警察や軍関係、暴力団組織などの内部事情に詳しい人物、通称・ブラックテリア氏が、関係者の証言から得た驚くべき真実を明かすシリーズ。今回は、ヤクザの引退宣言について。 【写真】数百人の組員が山口組・司組長を出迎える様子。日本中のヤクザが集結! * * * 若い頃から数十年、ヤクザとして生きてきた暴力団の元幹部が引退を決めた時のことだ。家族に引退を伝えると、元幹部も驚く想定外の反応が返ってきたという。 元幹部は1年ほど前から周りや家族に対して引退の意向を口にしていた。だが誰も彼が本当に引退するとは思っていなかった。かくいう著者もその一人で、やめようと思うと聞いても本気にはしていなかった。暴対法や暴排条例で規制がどんどん厳しくなっても、六代目山口組の分裂抗争にヤクザ業界が揺れても、コロナ禍で今までのシノギができなくなっても、元幹部は飄々とした顔で臨機応変に立ち回り、鋭い嗅覚で仕事を見つけ、時には法ギリギリのグレーゾーンで稼いでいたからだ。それだけ元幹部はどっぷりとヤクザの世界につかって生きていた。引退することに決めたと聞いても「誰が?」という感じだったのだ。 中でも驚いたのは元幹部の家族だった。だがその驚きは彼の想像とはまったく違うものだった。「若い頃からヤクザ稼業についていたもんだから、家族は俺が本当にヤクザをやめるとは思っていなかったんだな。死ぬまでヤクザと思っていたのかもしれない」と元幹部。実家は商売を営んでおり、暴力団とは無縁。だが中学時代から不良少年の仲間入りをし、高校では暴走族、お決まりのようにヤクザの道に進んだ。ヤクザになることに疑問も持たず、ヤクザが天職だと思っていたと話すほどヤクザ一筋、ヤクザ一色だった元幹部。家族にしてみれば、ヤクザ以外の彼の姿を見たことがなかったのだ。 元幹部がヤクザをやめる決心をした理由は「ヤクザがつまらなくなったから」だ。「暴対法に暴排条例、分裂抗争にコロナ禍で、ヤクザがやれることは少なくなった。六代目山口組が分裂した当時は、毎日がワクワクしたが、今はそんなこともない。ヤクザでいることがつまらなくなったんだ」。天職と思っていたヤクザ稼業が、時代や環境の変化で退屈なものになってしまったという。 「ヤクザに未練はないね」 「ヤクザをやめてやっていけるのか」 ヤクザをやめてカタギになると聞けば、今のご時世、家族にとっては諸手を上げて喜ぶような善事だろう。関東を拠点に活動するある組長は、自分が知るヤクザで刑務所暮らしを知らない者はまずいないと豪語していたほどだ。ヤクザになれば前科者になるのは必至で、前科何犯かはヤクザのステータスになると聞いた。暴力団の家に生まれ育ったのでなければ、身内にヤクザがいるというのは、前科者がいるということだ。家族の縁を切ってしまえば関係ないが、肩身が狭いと思う家族もいるだろう。 周りの人間や知人らに引退を伝えると「おめでとうございます」という返事が返ってくる。「これじゃあ定年退職みたいだな」と苦笑いする元幹部だが、家族に引退を聞いた時に想像していたのは「ようやく引退か」「これでカタギだな」と家族がほっと安心するし、喜ぶ姿。しかし兄弟たちは「本当にやめるのか? 大丈夫なのか」「それでどうやって生きていくんだ」「ヤクザをやめてどうする? 食べていけるのか?」と心配そうな顔をした。 「『ヤクザをやめてやっていけるのか』と言われた時には驚いたね。俺の仕事なんてブローカーみたいなもので、普通の会社務めのサラリーマンとは違うだろう。組を引退したからといって何かが変わるもんじゃない。『これまでと何も変わらない』と伝えると、不思議そうな顔をされたね」と話す。「言ってみれば組を辞めてヤクザを引退するというのは、”飼い犬”が”野良犬”になっただけだ。飼い犬といっても首輪がついていただけの放し飼い。エサは自分で調達しないといけないんだから、引退してもしなくても仕事は何も変わらない」と元幹部はいう。 元幹部にとって首輪が重かったのか、軽かったのかはわからない。引退が彼にとっておめでたいことなのかどうかもわからない。退屈でつまらない毎日から脱却するために引退を選んだという元幹部は、カタギになってゴルフを解禁した。 「カタギになったんでゴルフ場に行けるようになったんだよ。規制が厳しくなりヤクザはゴルフ場も出入り禁止。ゴルフはやめていたんだが、いい機会だから再開しようと思う」という。ゴルフはできるが、元幹部の背中には刺青があるためお風呂には入れない。「それでも俺はカタギだ。カタギの生活なんて学生時代以来だ。しばらくは”カタギ”生活を楽しむよ」、何気ない普通の日々を元幹部は楽しんでいる。