【76歳、離島でひとりぼっち】あなたなら生きていけますか?誰もいない島で孤独に島おこしをする男が語った「人生の極意」

「離島に1人で暮らしている男がいる」と聞いて会いにいくと、男は1996年の駐ペルー日本大使公邸占拠事件で人質に取られた日本人の一人だった! しばらく彼(小金丸さん)の話に聞き入った後、島を案内してもらった。 前記事『長崎県・六島でひとり暮らす男が明かした「衝撃の経歴」…私は「ペルー大使公邸占拠事件」で人質になった』より続く。 島を歩く 一日中雨降りの予報であったが、短時間だけ雨が上がった。その機会を逃さず島内を小金丸さんに案内してもらう。軽トラが島の中心部をゆっくりと走り出すと、突然、視界に三匹の山羊が躍り出た。山羊たちはお尻を向け、まるで軽トラを先導するように歩き出す。 「私と同じで年寄りだから、もう子供は生まれない。かつては乳を絞ってましたが、いまはもう出ないので完全フリーの放牧です。普段は山林に隠れていますが、たまに人恋しくなると顔を出すのです。いま家で飼育しているのは鶏だけ。毎日卵を産んでくれる。貴重なタンパク源ですよ」と口にする。屠畜して食べるのですかと尋ねると「殺すのは可哀想だから…」と優しげな目を向けた。 島内には時の経過を感じさせる光景が散見できる。石垣を残し台風で壊れたままの家屋の内部には、生活物資が置かれたままになっている。草木に覆われた納屋、放置され苔むした車があちらこちらにあり、この島で生活を営んでいた島民たちの生活や経過した時間を物語る。 たどり着くことはできなかったが、かつては島民の心の拠り所だった神社も倒壊したまま放置されている。立ち並ぶ家々と同様に、以前は住民たちが通っていた道も草木に覆われていた。 島の中心には子供達の歓声が響いていた鉄筋二階建ての六島分校の校舎がある。草木に覆われた校舎の窓ガラスは割れ、島を闊歩する山羊の棲家となっているようで堆積した糞尿の匂いが校舎内に充満していた。 最盛期には80人近くの生徒、児童数であったが、平成13年に最後の生徒が卒業後、学舎として利用されることはなく平成29年に閉校となった。黒板には閉校後に訪ねてきた卒業生が書かれた絵や文字が鮮やかに残っている。 用具室には今も世界地図や様々な教材が整理されて棚に収まっている。壁には当時の生徒たちが描いた絵画が残り、不思議な雰囲気を醸し出している。体育館の屋根は一部で雨漏りし、床は濡れ、木材が腐って穴が空いている。多くの生徒や教師たちの思い出の詰まった分校は時を止めたままその身を朽ちるに任せていた。 ジャングルと化した畑地を開墾 軽トラは畑へと向かう。小金丸さんの尽力によって比較的大きな通り沿いは丁寧に草刈りされている。手入れをしないと瞬く間に草木は繁茂しジャングル化してしまうのだ。 過去の農業指導の経験を経て島で栽培しているのは、少量多品種の野菜や果物だ。島内には平地は少ない。数十年間耕作放棄されてジャングルと化した旧畑地を開墾し、猪避けの金網フェンスを設置。風の強い島であるため防風や土壌の流出を防ぐために畑の周囲を繁殖力の強い在来種のダンチクを幾何学上に植え付けてミニ防風林にしている。 畑では、伝統作物であった裸麦とサツマイモの他にジャガイモやレタス、豆類、オクラ、ゴーヤ、ピーナッツ、スイカ、玉葱、ネギ、そら豆、イチジク、グアバなどを栽培している。自身の食用でもあるが、知人や親族へ作った野菜や果物を送っている。一人での孤独な作業。どれだけの汗を流し、時間をかけたのだろう。その畑は多くの試行錯誤を繰り返し、小金丸さんの努力と研鑽の証なのだ。 試験的に植え付けているワイン用のブドウはまだ幼いが「いずれはドラム缶一本分ほどのワインができたらいいなと考えてます。南アフリカやフランスなどのワイナリーも見てきましたし、この島でもいいブドウが作れると思うのです。玉村豊男さんの本(私のワイン畑)も読んで勉強しました」と語る。 「悩みの種は島内で繁殖している猪です。どんどん増えて百頭近くはいると思います。大きな個体もいて危険でもありますし、気を抜くと彼らが栽培した野菜や果物を根こそぎ食べ尽くしてしまう。だから金属の柵を設けて防御しているのです。 住む人がいなくなると、島全体が荒れてしまう。繁殖力が旺盛な植物のおかげで放っておくとジャングルのようになってしまう。だから出来る範囲で草刈りなどをして島内を整備していますよ。島で育った恩返しのようなものです。子供時代の沢山の思い出の詰まった島です。ここでの暮らしがあって私という人間が出来上がっているんだ。迷いがないから幸せですよ」 何を食べ、生活はどうしているか 「米と少しの肉は購入しますが、それ以外の食物は自分で作ります。漁船もありますのでそれで沖に出て釣りをして魚も獲ります。半農半漁でほぼ自給自足。ガスはプロパンで賄えます。電気はありますし、飲み水も浄水設備を町が設置してくれたから困りません。トイレは汲み取りです。畑の肥料に使いますが、汲み出すのが一苦労。 犯罪もありませんから警察署はないです。もちろん警察官もいませんが、年に一度はどんな生活をしているのか島まで見学に来ます。信号もありませんし、木にぶつけたり脱輪することもありますが、なんとかなります。 病院も店も何もない島です。私がこの島の一人だけの住民ですから、村長のようなものです。島のことは何から何まで世話をしますし、友人や町役場の紹介によるお客さんが来たら案内します。 年金収入の他には、町から支給される村長手当金が私の貴重な生活費になっています。酒もタバコも博打もやらないから、生活はそれらで賄うことができます。お金を使うのは宅急便代金が一番多いです。国内各地に散らばっている親戚や親友のために作った新鮮で美味しい野菜などを送ってますよ」 人生を懸けた夢 「年齢相応で身体にはガタがきてますが、大病を患ったことはありません。適度に体を使い、気を張っているからかもしれません。今は腰を痛めているので船に乗ることは控えています。 もし、一人で海に投げ出されてしまったら潮流に流されて冬の海だとあっという間に死んでしまう。家族に迷惑をかけることになります。その時期は自分で判断をしますが、いずれ身体が言うことを聞かなくなったら、妻のところに戻ってゆっくりします。 すでに人生の第四コーナーを回りつつあります。これまで、年に2度くらい妻のところに戻って過ごしています。都会は電車もあればお店をあって便利なところなのだけれど、なぜか風邪をひいてしまうことが多い。東京には、世界中の風邪黴菌が集まって来ているのかな」 定期船の関係で島での滞在時間は約7時間。小金丸さんは6時間以上もの時間を共にしてくれ、会話は途切れなかった。 「この島で、海外から来たお客さんも心から落ち着ける宿をやりたかったのです。港の見える高台の土地に、宿泊のできる建物を建てようと考えました。食べ物はすべて、地元で栽培された野菜や獲れた魚。段々畑を見下ろしながら露天風呂に入って、見上げると満天の空があって最高でしょう。 フロリダ州の最南端にあるヘミングウェイの別荘の六島バージョンをやりたかった。でも、業者を呼んだらものすごくお金がかかること判明しました。クラウドファンディングに申し込みをしましたが予定額には届きませんでした。現実は難しいね」 公民館での話の終盤、小金丸さんは手製のカレーをご馳走してくれた。自身の育てた野菜のたくさん詰まったカレー。大好きなそら豆は収穫後、冷凍して一年中いつでも使えるようにしてある。種皮付きそら豆は柔らかく煮込まれて、そのまま食べることができた。 国内には多くの過疎地域があり、少子高齢化の流れを止めることは困難だろう。高齢になり仕事から離れた人生をどのようにデザインするか。誰の身においても共通のテーマでもある。 多くの人が選ばない道を小金丸さんは選択した。たとえ困難が目に見えていても、自身の気持ちにまっすぐ正直に、便利な都会ではなく島暮らしを選んだのだ。皺の刻まれた表情は迷いなく、自らの人生を生きている自信が感じられた。「こんな人生も悪くない」小金丸さんの言葉をしっかりと受け止めたい。 写真:濱粼慎治 【なまはげより怖い…】出生率29年連続ワースト「日本一の高齢化県・秋田」で起きている「悲惨すぎる若者離れ」の現状

もっと
Recommendations

【速報】香川県や和歌山県など4地方に「熱中症警戒アラート」発表 香川県・和歌山県・鹿児島県の奄美地方への発表は今年初

きょう(16日)、熱中症の危険性が極めて高い危険な暑さが予想される…

菊池雄星 6回途中5失点で6敗目、今季最多10奪三振も自らのミスで失点、33歳ラストマウンドで白星飾れず

■MLBオリオールズ 11ー2 エンゼルス(日本時間16日、オリオール・…

床下のバッグから発見された20歳の娘…「避難先にとどまらせておけば」と悔やむ父親

元交際相手からの暴力やストーカー行為を訴えていた川崎市川崎区の…

石破総理がG7サミット出席へ 世界経済や中東情勢など議論 日米首脳会談も予定 一定の合意を得られるかが焦点に

石破総理はG7=主要7か国の首脳会議に出席するため、カナダに出発しま…

【 二宮和也 】 42歳の誕生日に新書『独断と偏見』発売 1番最初は「色のペンを買いに行きました」 故ジャニー喜多川氏への思いも赤裸々に告白「出てきて謝ってほしい」

嵐・二宮和也さんが、初めての新書『独断と偏見』のメディア向け合同…

世界柔道、玉置桃が初優勝逃す…女子57キロ級決勝でジョージアの選手に敗れる

【ブダペスト=平地一紀】柔道の世界選手権ブダペスト大会第3日の…

千葉県袖ケ浦市の交差点で車2台が事故 右折しようとした軽乗用車の78歳女性が死亡 普通乗用車の2人もけが

千葉県袖ケ浦市で、車2台が衝突する事故があり、78歳の女性が死亡しま…

横断歩道を渡ろうとして衝突か 自転車の女性(75)が車にはねられ骨盤骨折などの重傷

15日午後、愛知県豊田市で自転車で横断歩道を渡っていたとみられる75…

東京・青梅市のパチンコ店で男性が刺される 刺した76歳の自営業の男を現行犯逮捕 警視庁

東京・青梅市のパチンコ店で30代の男性をナイフで刺したとして、76歳…

イスラエルとイラン 双方の攻撃続く エネルギー関連施設などにも被害が拡大

イスラエルとイランによる攻撃の応酬は15日も続いていて、エネルギー…

loading...