「美しさに思わず溜め息…昭和の女優さんたちはなんてきれいなんだろう」 日本人を魅了した35人の素顔

 昔はよかった。  年輩の方でそう思ったことがない方はいないだろう。良くも悪くもおおらかさがあったと感じる人は少なくない。 【写真を見る】「カワイイ…2度見するレベルだわ…」 政治家へ転身した「昭和の人気女優」  人によって懐かしむ対象はさまざま。有名人が胸襟を開いてメディアに登場していたのもそのひとつではないか。たとえば週刊誌のグラビアページには、今では考えられないような企画が並び、ファンはその素顔に心躍らせたものだ。  1956(昭和31)年創刊の「週刊新潮」には、石原慎太郎、三島由紀夫といった作家や早稲田実業時代の王貞治、立教大学時代の長嶋茂雄など、時代の「顔」が登場する。なかでも読者の目を引いたのは、全盛期を迎えようとしていた日本映画で活躍する女優たちだろう。撮影の合間や旅先、自宅などで撮影された貴重な写真は彼女たちの魅力を存分に写し出している。 映画撮影の合間に、あるいは旅先で、まさかの自宅で──。いまよみがえる銀幕の女神たち!(写真左より)団令子、八千草薫、野添ひとみ  それらの掲載写真と前後のアザーカットをちりばめたぜいたくな写真集『週刊新潮が撮った 昭和の女優たち』に寄せられた評論家・川本三郎氏の序文より抜粋引用して、女優たちが残した“語録”やファンの記憶に残る映画作品について振り返る。 映画人口11億2700万人、日本映画の黄金時代  昔の女優さんはなんてきれいだったんだろう。原節子から小林千登勢まで35人の女優さんたちの美しさにいまさらながら溜め息が出る。  昭和33年(1958)は映画人口が11億2700万人(国民1人あたり年に12回から13回、映画館に足を運ぶ)とピークに達した。この前後が質量ともに日本映画の黄金時代である。 (写真左より)乙羽信子、南田洋子  そしてまさにこの時期に撮影された、黄金時代を支えた女優さんたちの写真である。皆さん輝いている。  戦前から活躍している大女優——田中絹代、山田五十鈴、原節子、山口淑子(戦前の芸名は李香蘭)、高峰秀子。舞台でも大女優だった初代・水谷八重子、杉村春子。戦後に登場した新珠三千代、京マチ子、淡島千景、久我美子、淡路恵子ら。さらにこの顔ぶれのなかでは若手といっていい団令子、中原早苗、丘さとみら。  どちらかといえば準主役級の根岸明美、環三千世、弓恵子、安西郷子、また当時のマイナーな映画会社だった新東宝の池内淳子と三ツ矢歌子が入っているのが渋い。 (写真左より)山田五十鈴、月丘夢路  あまり指摘されないことだが、欧米の映画と比べて日本映画の大きな特色は、女性を主人公にしたいわゆる女性映画が多いこと。  名匠といわれる映画監督でも男性中心の作品が多い黒澤明を除いて、小津安二郎、木下惠介、成瀬巳喜男、溝口健二らは女性映画を得意とした。  そして、彼らの作品を支えたのが美しい女優たちだった。  戦前の女優は、花柳界や芸能界の出身が多かった。俳優と芸者のあいだに生まれた山田五十鈴がそのいい例だろう。映画はまだ特殊な世界とみなされていた。  戦後、それが変わった。戦後民主主義の時代になって、普通の小市民の家庭に育った女性たちが映画界に入りやすくなった。とくに各社が競ってはじめた、一般の女性たちを対象としたコンテストが女優の間口を広げた。南田洋子、団令子、丘さとみらがその例。 (写真左より)池内淳子、白川由美  また宝塚歌劇団出身者が多くなったのも戦後の特色だろう。戦前から活躍している月丘夢路、乙羽信子、越路吹雪がそうだし、戦後になると宝塚出身者は一気にふえる。  淡島千景、新珠三千代、八千草薫、環三千世、扇千景。いっとき宝塚は映画女優の養成所の感があった。 映画は“非日常の世界”のものだった  なぜ昔の、昭和の女優さんたちはこんなにもきれいなのだろう。  ひとつには、その後、娯楽の中心になるテレビが茶の間で見る日常の世界のものだったのに対し、映画は映画館という非日常の世界のものだったことがある。だから映画のなかの女優は、日常から離れた特別なオーラを持っていた。 いま蘇る銀幕の女神たち! 半世紀を超えて、なお輝く在りし日の美貌と艶麗!! 映画撮影の合間に、あるいは旅先で、まさかの自宅で──昭和31年創刊「週刊新潮」のグラビアを飾ったスタアたち。化粧を直す原節子、海辺の南田洋子、楽屋で談笑する越路吹雪、リビングでくつろぐ淡島千景……35人のスタア、在りし日の美貌を一挙掲載。アザーカットに残る意外な素顔、一瞬のしぐさも魅力の永久保存版 『週刊新潮が撮った昭和の女優たち』  この写真集のなかの何人かの女優さんには、以前、インタヴューしたことがある(拙著『君美(うる)わしく 戦後日本映画女優讃』文藝春秋、1996年)。  山田五十鈴、高峰秀子、淡島千景……いままでスクリーンのなかでしか見ることの出来なかった女優さんを目の前にすると、その気品あふれる美しさに正直たじろいだ。  黄金時代の女優さんは、映画史に残る名監督といわれる人たち、小津安二郎、木下惠介、黒澤明、成瀬巳喜男らの作品に出ることによって、演技のうえでも実人生でも鍛えられている。申訳ないがテレビに出る人たちとは、格が違う。 戦後の混乱期を乗り越え少女時代に疎開で苦労した人も  実人生といえば、日本映画黄金時代の女優さんたちは、世代的に戦争と戦後の混乱期を乗り越えてきている。  少女時代に疎開で苦労した人もいれば、戦後の混乱期に買出しに行ったりした人もいる。久我美子は、勤労動員で風船爆弾作りに関わった。戦前から活躍している杉村春子は、昭和20年の4月、空襲が激しくなった時代に東京の舞台で、劇作家の森本薫が彼女のために書き下ろした『女の一生』の舞台に立った。  こうした苦労の果てに女優の仕事がある。気構えが違う。  映画はモーション・ピクチュア、動く絵という。俳優は動いている。演技をしている。だからスクリーンのなかの女優の美しさは動きのなかの美である。動き、流れのなかに美しさが出る。  それに対して、写真は動のなかの静をとらえる。写真家は動きのなかの一瞬に美を見る。難しい仕事だと思う。  それでも写真家たちはみごとに静のなかにある動きの一瞬をとらえている。  手鏡を持ち化粧をする原節子。撮影所の出入口から顔を出す津島恵子。猫(シャムか)を肩に乗せて茶を注ぐ山田五十鈴。肩に小鳥を乗せた高峰秀子。楽屋で茶を飲む越路吹雪。『女であること』の撮影の合間、共演の森雅之を窓辺から見やる久我美子。広い居間でソファに横になり新聞を読む淡島千景。机に向かって原稿を書く田中絹代(ベテランの女優がまるで少女のよう!)。  とりわけ素晴しいのは、撮影中か上半身シュミーズをのぞかせながら電話をする淡路恵子。なんと素敵なこと!  写真家はよくあるポートレート写真とは違った女優さんたちの動きのなかの一瞬の美しさをみごとにとらえている。  映画作品に即して見てみよう。  山田五十鈴が派手な化粧、衣裳なのは、この写真が、久生十蘭原作、佐伯清監督の『母子像』(56年)で、サイパン島で生き抜き、戦後子どもと別れ、“パンパン”になった女性(母親)を演じているから。  月丘夢路の濃い化粧の着物姿は、伊藤整原作、井上梅次監督(月丘夢路の夫君)の『火の鳥』(56年)でハーフの恋多き人気女優を演じているため。  新珠三千代が楽屋で日本髪姿で映っているのは源氏鶏太原作、丸山誠治監督の『初恋物語』(57年)で、少年の相手をする芸者を演じているため。  安西郷子が黒髪を長くしているのは、円地文子の『黒髪変化』の映画化、筧正典監督の『結婚の夜』(59年)で、小泉博演じる青年に裏切られ、復讐をしようとする巫子の役のため。ちなみにこの映画、小品だがホラーとして実に見ごたえがある。安西郷子の代表作といっていいのではないか。以前、この映画を神保町シアターで見たとき、その怖いくらい妖しい美しさに驚嘆した。 「キスなんてしたことない」とざっくばらんな発言をした大女優  前述したように、このなかの何人かの女優さんにはインタヴューしたことがある。その時のことを思い出してみたい。  なんといっても、いちばんオーラを感じたのは山田五十鈴さん。当時、舞台出演が多かったため日比谷の劇場街に近い帝国ホテルに滞在されていた。  当初、「昔のことは振返りたくない」と断わられたが、東宝の人にあいだに入ってもらってなんとか了承を得た。それだけに気難しい方かと緊張したが、お会いすると笑顔を絶やさず、気さくな方。70歳を越えていたが毛皮のコートを羽織った大女優はあくまでも若く、あでやか。  話も面白く、映画と舞台の両方の仕事をしていたからスケジュールの調整が難しい、『用心棒』(61年)のとき、完全主義者の黒澤明のために仕事が押して、舞台に穴が開きそうになったので巨匠と喧嘩した話など、いまだからいえるとあくまでもおおらかに話してくれた。大女優の貫禄といえばいいか。ちょっとハスキーな声もなんとも魅力があった。予定の時間はあっというまに過ぎ最後は、「昔のことは振返らないなんて言っておきながらずい分話してしまいましたね」と笑顔で締めくくった。  高峰秀子さんはさっぱりとしていた。「わたしはエプロンと下駄の人。恋愛映画は苦手。キスなんてしたことない」とざっくばらん。映画界は実は苦手というのも正直。撮影が終わると仲間と飲んだりせずまっすぐ家に帰る。だから撮影は9時から5時までときちんと決まっている成瀬巳喜男の仕事はやりやすかったという。なるほど、それで『浮雲』(55年)、『女が階段を上る時』(60年)、『乱れる』(64年)と成瀬作品に秀作が多いのか。  久我美子さんは、“華族のお嬢さん”だからおしとやかで、物静かな方と思っていたが意外や陽気で、まるで女学生のようによく笑う。オムニバス映画『四つの恋の物語』(47年)の第1話『初恋』(豊田四郎監督)ではお転婆で木のぼりをしてみせた、あのまま。  映画の話になるともう話がとまらない。インタヴューの時間は2時間を予定していたが終った時には4時間になっていた。この写真集の久我美子の最初の写真、笑顔を見せている楽しそうな様子は、まさにあの日の久我美子を思い出させる。 『君美わしく』の時とは別のインタヴューで印象に深いのは、淡路恵子さん。前述したようにこの写真集の電話をしている姿もチャーミングだが、実際の淡路さんも素敵な方だった。  ブラウスの襟をちょっと立てて着るところなどキャサリン・ヘプバーンのよう。着こなし上手の方だった。それでいて大河内傳次郎を知らないという若いスタッフに「シェイは丹下、名はシャゼン」と丹下左膳の物真似をしてみせ笑わせてくれる楽しい方でもあった。  素敵だったのは池内淳子さんも。インタヴュー場でお会いしたとたん、思わず「なんて美しい」と声に出してしまった。当時、70歳を越えていた筈だが、年相応の大人の美しさがあり、気品があった。彼女もハスキーな声がよかった。  この日、夜、久世光彦さんにお会いする用事があって、「今日、池内淳子さんに会った。素晴しい人だった」と興奮していったら、久世さんに「今ごろ何をいっているんだ。池内淳子さんが素晴しいなんて、みんな知ってることだよ」とかわされてしまった。  この女優さんたちに会うことは、無論、もう出来ないが、映画のなかには皆さんの美しさが“動態保存”されている。  幸い、いま古い日本映画はテレビでは日本映画専門チャンネルなどで、また劇場では神保町シアターなどで見ることが出来る。“また逢いましょう”。 デイリー新潮編集部

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