脳が”痛い”と判断すれば体が痛む!? 体の検査では異常がないのに痛みが続くメカニズム

「歯の治療をしても痛みが消えず、歯を抜いても治らない」「検査をくり返しても異常が見つからないのに、顔の痛みが続いている」それは、“原因不明の口腔顔面痛”かもしれません。 検査では異常が見つからない「原因不明」の口や顎の痛み・違和感は、ストレスや不安にも関わる脳の「痛みの回路」が作り出していた! 「特発性口腔顔面痛」に悩む人のための書籍『どうしても消えない「歯・舌・口・顔の痛み」はなぜおこる? 口腔顔面痛がわかる本』より、気になる章をピックアップしてご紹介! 痛みがおこるメカニズムには3つある 現在は、痛みはおこり方によって、「組織損傷によっておこる痛み」と、組織損傷はなく「脳の機能の変調でおこる痛み」の2つに大別され、前者が2つに分けられるため、3分類されることになります。 組織損傷によっておこる痛みには、体の(神経以外の)組織が損傷しておこる「侵害受容性疼痛」と神経の組織が損傷しておこる「神経障害性疼痛」があり、いずれも検査で異常を検知することが可能です。 一方、脳の機能の変調でおこる痛みである「痛覚変調性疼痛」は、検査では異常を見つけることはできません。従来「心因性疼痛」「特発性疼痛(原因不明の痛み)」といわれてきたものの多くが、この痛みだと考えられるようになっています。 ただし、「組織損傷によっておこる痛み」と「脳の機能の変調でおこる痛み」はまったく別のものではなく、後述するように、互いに関連し合って痛みを構成しています。 �侵害受容性疼痛——体の組織の損傷によっておこる痛み やけどや切り傷、ねんざによる炎症など、物理的・化学的に体の(神経以外の)組織が傷つくことによっておこる痛みです。「けが」によっておこる痛みと言い換えてもよいでしょう。 この痛みは、人間の皮膚や粘膜などの組織に張り巡らされた、痛みの刺激を感知するセンサーである「侵害受容器」を通して感知される痛みなので、「侵害受容性疼痛」と呼ばれています。 侵害受容性疼痛を、私たちは図1-2のような方法で感じとっています。まず、痛みの刺激が皮膚や粘膜に加わると、痛みは電気信号に変換され、何本もの神経をリレーして、脳まで届けられます。届けられた電気信号は脳で解読されて、「軽い痛み、危険なし」「強くて危険な痛み」などと判断されます。 つまり、たとえば体の末端をけがしても、その刺激はたんなる電気信号であり、ゴールである脳に届いてやっと「痛みだ」と判断され、実際の行動につながるのです。 「侵害受容性疼痛」は、3種類の痛みのなかではもっとも一般的なもので、体の傷が治れば痛みも消失します。 �神経障害性疼痛(いわゆる神経痛)——神経の組織の損傷によっておこる痛み 先ほど述べたように、痛みは電気信号に変換され、神経をリレーして脳に届きます。この「神経」の組織が傷ついておこる痛みを「神経障害性疼痛」と呼びます。神経線維は電気信号を伝導する「電線」ですので、これが傷つくと電気信号が漏れたり、異常な信号を発したりするため、激しい痛みがおこります。 神経障害性疼痛のおこり方としては、けがや帯状疱疹のウイルスによって神経が傷つき、体の傷は治ったあとも神経が切れたままになる場合や、血管や腫瘍によって神経が圧迫されて変性してしまった場合(三叉神経痛など)などが挙げられます。 �痛覚変調性疼痛——脳の機能の変調でおこる痛み 患者さんは口や顔の痛みで苦しんでいるのに、MRIやCTなどの画像検査や、血液検査などの体の検査をくり返しても異常はみつからないという場合は少なくありません。 こういった原因不明の痛みは、従来「特発性疼痛」や「非器質的疼痛」(体には異常がないのに生じている痛み)と呼ばれており、この30年間、原因の解明に膨大な研究が積み重ねられてきました。その結果、現在では、脳の痛みを感知する機能が変調をきたしておこるもので(図1-3)、痛みの発現や持続にはストレスや心理的要因が強く関連しているらしいと考えられるようになりました。 コンピューターにたとえるならば、「組織損傷によっておこる痛み」はハードウェアの異常によるものであるのに対し、「脳の機能の変調でおこる痛み」はソフトウェアの異常によるものということができます。 代表的な疾患は線維筋痛症(全身に原因不明の慢性疼痛がみられる)であり、歯科では特発性口腔顔面痛である特発性歯痛や特発性顔面痛、口腔灼熱痛症候群(舌痛症)がこれにあたると考えられています。 2017年に、痛み研究の総本山である「国際疼痛学会(IASP)」がこの痛みを「nociplastic pain(ノシプラスティックペイン)」と命名し、2021年9月には日本痛み関連学会連合により「痛覚変調性疼痛」という、この痛みの本質をよく表した日本語訳が確定しました。 No Brain No Pain——痛いかどうかを決めるのは脳 「脳の機能の変調でおこる痛みはソフトウェアの異常が原因」と述べたように、脳の中には痛みを認知したりコントロールしたりする複雑な神経のネットワーク、つまり「痛みの制御システム(痛みの回路)」があることがわかってきました。痛覚変調性疼痛では、この制御システムの機能の変調によって、痛みが増幅されたり、勝手に作り出されたりしているのです。 この「痛みの制御システム」は、脳全体に張り巡らされている電気的回路であるため、CTやMRIの画像で「脳のこの部分」と特定できるものではありません。 そして、いったん変調がおこると、脳が活動している間(つまり起きている間)はずっと痛みが持続する「慢性疼痛」の状態になります。しかし、何かに気をとられたり、眠っているなど脳が休んでいる間は痛みを感じないという特徴があります。多くの患者さんが、「食事中は痛くない」「痛みで目が覚めることはない」「趣味に没頭しているときは痛みを忘れていられる」と言います。 おおざっぱにいえば、「体には異常がない慢性疼痛=痛覚変調性疼痛(脳の変調でおこる痛み)」といえます。また「痛覚変調性疼痛」は、本来は痛みが生じるメカニズムを表す言葉で、診断名ではないことに注意が必要です。 【オススメ】「歯が痛いのに異状がないと言われる」原因不明の口や顎の痛みに悩む人が急増! “特発性口腔顔面痛”とは?

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