ソフトバンクも農林中金も「ESG」にダマされて大損失…世界を揺るがすインドネシア養殖ベンチャーの「巨額粉飾」その一部始終を追う

2024年末、インドネシア発の養殖支援ベンチャー「eFishery(イーフィッシェリー)」による巨額粉飾疑惑が表面化し、国内外の投資家や事業関係者に衝撃を与えた。 被害総額は少なくとも5兆ルピア(約430億円)とされ、日本のソフトバンクグループや地銀系ファンドも出資していたことから、その影響はインドネシア国内にとどまらず、日本にも大きく波及している。 前編はこちら【ソフトバンクも日本の銀行もダマされた…「インドネシアの希望の星」と呼ばれた養殖ベンチャー「巨額粉飾」の闇】 創業者が告白「生活守るため数字を盛った」 2024年末、イーフィッシェリーの粉飾疑惑が報道されるや否や、創業者ギブラン・フザイファ氏はインドネシアのメディアに単独インタビューで応じ「数字を水増ししていた」事実を認めた。 「正直にやって潰れるより、多くの生活を守るために数字を盛った」 同氏によると、イーフィッシェリーは2017年末に深刻な資金難に陥っていた。翌18年以降、売上や利益を2〜3割かさ上げし、投資家向けには「前年比数千%の成長」を大げさにアピール。社内用と外部向け用の「二重帳簿」を作って虚偽の数字を作成していたという。 さらに、養殖農家が利用する「Kabayan融資(Fund)」についても、当初の説明では銀行やフィンテックと連携して貸付を行うはずが、実質的にはイーフィッシェリー自身が資金を直接貸し出していた。 農家の経営不振や自然災害などで貸倒れが相次ぎ、キャッシュフローは急速に悪化。自動給餌機製造、水産物買い取り、餌在庫の確保といった事業拡大のための資金も重なり、銀行融資への依存度が高まっていった。 粉飾を加速させた“投資家のプレッシャー” 2021〜22年にかけてソフトバンク・ビジョン・ファンド2(SVF2)やセコイア・キャピタル、テマセクが相次ぎ巨額投資を行う際、イーフィッシェリーはより一層「数字の盛り」を徹底した。 大口ファンドが実施するデューデリジェンス(投資検証)をクリアするために、現地養殖池での説明をシナリオ化し、担当者が用意された数字を暗唱。自動給餌機の累計導入台数を「40万台超」と大々的にPRしていたが、実際には2万4千台ほどしか稼働していなかったという。 こうした大掛かりな偽装が破綻したのは、23年の監査段階で起きた内部告発が契機となった。 外部のフォレンジック調査が導入されると、数年にわたる二重帳簿や架空の売上計上が次々と露呈。24年末には「同社が18年以降、連年で巨額赤字を隠蔽していた」事実が報じられた。 取締役会は即座にギブラン氏および共同創業者クリスナ・アディティア氏を解任し、25年初頭には両名に対する刑事告発が行われた。 日本勢にのしかかる損失 この粉飾決算により、かつて10億ドル超とされたイーフィッシェリーの企業評価額は一気に暴落。株式の実質価値は「紙くず同然」となり、ソフトバンクグループは数百億円規模を投じていたとみられるが、9割以上が回収不能に陥ったという。 一部報道では「1ドルあたり8〜9セント程度しか返金されない見通し」とされるなど、ソフトバンクにとって、ウィーワーク問題に続く痛手として注目を集めている。 さらに日本の農林中央金庫が運営するファンド「農林中金キャピタル戦略協創1号ファンド」も、2023年7月に“第一号案件”としてイーフィッシェリーへの投資を発表したばかりだったが、粉飾発覚後に事実上の評価損を抱えることとなった。 日本の地方銀行が共同で立ち上げた海外投資ファンドや、ソフトバンク関連ファンドに出資している地銀も、間接的に多額の損失を被るとみられる。 特に、30の地方銀行が出資し約1500億円を運用する「みらい地域共創投資事業有限責任組合」(通称「みらいファンド」)が、SVF2に100億円を投資していた例が顕著だ。 出資先の一つにイーフィッシェリー株が含まれていたことから、約5億円の評価損が発生したとみられ、一部の地方議会で「地域創生の資金が遠い国のベンチャーに消えた」と批判を浴びている。自己資本比率が低めの地銀ではリスクウェイトの上昇によって融資金利や商品設計に影響が及ぶケースもあり、家計にまで波紋が広がり始めている。 「ESGの美名」で甘くなった審査 「養殖DX」の要素と「途上国の貧困解消」という分かりやすい物語で、世界的な投資家から巨額の資金を集めながら、実態は二重帳簿と数字の偽装による虚飾だった——この事実は、インドネシア国内のみならず、海外投資家に「現地調査やガバナンス重視の重要性」を改めて知らしめるものとなった。 ある金融関係者は「ESGという美しい旗印を掲げると、細部の実態確認やリスク評価が疎かになりやすい」と指摘する。自動給餌機自体が本当に革新的かどうか、また農家の融資リスク管理をどう行っているのか——こうした核心部分を深く精査せず、大手ファンドの参画を「安心材料」として鵜呑みにした面は否定できない。 東南アジアのスタートアップには依然として大きな可能性がある一方、イーフィッシェリーの巨額粉飾疑惑は「海外投資こそ冷静な検証と綿密なデューデリジェンスを欠かせない」という厳しい教訓を突きつける。 かつては「養殖革命の旗手」と呼ばれた同社の急落ぶりと、その被害規模の大きさは、今後も投資家や金融機関の間で苦い思い出として記憶されていくことだろう。 ソフトバンクも日本の銀行もダマされた…「インドネシアの希望の星」と呼ばれた養殖ベンチャー「巨額粉飾」の闇

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