泉ピン子が、大正生まれで戦争を経験した父から聞いた「絶望したときの教え」

泉ピン子さんのエッセイ『終活やーめた。 元祖バッシングの女王の「ピンチを福に転じる」思考法』は、さまざまなピンチをチャンスに転じてきた行動をつづっている。ずっと売れず、キャバレー回りをした20代、大好きだった父のがん、結婚後にでた隠し子スキャンダル、52歳のときの数億円の借金、大バッシングと謎の病気、親しい人たちの死……。 それでもなお、なぜ諦めずに前に進み続けられたのか。 その大きなヒントとなるのが、第2章「生い立ちと下積み時代」に描かれている父親の教えだ。 7月13日には昭和音楽大学テアトロ・ジーリオ・ショウワにて「おしん」や「渡る世間は鬼ばかり」の生演奏とともにトークショーを行うことが決定したピン子さん。 そのパワーの源を本書より抜粋にて紹介する。 私、ファザコンなんです こう見えて私、ファザコンなんです。一人っ子で、父に溺愛されて育ったから、小さい頃の思い出といえば父のことばかり。父は浪曲師でしたが、私が小さい頃に肺を悪くしてからは、浪曲の台本作家をしていました。いつもどてらを着て、火鉢の横で本を書いていた。私が中学に上がる頃になると、松本清張やスタインベックやトルストイなんかの本を、次々に「これを読みなさい」と渡されました。とくに大変だったのは「三国志」。長い話だからって読書感想文を一章ごとに書かされて。でも、今になって思えば、そのときの読書体験が、女優になってからものすごく役に立ちました。 新しもの好きで、「これからは英語の時代」と、日比谷にある英語学院に通わされた こともあります。登校1日目で、先生が言っていることがチンプンカンプンすぎて、「こ れはやってられない」と思ったけど、家に帰って父から、「ちゃんと行ったか?」と 聞かれたときは、脊髄反射みたいに「オー、イエス!」なんて答えていました。でも 2日目からは授業はパス(笑)。あの授業料は、もったいなかった。「世界を1ヵ所でも多く見ろ」とか言うものだから、漫談家としてデビューした 18 歳のときはローンを組んでハワイ旅行に出かけたこともあります。今も円安なんて騒いでるけど、当時は1ドルが360円の時代です。完済するまでには何年もかかりました。 1回500円でキャバレー回りだった 漫談家になってからは、全国のキャバレーを回っていました。漫談家って今はもう 絶滅しているのかな。私の場合は10代のときから、ギターとかウクレレとかアコーディオンなんかの楽器を持ってキャバレーのステージに登場して、お客さんを前に歌ったり、世間話なんかのトークをするのが仕事でした。最初は一回500円しかもらえなかったのが、 20 代も半ばを過ぎて、売れっ子になったら一日5万円! それでやっと、いいマンションに引っ越して、まともなご飯が食べられるようになったのです。 そのあと、「テレビ三面記事 ウィークエンダー」っていう日本テレビ系列でやっていた夜のワイドショーのレポーターに抜擢されて、一気に顔が売れるんだけど。この「ウィークエンダー」っていうのが、全国ニュースでは伝えないようなB級ニュースを、フリップや再現フィルムを使って解説していく番組で、毎回、視聴率は30 %超え! 今だったら絶対ありえないような、ちょっと下世話な内容で、だからこそオバケ番組だった。最初は失敗ばっかりしてたけど、失うものが何もないから、あるとき「エイヤッ」って、ブタの交尾のネタをやったら、思いのほかウケちゃってさ(笑)。そこからレギュラーになって、怖いものもプライドも何にもないから、本当に下品な、馬鹿なことばっかり言ってた。 「ひとりでも食えるようになっておけ」 テレビでの活躍を、誰よりも喜んでくれたのが父でした。父の口癖は、「学校なんて出ていなくていい。キミは残念ながら一人っ子だ。親は必ず先に死ぬ。そのとき、 ひとりでも食えるようになっておけ」。 私の芸名の“泉ピン子”は、大好きな父がつけてくれたものです。「今はこの名前ヘンだけどな、いいかぁ、売れてきてみろ。絶対によくなる」と力説していました。“泉” という苗字は、この名前で大成した芸人がいないからと、敢えての挑戦。ピン子のピンには、“ピン(最上)からキリ(最低)まで”のピンの意味が込められています。 「お先真っ暗」なときに思い出す父の言葉 嫌なニュースばかりが続いて、「あーあ、世の中お先真っ暗だ」なんて気持ちが沈んだとき、いつも思い出す父の言葉があります。 「世の中で起きたことは、世の中が解決することになっているんだ。あたふたするな。 絶対悩むな」 大正生まれの父は、好きな浪曲の道に進んだものの病気になって演者としての道は諦め、作家に転向し、20 代で戦争も経験します。そんな半生で悟ったことは、これは私の意訳だけど、「絶望はするな」「自分にできることを続ければ、いつか道は開ける」ということ。いま悩んでいる人にとっては、綺麗事に聞こえちゃうかな。でも私は、苦労して生きてきた人の言葉だから、やっぱり真理があると思う。 社会に出て働くことはとっても大変なこと。でも、人生で大事なのは、噓をつかずに真面目にコツコツ続けることじゃないかな。お天道様の下を堂々と歩くためにどう すればいいか。それは人に嫌なことをせず、噓をつかず、裏切らないこと。何よりも真面目に働くことが大事。それが鉄則。 ラクして稼げる仕事なんてこの世にない 最近のニュースで、一番情けないなと思うのは闇バイトで捕まっている若い人のこと。そういうニュースを聞くたびに、「渡る世間は一平ばかり」って思う。「一平」っ ていうのは、大谷選手の金を違法賭博に注ぎ込んだ元通訳の水原一平のことね。人のお金に手をつけて、仕事仲間を裏切るなんて、人間として最低! ラクして稼げる仕事なんて、この世の中にはないの。貧しいなら貧しいなりに笑って朗らかに生きてい こうと思うなら、何でもいいから、汗水垂らして働くことよ。そして人を裏切らない! 大谷くんは裏切られても何も言わなかった。まさに世界の大谷、MVPです。 私も、「ウィークエンダー」で顔が売れたときは、下品だとかブスだとか、いろんなバッシングを受けました。父は喜んでくれたけど、「こんなこと続けていて、いいことあるのかな?」なんて不安になることもあった。でも、あるとき思ったんです。 頑張って働いている世のお父さんが、「お前はバカだ!」とか「仕事ができない」とか、キツいこと言われて、家に帰ってテレビつけたら、「自分よりバカがいるんだ。救われた」って思えたらいいんじゃない? って。表に出る仕事に就いたからには、私を見て、呆れてもらってもいいし、驚いてもらったり、不思議に思ったり、反発したり、なんでもいいの。少しでも私の存在が、日常の娯楽の足しになればいい。まぁいちばんいいのは、笑ってもらうことなんだけど。 泉ピン子「52歳で数億円の借金の判決が出た時は大泣きしました」

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