「事務所を辞めたらテレビに出られなくなる」という脅し文句が通じない 「個人事務所」が増えたワケ

企画「個人事務所芸人」  一昔前までのお笑い界では、芸人は大手の芸能事務所に所属して活動するのが一般的だった。大手事務所の後ろ盾がなければ芸能界やテレビ・ラジオなどのメディアとのつながりを得られず、仕事を取ることができないと考えられていたからだ。  *** 【写真を見る】意外な面々が続々! ギャラを折半している「大物コンビ」と“してない派”の超人気芸人  だが、最近、その状況が大きく変わっている。大手事務所に所属せずに個人で活動をする芸人が増えているのだ。象徴的だったのは、5月29日放送の「アメトーーク!」(テレビ朝日系)で「個人事務所芸人」という企画が行われたことだ。  この日の放送では、さらば青春の光、ラランド、みなみかわ、キンタロー。など、個人事務所で活動をする芸人がゲストとして集められていた。大手事務所に所属していないから売れていないというわけではなく、テレビによく出ている芸人の中にも、個人事務所組がどんどん増えてきている。 さらば青春の光  とりわけ注目すべきは、さらば青春の光のケースである。彼らはもともと松竹芸能に所属していたが、のちに独立して「ザ・森東」という自らの事務所を立ち上げた。それだけでなく、自分たちだけでライブを企画・運営し、YouTubeチャンネルの映像制作やグッズ販売にも力を入れている。テレビ出演の一方で、劇場やネットを活用してマルチに展開するその姿は、まさに現代型の芸人像を体現している。  なぜこうした流れが加速しているのか。その背景には、芸人の活動フィールドが大きく広がったことがある。かつては芸人の仕事といえばテレビ出演とライブが中心で、それを取り仕切れるのは大手芸能事務所しかなかった。ところが現在では、YouTubeやTikTokといった動画配信プラットフォーム、さらにはSNSを通じた直接的なファンとのつながりなど、自力で発信できる場が格段に増えた。  このような新しいフィールドで活動していくためには、従来のような「事務所にお膳立てしてもらう」スタイルとは違い、自分たちで自由に企画を立てて、即座に実行できる柔軟性とフットワークの軽さが求められる。事務所の方針に縛られず、自分のやりたいことを実現するために独立という道を選ぶ人が出てきている。 あえて「フリー」で  かつての芸能界では、事務所を辞めたタレントが「干される」ということもあった。所属タレントが安易に独立してしまうことを防ぐために、出演先や移籍先に圧力をかけて、出演や移籍ができないようにする、ということが公然と行われていた。  しかし、最近では、公正取引委員会が芸能事務所のそのような動きは「優越的地位の濫用」にあたり、独占禁止法に違反するという見解をまとめたことで、業界の空気が変わってきた。少なくとも、あからさまに圧力をかけられるようなケースは激減している。  一昔前の芸能界でそういう慣習がまかり通っていたのは、芸能人が有名になるための手段がテレビに出ることしかなかったからだ。テレビの影響力が大きい時代には、そこに出るために事務所に所属するというのが唯一の選択肢だった。  しかし、現在では、芸能を志す人間が自分を表現するための場所はテレビ以外にもたくさんある。「事務所を辞めたらテレビに出られなくなる」という脅し文句が通じなくなっている。  もちろん、最近では既存の芸能事務所もYouTubeをはじめとする新しい形の芸能活動のサポートをしようとはしているのだが、それが一番の得意分野というわけではないので、どうしてもタレントと足並みが揃わないことはある。そういうことがきっかけで芸人たちは自らの足で歩くことを選んでいく。  個人事務所芸人の多くは、最初は大手事務所に入って活動を始めて、そこから独立して個人として仕事をするようになっている。ただ、最近ではラランドのように、最初から大手事務所に入らずに個人で活動をスタートさせるケースも出てきている。  アマチュア時代に「M-1グランプリ」で準決勝に進んで頭角を現したラランドは、あえて既存の芸能事務所に所属せず、フリーで活動する道を選んだ。現在は独自の路線で活動を続けて、多くのファンに愛されている。彼らは生粋の個人事務所芸人として新しい芸人の生き方を示したと言える。  テレビ界や芸能界が変わるのに伴って、芸人のあり方も変わってきた。今後は個人事務所芸人がさらに増えていくだろう。 ラリー遠田 1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。 デイリー新潮編集部

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