【住民たったひとりの島に潜入】「ロビンソン・クルーソーに憧れて…」離島で13年間孤独に暮らす男の「意外すぎる経歴」

「離島に1人で13年も暮らしている男がいる」と聞いて、会いにいってみた。記者が島に着くと、男は、今は誰も使わなくなった公民館で、己の人生を話してくれた……。 前編記事『【この先、島の憲法あり】掟が厳しすぎて島民はただひとり「長崎県・時間厳守の島」に潜入、 元島民たちは「住むところではない」と視線を伏せて…』より続く。 そして、男は語り始めた…… 小金丸さんは薬缶を取りに自宅へ戻る。公民館の近くにある自宅は、本人曰く「豚の棲家のようだからね。男の一人暮らしはとても人様に見せられるものではない」と謙遜する。 「ここで待っててください。お茶を温めたから持ってきます」 彫の深い顔立ちに肩幅の広い立派な体格。白髪混じりの頭髪に日に焼けた精悍な顔つき。チェックのシャツにジーンズ姿はとても若々しい。地声なのか大きな声で話す様子はエネルギーに満ち溢れている。 「世界をあちこち巡り歩いてきましたけれど、私にとってただひとつの故郷はここ六島なのです。ここで暮らす島民が減り続け、無人島になることが目に見えるような状況を目にして、自分にできることは何かって考えたのです。 妻や子供、孫たちと都会で暮らすこともできたのですが、故郷の島おこし活動も祖国である日本に貢献することになると思いました。長年勤めたJICAでの海外経験をいかして、故郷六島でインターナショナルな民泊親父になり、交流人口を増やしたい。島民の去ったこの島を再び人の住めるようにしていきたい。厳しい選択でしたが、身体の動くうちにそういう選択をするのも、私にとっていい人生なのかなとね」 ロビンソン・クルーソーにあこがれて 小金丸さんはこの島で一人、半自給自足をしながら暮らしている。わずかばかりの米と肉は購入するが、自ら育てた野菜や果物に加え、天気がよくて気が向けば出漁して生活費の一部を稼ぎ、釣りあげた新鮮な魚をおいしくいただく。 一人、島内を整備し、畑を耕す。誰とも顔を合わすことのない孤独の日々。想像することしかできないが、どのような感覚なのであろうか。 「一人だから誰にも干渉されずにやれることもあるけれど、たった一人だからこその限界もあります。ロビンソン・クルーソーのようだと良く言われますが、ここには九州本土から電気が届き、水道水も供給され、スマホやパソコンがあれば世界中の人たちと瞬時に繋がることができる。皆さんが想像するよりも孤独感というものは少ないのですよ(笑) この島に戻ってきてもう13年が経とうとしています。あっという間に時間が、季節が、人生が流れていったような気分です。島暮らしは呑気なものだと考える方が多いと思いますが、そんなことはありません。早朝から、草刈りや畑の手入れ、島の中心部の整備など体がいくらあっても足りません」 小金丸さんに幼少期の島のことを尋ねてみた。 「今は私一人ですが、子供の頃は大勢の島民がいました。知り合いしかいない島です。皆とても仲良くて毎日がとても楽しかった。分校にも80人くらい子供がいましたよ。各家で役牛を飼っていて、毎朝、学校に行く前に海の見える牧場まで牛を連れていき、杭を打って放牧するのが子供達の役目でした。学校以外の時間は日が暮れるまで自然の中で遊びました。ここは一年を通じて気温が穏やかでしょう。ずっと外遊びをしていたから、体は丈夫なのかもしれないね」 蝋燭の灯りで勉強 「当時、この島から高校に上がったのは私含めて2名だけでした。あとは集団就職で出ていってしまった。娯楽のない島でしょう。私にとっては読書をすることが世界につながる唯一のものだった。 家には本はありませんでしたが、島の分校に、県の教育委員会から送られてきた古本が教室の片隅にある図書棚に一杯あったんです。小学校高学年から中学生の頃、ひとつ読み出したら止まらなくなって片っ端から読んでいった。 当時は村営発電所があり、夏は6時から10時まで、冬は5時から9時まで点灯し、それ以後は消灯でした。明かりがなくなると蝋燭の灯りで勉強や読書したことを思い出しますよ。 ロビンソン・クルーソーやハックルベリーフィン、海底二万マイル、十五少年漂流記、マルコ・ポーロの東方見聞録など、本を読むことで少年だった私の世界観が広がったわけ。この島で一生を終えるより広い世界に飛び出したいと強く願ったんです。勉強も頑張って島で一番になりました。 島には『長男は島に残って後を継ぐ』という不文律がありましたが、両親は私を高校、大学へと進学させてくれた。両親は六島の昔ながらの暮らしを続けながら生活費を削って私を外の世界に出してくれた。そんな親には心から感謝しています。 JICAで世界中を飛び回る 高校3年生の夏休みに、修学旅行を辞退して一人旅をしました。どうしても九州から出てみたかった。旅の資金は海に潜ってサザエをとって捻出し、先生から時刻表の読み方を教えてもらって、その先生の故郷・和歌山へ向かいました。 福岡から岡山、小豆島、高松、鳴門海峡、淡路島、潮岬、那智・瀞峡を経て、時刻表通りに橋本駅で先生と再会した時は、初めての大旅行を達成したことに感激しました。先生の自宅に一泊した後、先生が高野山を案内してくれて、大阪梅田の繁華街が旅のゴール。見知らぬ土地での初めての一人旅、私のその後の人生を決めた、そんな旅でした。 東京農業大学時代は、アメリカのアイオワ州の酪農家の家で一年間、住み込みで研修をしました。農場の規模、国民性の違いなど、国によって大きな差があるのだと感心しました。 ミシシッピ川、ヒューストン宇宙基地、ロッキー山脈、サンフランシスコ金門橋、ラスベガス、コロラド・グランドキャニオン、ディズニーランドなどを観光し、米国の大きさに圧倒されました。JICA(国際協力機構)に就職を決めたのも、自然の成り行きだったのです。 JICAでの派遣先はメキシコ、ブラジル、ボリビア、ペルー、パナマ、ナイジェリア、アフガニスタン、ナイジェリア、アフガニスタン、マラウィ、ベネズエラなど、特にアフリカや南米などの辺境国に赴任してきました。同僚たちが怖がったり行きたがらない国々を転々とさせられていたのです。 しかし、文化風習の違う国々を知る経験は宝になりました。私は、先進国よりも、自分の知見をより生かせる途上国に関心がありました。生まれ育ちが何もない島でしょう。同じような境遇の人たちと信頼関係をつくるのに、島暮らしの体験は非常に手助けになったのです。子供の頃から、農業と漁業のどちらも経験しているからね」 そうして、小金丸さんの人生を聞いていると、日本中を驚かせた”あの事件”の当事者だと判明する。 【つづきを読む】『長崎県・六島でひとり暮らす男が明かした「衝撃の経歴」…私は「ペルー大使公邸占拠事件」で人質になった』 【こちらも読む】日本に現存する「最後の土葬の村」…火葬で焼かれるのは、熱くて怖い、と村人は語る

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