいかがでしたか? 珠城:『グランドホテル』を自分が上演できるということにびっくりでしたし、その中でも、男爵という役を自分が演じるということにもすごく驚いたことを覚えています。重厚感のある作品なので、自分にできるのかな?とも思ったのですが、とても挑戦しがいのある作品なので、全力で挑みたいなと思いました。 ——モーリー・イェストンさんの楽曲の印象はいかがでしたか? 珠城:どの曲も音域が広いのでとても難しかったです。難解なメロディもあったので体に入れていくのに時間がかかったのですが、とてもドラマティックで素敵な楽曲ばかりで、頑張って歌いこなせるようになりたいなと思いながらお稽古していました。中でもエリザヴェッタ・グルーシンスカヤとのデュエット曲「Love Can’t Happen」と、男爵が歌う「Roses at the Station」は自分にとって思い出深い曲なので、大好きですね。 今回のコンサートで、男爵の楽曲を歌うことになるのですが、お披露目が2017年なので、もう8年。今の自分が歌うとどんな形になるのだろう?という気持ちもありますが、観に来てくださるお客様に『グランドホテル』の世界観に浸っていただけるようにお届けしたいなと思っています。 ◆映像作品でのさまざまな経験が舞台にも活かせている ——大河ドラマ『べらぼう』や、『VIVANT』など映像作品でのご活躍も続きますが、映像での経験は舞台に活きていると感じられますか? 珠城:先日久しぶりにストレートプレイのお芝居に出演したのですが、映像の現場での経験がとても活きているなと感じました。セリフの言い方1つ1つをとってもそうなのですが、自分の中で今までの現場での経験というものが確実に糧になっているのを感じるので、ちょっとずつ自分の中で自信につながっています。 ——映像のお仕事の楽しさはどこにありますか? 珠城:映像はすべてにおいてリアルに作ってくださっているので、細かいところを見るのが楽しいです。デスクとかもその人が使っているような物をいっぱい置いてくださったり。『アンチヒーロー』の現場では、私の演じるキャラクターが編集者として所属する雑誌が「Sereno」という名前で、私のファンクラブの名前と一緒だったので「これは偶然かな?」とマネージャーと話していたんです。スタッフさんに「もしかして…」とお聞きしたら、「そうなんですよ!気付いてくれましたか!?」と。ちょっとしたシーンのために、ファンクラブの名前を忍ばせてくださったりするところにも感動しましたし、そんなこだわりを感じられてとても楽しかったです。それぞれのキャストさんとのお芝居も、よりリアルで肌感が全然違いますし、そうした違いを感じることも楽しいです。 ——舞台に対して改めて感じる楽しさもありますか? 珠城:舞台は360°観られていてエネルギーを使うので、映像とは表現の仕方が違ってくるという点ではとても楽しいですし、その日のお客様の空気によって、温度感が全然違ったりする点も魅力ですね。コメディー作品をやっていると、その日のお客様によって笑うポイントが微妙に違ったり。お客様の反応がダイレクトに感じられるというのは、舞台にしかないものですし、やっぱり舞台が大好きだなと改めて感じています。 ——舞台、ミュージカル、コンサートにドラマ、映画とほとんどのジャンルに挑戦されていますよね。あと残るは、声優のお仕事でしょうか? 珠城:これまで私の声が好きって言ってくださるファンの方も多かったのですが、私のことを知らない方も「ドラマ『人事の人見』を観ていて『どこかで聞いたことがある声だな』と思ったら、『20世紀号に乗って』に出ていた珠城さんだ! 声が特徴的だからわかった!」と言ってくださったことがあってうれしかったです。自分の声にコンプレックスを感じている時期もあったのですが、もしかしたらこの声を上手に磨いていけば武器になるのかもしれないなって思ってきました。声のお仕事もオファーお待ちしています!(笑) ——宝塚時代は、珠城さんをご存じの方が観劇に訪れることが大半だったかと思いますが、そうして作品を通して珠城さんという存在を知っていただけることはうれしいですよね。 珠城:本当にうれしいです! 私のことを知らなかった方たちが作品を見て興味を持って調べてくださることもとっても幸せですし、そのあとも気になって密かに応援しています!みたいなことを言っていただけると励みになります。 ◆宝塚退団から4年「やっと自分に優しくできるように」 ——宝塚をご卒業されたのが2021年なので、もう4年経つんですね。 珠城:あっという間でした。ついこの前、「今やっと3年なんですよねー」と言っていたと思ったらもう4年。早すぎてびっくりしてしまいます。 ——この4年でご自身に生まれた変化はありますか? 珠城:宝塚時代は自分の土台でありますし、それがあったから今があると思っています。でもちょっと自分に厳しくしすぎていた部分がどこかあったなとも思って…。この3〜4年でやっと自分に少し優しくできるようになりました。 ——『月雲の皇子』『桜嵐記』など印象的な作品も多いですが、ご自身が考えられるターニングポイントになった作品はどの作品でしょう。 珠城:いっぱいあるんですけど、なんでしょう…。一番は、それこそ生田先生に演出していただいた『THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット ピンパーネル)』 で、入団3年目で新人公演の主演をさせていただいたことが大きかったかもしれません。そこから私の宝塚人生というのは大きく変わっていったと思うので…。あの作品が一番のターニングポイントだったかもしれないです。 ——ご卒業後、外から宝塚をご覧になって、どんな感想をお持ちですか? 珠城:やっぱり華やかな世界だなと思います。華やかな世界ですし、そこにしかないものがある。総合芸術として、衣装、舞台美術、セット、オーケストラがすごく贅沢に作られているなということを感じますね。 ——珠城さんの94期も、久城あすさんが卒業公演中ですし、羽立光来さんも退団を発表されました。杏野このみさんのみになってしまいます。 珠城:気付いたらうちの期も立て続けに退団が発表されて、「あぁ1人になっちゃうんだ」って…。時の流れの速さを感じていますね。 ——お忙しい毎日かと思いますが、プライベートで今ハマっていることはありますか? 珠城:ネイルですね。私、マニキュアを自分で塗るんですよ。お仕事やその時の気分で変えることが楽しくって。気付いたらいろんな種類が集まってしまっています(笑)。 宝塚時代は男役だったのでネイルができなかったのですが、辞めて初めてジェルネイルをしたんです。でももともと爪が薄いみたいで、地爪が弱くなってしまったんですね。ジェルネイルは向いてないけど、でも役としてネイルはしてみたいなと思って自分で買い始めたらハマってしまいました。季節に合わせて塗り替えたり、ネイル専門店に買いに行ったりすることが楽しいです。「これの近い色を持っているな。微妙に違うけど多分同じ色だしな」と悩んで我慢したり(笑)。取材の前に塗り替えたりするとまた気持ちが変わったりするので、それもすごく楽しみの1つです。 (取材・文:田中ハルマ 写真:高野広美) モーリー・イェストン生誕80周年記念コンサート『Life’s A Joy! Life Goes On!!』〜with 20 years of Gratitude from Umeda Arts Theater〜は、東京国際フォーラム ホールAにて7月19日〜20日、大阪・梅田芸術劇場メインホールにて7月26日〜27日開催。