ソフトバンクも日本の銀行もダマされた…「インドネシアの希望の星」と呼ばれた養殖ベンチャー「巨額粉飾」の闇

2024年末、インドネシア発の養殖支援ベンチャー「eFishery(イーフィッシェリー)」による巨額粉飾疑惑が表面化し、国内外の投資家や事業関係者に衝撃を与えた。 被害総額は少なくとも5兆ルピア(約430億円)とされ、日本のソフトバンクグループや地銀系ファンドも出資していたことから、その影響はインドネシア国内にとどまらず、日本にも大きく波及している。 かつて“養殖DXの星”と称えられたこのユニコーン企業が、いかにして空虚な「成功神話」を生み出し、多くの投資家を巻き込む形で粉飾へと至ったのかを追う。 若き起業家の夢 「インドネシアの養殖業は国の大きな宝だ」 こう語っていたのが、イーフィッシェリーの創業者であり、CEOを務めていたギブラン・フザイファ氏(解任)。バンドン工科大学(ITB)で水産養殖を専攻していたギブラン氏は、大学在学中から独学でIoT(モノのインターネット)に触れ、水産養殖の高コスト・高負荷の現場をテクノロジーで改善できないかと模索していた。 実際に養殖池を訪れれば、作業員が飼料袋を人力で運び、池へ撒く作業は重労働。残餌が底にたまり水質を悪化させ、病気や大量死につながるリスクもある。 そこでギブラン氏は、魚の動きを検知し必要量だけを自動給餌する「eFeeder(イーフィーダー)」の開発を思いついた。大学の友人や地元エンジニアたちが試作機づくりに参加し、やがて2013年に「eFishery」の企業化へとこぎ着ける。 当初のeFeederは決して洗練されていなかったが、2014年には初期モデルが完成。翌年から大規模養殖場での試験導入がスタートすると「餌代が10〜15%減った」「水質管理コストも軽減できた」という声が相次ぎ、養殖農家の期待が高まった。 地元メディアの報道や展示会への出展を重ねるごとに評判は高まり、やがて「インドネシアDXのホープ」として注目を浴びるようになる。 「垂直統合モデル」による拡大路線 しかしギブラン氏は、自動給餌機だけでは養殖農家の課題を根本的には解決できないと感じていた。小規模農家は資金力や信用力に乏しく、十分な設備投資が困難なケースが多い。 そこでイーフィッシェリーは、以下の「垂直統合モデル」を構想した。 (1)Feed:養殖で使う飼料をオンラインで少量から購入できるプラットフォーム (2)Fund(Kabayan融資):餌や設備などの代金を“後払い”にできる独自の融資スキーム (4)Fresh:育てた魚を直接買い取り、流通販売まで一貫して手がける この3本柱は「インドネシアの小規模農家を救う」「途上国の食糧問題を解決する」といった社会的使命と結びつきやすかった。 実際、国連をはじめ国際機関が支援する水産養殖プロジェクトの多くは、同様の視点から技術導入やサプライチェーン改善の重要性を強調しており、イーフィッシェリーのビジネスモデルは投資家にとってもわかりやすい“成功物語”に映った。 投資が過熱、ソフトバンクも参入 2010年代後半、東南アジアのスタートアップには世界的な投資マネーが相次いで流入する。インドネシアでは配車アプリの「ゴジェック」やEC大手「トコペディア」が次々とユニコーン企業へ躍進。外資はもちろん、日本のソフトバンクグループや大手商社、さらには金利低迷に悩む地銀系ファンドまで、幅広く同地域への投資チャンスを狙っていた。 イーフィッシェリーの躍進を象徴するのが、同社が投資家向けに示した「ホッケースティック・カーブ」である。 養殖農家へのサービス利用者数や自動給餌機の累計導入台数が前年比数百〜数千%という伸び率を誇り、年を追うごとに営業利益が「倍々ゲーム」で増え続ける——そうした示唆的なグラフとともに、メディアの見出しを飾る「急成長新興企業」のイメージが確立していく。 特にESG(環境・社会・ガバナンス)要素が絡むと、投資家サイドの社内決裁も得やすくなる。貧困農家を救い、環境にも優しく、生産性を高める——これ以上に“魅力的”な投資テーマはそう多くない。 インドネシアの人口2億8千万人という巨大市場、さらには周辺ASEAN諸国への展開可能性も視野に入ることで、多額の資金が一気に流れ込んだ。 実際、2020年には北米や東南アジアのファンドが総額2000万ドルを出資。続く21年にはソフトバンク・ビジョン・ファンド2(SVF2)やセコイア・キャピタル、シンガポール政府系のテマセクが9000万ドル超を投じ、企業評価額は一時4億ドル超へ。マスコミは「次世代ユニコーンの本命」と大々的に報じた。 「見本」の養殖池だけを案内 しかし、この時点で既にいくつかの「不透明さ」は指摘されていた。投資家や関係者が現地視察を要望すると、ギブラン氏らはあらかじめ整備した「見本」の養殖池だけを見せ、そこに協力農家やスタッフを集めて好調な数字を説明させていたという。 また「大手監査法人が監査している」と大々的にPRしていたが、実は全社的なフルスコープ監査ではなく、特定範囲だけの部分監査にとどまっていたとの証言もある。 だが、世界的ファンドが共同で出資を決めた安心感もあり、多くの投資家は事業の中身を深掘りするより、むしろイーフィッシェリーが示す“輝かしい将来”に期待を寄せた。 こうして、後に粉飾が明るみに出る“種”は、この頃すでに蒔かれていたのである。(後編【ソフトバンクも農林中金も「ESG」にダマされて大損失…世界を揺るがすインドネシア養殖ベンチャーの「巨額粉飾」その一部始終を追う】に続く) 「ヤマトがアマゾンの植民地に…!」現場社員が外資メソッドに悲鳴を上げる「配送のリアル」

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