新車としては「最低」だけど「移動手段」なら十分 　国内の新車価格が高止まりしています。これは先進機能の強化や電動化などクルマ本体の高性能化に加えて、原材料費や輸送費の高騰も要因です。 　100万円台の新車もかなり少なくなりましたが、途上国では超ロングセラーかつ格安な、シンプルなモデルが愛されています。それがスズキ「ボラン」です。 パキスタンで41年間販売中の「ボラン」 【画像】超カッコイイ！ これがスズキの「100万円切り5人乗りモデル」です！ 画像で見る（61枚） 　ボランは1982年に登場しました。スズキのパキスタン法人であるパック・スズキが現地工場で生産するコンパクトバンです。 　どこか見覚えのある懐かしいデザインのエクステリアが物語る通り、ベースは1982年に登場した軽商用バンの初代「エブリイ」です。ただし、40年以上もフルモデルチェンジが実施されておらず、現在も一部の現地販売店で新車購入が可能です。 　ボディサイズは全長3255mm×全幅1395mm×全高1845mm、ホイールベースは1840mm。乗車定員は5人乗りです。 　1980年代当時の軽バンらしく、現行の軽自動車よりも小さなサイズで、道路整備が不十分な途上国の狭隘な道路でも取り回しのよさが光ります。 　エクステリアは初代エブリイの雰囲気がそのまま残る、飾り気のないシンプルなもの。 　フロントフェイスは角目2灯の大きなヘッドライトに簡素な無塗装バンパーがあるだけで、加飾としては、一応黒いグリル風ガーニッシュを備えてイメージアップを図っています。 　このほかはとにかくシンプルな装いで、大きな窓と手動スライドドア、Bピラーには現代のクルマでは見なくなったサイドマーカーランプを備えます。 　インテリアも実に質素で、加飾の類はほとんどありません。フロアカーペットや、ルーフ・ピラーなどの内張りも省略され、外板がむき出しのままです。 　助手席にはグローブボックスがあり、インパネも荷物が置けるスペースが設けられているだけ。運転席側は最低限の情報を表示する120km／hメーターが唯一装備されています。 　一応現行モデルでは、シートやドアにはブルーのアクセントカラーが配され、ちょっとしたワンポイントになっています。 　先進運転支援システムはおろか、機能装備ではパワーウインドウやエアコンなども一切ありません。最低限の安全装備としてフロントシートベルトがありますが、リアはオプション設定すらありません。 　ただし、唯一ラジオデッキが装備されており、BluetoothやUSB接続、MP3にも対応するなど、この部分は大進化しています。 　パワートレインは最大出力37馬力・最大トルク62Nmを発揮する796ccの直列3気筒エンジンに4速MTを組み合わせ、後輪駆動です。 　ラインナップは5人乗り乗用仕様のほか、最大積載量550kgを確保した2人乗り商用仕様を用意。パキスタンでの価格は194万パキスタンルピー（約99万円・バン仕様は4000ルピー高）で販売されています。 　快適装備や安全装備などの贅沢さはありませんが、価格は非常に安く、また長年の販売で信頼性も厚いため、本当に最低限の移動手段として考えるのであれば十分なのかもしれません。 ※　※　※ 　こうした古くてシンプルなモデルが愛されることには理由があります。 　途上国では未舗装で狭隘な道が多く、現代のクルマのような大きなボディサイズは必要なく、また安全基準や排ガス規制も緩く、コストのかからない旧設計のままで販売が可能なのです。 　さらに、発売当初から大きな改良を行わず陳腐化した設計も、むしろ簡単な工具や少ないパーツで容易に保守ができるメリットになっており、ロングセラーであることから整備のノウハウや予備パーツのストックも豊富です。 　そのため、ボランだけでなく登場から数十年経過した旧モデルはいくつかの途上国で現在も新車販売されていることは決して珍しくありません。 　なおスズキは2024年10月、ボランの後継となる「エブリイ」を発表しました。11月から現地で販売を開始しましたが、価格は1.5倍以上と非常に高額なモデルとなってしまいました。 　ただし、2025年6月現在もボランの新車在庫は一部で残っているようで、まだ新車で買うことが可能です。