［ミスターの記憶］＜７＞ 「プレッシャーを楽しめ！」。 ファンだった長嶋さんが書いてくれた色紙を、社長室に飾る。この言葉が人生のピンチを救ってくれた。 セレクトショップ「ビームス」の代表取締役になった翌年の１９８９年、取締役や部長など多くの幹部が相次いで退社した。「自分の魅力や信頼はその程度か。新しい体制は作っていけるのか」。不安でいっぱいだった時、テレビのインタビューに答える長嶋さんが目に入った。 「プレッシャーは誰にでもある。それを楽しいと思えたら、その人は本物です」。長嶋さんが励ましてくれているように感じた。「本物の経営者になろう」と決め、立ち直ることができた。 小学校に入学した５８年、この年に巨人軍に入った長嶋さんが表紙を飾った雑誌の懸賞に母親が応募し、１等の双眼鏡が当たった。子供心に「長嶋さんがくれた」と感じた。それから７０年近く、長嶋さんは強運や勇気を与えてくれた。トイレは右から３番目しか入らず、ティッシュは３枚取った。生活の全てにミスターがいた。 ２００４年２月、長嶋さんらとゴルフをする機会に恵まれた。「ドンマイ〜」「ナイッショ〜」。初対面で舞い上がる自分を、長嶋さんはテレビで見慣れた明るい笑顔で励ましてくれた。 色紙はこの時に書いてもらった。長嶋さんは「何ですか、それ？」とインタビューを覚えていない様子だったが、みんなにサインをくれ、林に入ったボールを一緒に捜してくれた。脳梗塞（こうそく）で倒れる数週間前だった。 長嶋さんは体が思うように動かなくなっても、公の場に姿を見せ、みんなを勇気づけてくれた。訃報（ふほう）を聞いて心に穴が開き、声をあげて泣いた。長嶋さんは神様になったと思っている。 長嶋さんのように誰にでも明るく、公平に接していきたい。これからも天国からパワーをください。（経済部 石川泰平、おわり）
