認知症の人の介護はトラブルが多く、一筋縄ではいかないものです。さまざまな問題をかかえこみ、経済的にも悩みがつきません。ときにはつらさのあまり、介護をギブアップしそうになるでしょう。 しかし、認知症の人がすんでいる世界を理解すれば、介護をしやすくなるかもしれません。認知症の人は私たちの常識の基準とは少しずれている世界に生きていますが、どんな行動にもその人なりの気持ちや考えがあります。ただ、気持ちをうまく言葉にできないだけです。そして、その気持ちを理解する手がかりはあるのです。 この連載では、 『認知症の人の気持ちと行動がわかる本』 （杉山孝博監修、講談社刊）のエッセンスから、認知症と介護について、正しい知識と情報についてお伝えしていきます。認知症の人の思いやじょうずな介護の方法、利用できる社会制度・サービスを知れば、介護がぐっと楽になるはずです。 今回は、家族が認知症かもしれないと思ったときの簡単なチェック表や、病院の受診について知っておきたいことなどについてお伝えします。 認知症の人の気持ちと行動がわかる　第6回 『親が認知症なら、いずれは自分も……？実認知症の決定的な原因とは』より続く。 早期受診・治療を心がければ、治る可能性も 認知症かもしれないと思う言動があったら、早期受診につとめましょう。認知症の早期受診は、早期治療につながります。早期から認知症に対応することは、本人にとっても、家族にとってもメリットがあります。 メリットのひとつは、認知症かどうかも含め、原因が明らかになることです。原因によっては、早期に治療を始めれば、治るものもあります。 医師と患者の関係も、人間関係のひとつです。認知症と診断されたら、医師と初期段階から対話し、信頼を築きあげたいものです。 早期から認知症への対策が立てられるのは、大きなメリットです。認知症の正しい知識や対応がわかれば、生活の混乱を少なくでき、進行を遅らせることにもつながります。また、制度やサービスの利用なども、余裕をもって準備できます。 「もしかして、認知症では？」と気づいたきっかけを、認知症の人を介護する家族に聞きました。次ページの表は医学的な診断基準ではありませんが、早期発見の目安として、チェックしてみましょう。いくつかあてはまるようなら、受診を検討しましょう。 あてはまることが多ければ受診の検討を 1 もの忘れがひどい □今切ったばかりなのに電話の相手の名前を忘れる □同じことを何度も言う、問う、する □しまい忘れ、置き忘れが増え、いつも捜し物をしている □財布、通帳、衣類などが盗まれたと、人を疑う 2 理解力・判断力が衰える □料理、片づけ、計算、運転などでミスが多くなった □新しいことが覚えられない □話のつじつまが合わない □テレビ番組の内容が理解できなくなった 3 時間・場所がわからない □約束の日時や場所を間違えるようになった □慣れた道でも迷うことがある 4 人柄が変わる □ささいなことで怒りっぽくなった □まわりへの気遣いがなくなり、がんこになった □自分の失敗を人のせいにする □「このごろ、ようすがおかしい」と周囲の人に言われた 5 不安感が強い □ひとりになると怖がったり、寂しがったりする □外出時、持ち物を何度も確かめる □「頭が変になった」と本人が訴える 6 意欲がなくなる □下着を替えず、身だしなみにかまわなくなった □趣味や好きなテレビ番組に興味を示さなくなった □ふさぎこんでなにをするのも億劫がり、いやがる ＊公益社団法人認知症の人と家族の会　「家族がつくった『認知症』早期発見のめやす」より改変 認知症の疑いがあると分かったら、なるべく早く受診するようにしたいものです。しかし、認知症の人は「どこも悪くない」「認知症にはならない」と思っています。初期には、自分で異変に気づいていても、現実を知るこわさから、かたくなに受診を拒む場合もあります。 「あなたは認知症かもしれない。病院に行きましょう」と無理やり受診させるのは、本人のプライドを傷つけます。 理詰めの説得もよくありません。本人の気持ちに十分配慮して受診を促す必要があります。本人の気持ちをくみ、「健康診断に行きましょう」など、納得しやすい言い方で誘いましょう。 場合によっては、うそも方便。「私の病院につきあって」などと誘ってもいいでしょう。 主治医は、できれば専門医を選びたい 介護生活を通して、認知症の治療や体調の管理、生活上のアドバイス、介護保険を申請する際の主治医の意見書など、主治医は重要なキーパーソンです。日ごろから連絡を密にして、本人のことや、家族の状況などをよく理解してもらうことが大切です。 受診先は精神科、神経内科が中心ですが、近年は認知症専門外来も増えてきました。できれば、主治医は認知症の専門家が望ましいです。本人の身体面の健康を保つためにも、通院は欠かせません。通院が難しい場合は、往診を利用しましょう。 認知症の人に対応するときは、異変に気づいても、そのことを受診の理由にしないことが基本です。なお、受診の際には、受け付けに時間がかかることがあり、順番待ちが苦手な人もいるので、付き添いは2人いると安心です。 ❶まずは一般の診療科に行く 認知症をみるのは「精神神経科」ですが、抵抗のある人が多いため、最初は「もの忘れ外来」「老年科」「心療内科」「神経内科」などでみてもらうのもいいでしょう。 ❷「私の健診につきあって」と誘う 医師にお願いしておき、家族が健診を受けるふりをします。診察室に一緒に入ってもらい、医師から「せっかくだから血圧を測りましょうか？」と受診を促していくように演技してもらいます。たいていの場合、医師の言うことは拒否しません。 ❸保健所などの健康診断に誘う 本人が病院に行くことに抵抗があるなら、「保健所に健康診断に行こう」と誘ってみましょう。地域の保健所や保健センターならハードルは低いはずです。ただし、認知症相談をしているかどうか、確認しておきます。 ❹かかりつけ医に協力してもらう 本人が信頼しているかかりつけ医に事情を説明しておき、「少し検査をしたほうがいいので、知り合いのよい先生を紹介します」とすすめてもらいます。かかりつけ医に言われ、紹介状まで渡されると、ほとんどの場合は従います。頭痛やだるさなど身体症状があるときは、その受診をきっかけにします。 ❺第三者にすすめてもらう 別居している子ども、友人、ヘルパーさんなどの言うことは聞くことが多いようです。 『家族が認知症だと診断されてしまったら。まず心がけたい、本人の気持ちへの「寄り添い」』へ続く。 【つづきを読む】家族が認知症だと診断されてしまったら。まず心がけたい、本人の気持ちへの「寄り添い」