認知症と「加齢によるもの忘れ」はどこが違うのか…忘れたことに気づけなくなったら要注意

認知症の人の介護はトラブルが多く、一筋縄ではいかないものです。さまざまな問題をかかえこみ、経済的にも悩みがつきません。ときにはつらさのあまり、介護をギブアップしそうになるでしょう。 しかし、認知症の人がすんでいる世界を理解すれば、介護をしやすくなるかもしれません。認知症の人は私たちの常識の基準とは少しずれている世界に生きていますが、どんな行動にもその人なりの気持ちや考えがあります。ただ、気持ちをうまく言葉にできないだけです。そして、その気持ちを理解する手がかりはあるのです。 この連載では、 『認知症の人の気持ちと行動がわかる本』 (杉山孝博監修、講談社刊)のエッセンスから、認知症と介護について、正しい知識と情報についてお伝えしていきます。認知症の人の思いやじょうずな介護の方法、利用できる社会制度・サービスを知れば、介護がぐっと楽になるはずです。 今回は、認知症の基本的な症状である「もの忘れ」について見ていきましょう。 認知症の人の気持ちと行動がわかる 第1回 認知症のすべての人にみられる「もの忘れ」 認知症と診断された人が、日々どのような思いで過ごしているのか、周囲の人にはなかなかわかりません。こちらが言うことは通じないし、ときには暴言や暴力など激しい言動が現れることもあり、介護者は疲労困憊してしまいます。 認知症の人がどのような世界にすんでいるかを理解すれば、じょうずな介護につながり、介護がラクになります。まずは認知症を理解するために、基本的な症状を知っておきましょう。 認知症の基本的な症状は、認知症のすべての人に例外なくみられる「もの忘れ」、つまり記憶障害です。加齢によるもの忘れとは違い、覚えていないだけでなく、忘れたことじたいに気づくのも難しいのが特徴です。 そのため、本人にとっては「不思議なこと」が起こります。ひどいもの忘れは、家族や周囲の人が、認知症を疑うきっかけのひとつになります。初期には本人も自覚している場合があります。 記憶障害は、認知症の症状別に3つに分けられます。(1)「記銘力の低下(新しいことが記憶に残らない)」、(2)「全体記憶の障害(まるごと忘れる)」、(3)「記憶の逆行性喪失(昔のことは覚えている)」です。 【もの忘れとの違い】 ●認知症 ・体験したことのすべてを忘れる ・忘れたことじたいを忘れる ・捜し物を人のせいにする ・もの忘れがだんだんひどくなる ・記号化されたものが苦手になる ・日常生活に支障が出ている ●加齢 ・体験したことの一部だけを忘れる ・忘れたことじたいは覚えている ・捜し物を人のせいにしない ・もの忘れがあまり進行しない ・記号化されたものでも使える ・日常生活に大きな影響はない 新しく経験したことが記憶に残らない 記憶には、次の3つの要素がありまず。 ・想起(自分の記憶を頭のなかから呼び起こし、再生すること。頭のなかの再生機能のような力) ・把持(新しい記憶を自分のなかに保存しておくこと。記憶の収納箱、フォルダのような役割) ・記銘力(新しく経験したことを自分の記憶として覚えこむ力。頭のなかのメモリー機能のような力) このうち、記銘力は認知症でもっとも低下します。たとえば、「今日は何曜日?」と聞いたばかりなのに、また「今日は何曜日?」とくり返します。よくあるケースですが、これは聞いた直後に忘れてしまっている「ひどいもの忘れ」の状態です。本人は毎回、初めてのつもりで質問をくり返しています。話が以前よりくどくなったり、つじつまが合わないことを言ったりすることもあります。 いま経験したばかりのことも記憶できないので、何度も同じ説明をされても、それを記憶することはできません。「さっきも言いましたよ」と言ったところで、本人は質問したことも答えも忘れているため、納得してもらえません。根気よく、何度でも同じ返事をくり返すようにします。 大切なのは、「本人の記憶になければ、本人にとっては事実ではない」という世界を認めることです。 起こったことをまるごと忘れる「全体記憶の障害」 記憶の一部が思い出せないことは健常者にもよくありますが、認知症の場合、起こったできごと全体をまるごと忘れてしまうのが大きな特徴です。よくあるのが、食事をした直後に食べたことを忘れてしまい、「まだ食事をしていない」と言い張るというケース。家族が「もう食べたでしょ」と言おうものなら、「ご飯を食べさせてくれない」と怒りだしてしまい、周囲はほとほと困ってしまいます。 こういうときには、食べたことを無理に思い出させようとせず、「おなかがすいたんですか」とローカロリーのおやつや飲み物、果物などを出しましょう。どうしても納得しない場合は、もう1食食べさせても、とくに健康上の問題はありません。過食の時期は活動量や排便量も多くなっているので、多少食べすぎても大丈夫です。 こういうケースもあります。「今日のデイサービスは楽しかったですか」と聞いても、「そんなところに行っていない」と、帰ってきてすぐなのに忘れているのです。 それに対して、「これは今日のデイサービスで、お父さんが作ったのよ」と手がかりを見せてもうまくいかないでしょう。「行ってもいないのに、なぜそんなことを言うのか。私にうそを言って思いこませようとしているのか」と、混乱させるだけです。 行ったことを思い出せなくても、デイサービスで楽しく過ごしてきたようだからよかったと割りきるようにします。 驚くほど昔のことをよく覚えている 最近のことはすっかり忘れているにもかかわらず、昔のことほどよく覚えていて驚かされることがあります。現在から数十年の記憶はごっそりなくしています。人生の記憶が新しいもの(現在)から過去へさかのぼって失われていく現象で、逆行性喪失といいます。 ある人は壮年期の男性だったり、ある人は10代の娘だったり。本人にとっての「現在」は、記憶に残った最後の時点です。それで、「お母さん、何歳になった?」などと尋ねてみると、今いつを生きているのかわかってきます。 本人は子どもの頃に戻ってしまったのか、娘を自分の母親と勘違いしているおじいちゃんもいます。言っている内容は子どものよう。本人の妻、おばあちゃんのことは「知らないおばあさん」と言います。 こういう場合には、「私はお母さんじゃない! 娘よ」と言っても、本人を悲しませるだけ。強く否定するのではなく、本人のいる世界に合わせるほうが、混乱せずにすみます。 『自分はいまどこにいる?目の前の人が誰なのか分からない!認知症になると起こる「ひどいもの忘れ」』へ続く。 【つづきを読む】自分はいまどこにいる?目の前の人が誰なのか分からない!認知症になると起こる「ひどいもの忘れ」

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