食物アレルギーの主な原因食材を使っていない約２０種類のメニューを楽しむ「フードバリアフリー・ブッフェ」が２１日、松江市のレストランで初めて開かれる。 　経営者の幼い長男は重い食物アレルギーで日々の食事に制約を余儀なくされている。同じような境遇の子供らに思いをはせ、「誰もが安心して好きなものが食べられる場を」と企画した。（北瀬太一） 　５月２９日夕、島根県立美術館内にある「湖畔のレストラン　ＲＡＣＩＮＥ（ラシヌ）」（松江市袖師町）で開いた試食会には、色鮮やかな約１０種類の料理がビュッフェ形式で並んだ。経営する古安良平さん（３９）は「食物アレルギーの原因となる特定原材料を使っていません」と説明した。 　卵の代わりにカボチャペーストと米粉などを混ぜてクレープ状に焼き上げ、チキンライスを包んだオムライス。特製ブイヤベースはエビとカニは使わず、マダイとホタテ、タマネギやニンジンといった香味野菜を煮込んでうま味を抽出。パスタやアメリカンドッグは小麦粉ではなく、米粉などで仕上げた。 　古安さんの長男（５）は、オムライスやアメリカンドッグ、煮込みハンバーグを平らげ、「おいしかった」と喜んだ。古安さんは優しいまなざしで見守った。 　長男は生後間もなく、重度の卵と牛乳・乳製品のアレルギーが判明。家庭での食事はそれらを使わず、外食先でも口にしないよう細心の注意を払う。 　ビュッフェを企画したきっかけは昨年１０月、料理研究家の上田まり子さん（４２）と知り合ったことだった。上田さんは３人の子が重い食物アレルギー。それが大きな動機となり、２０２２年１２月から広島市のホテルグランヴィア広島で定期的に食物アレルギー対応のビュッフェを開いている。 　古安さん一家は昨年１２月、上田さんのビュッフェを訪れた。ずらりと並ぶ料理。自分の体質をある程度理解している長男は「食べていいの」と古安さんに尋ねた。「何でも食べていいよ」。長男は飛び切りの笑顔を見せた。「あの笑顔は一生忘れられない」と振り返る。 　「料理を取り分ける子の姿を写真に撮ったり、感極まって泣き出したりする親もいる」。上田さんからそう聞かされ、深く共感した。今年に入り「自分でもやってみて子供たちを喜ばせたい」と思いが募り、上田さんに協力を依頼。「共に歩んでくれる人はまだ少なく、うれしい」と快諾された。 　当日の料理は上田さんが監修。古安さんやレストランの従業員は、食物アレルギーの基礎知識の他、原因物質をできる限り取り除く清掃や、調理器具・食器の洗い方を学んで備える。それでもリスクをゼロにはできないため、原則としてアレルギーの程度が比較的軽い子供らを対象とする。 　「食物アレルギーで苦しむ人の外食へのハードルを下げ、明るい未来を作る一助になれば」。古安さんは力を込める。 　問い合わせはラシヌ（０８５２・２５・６５６２）。今後も随時、開催するという。 　◆特定原材料＝「摂取した際にアレルギー症状を起こす症例が多い」として、消費者庁が食品表示法に基づいて指定し、アレルギー表示を義務付けている。現在はエビ、カニ、くるみ、小麦、そば、卵、乳（牛乳・乳製品）、落花生の８品目。２０２５年度中にカシューナッツが加わり、９品目となる見通し。