「食事中は痛まない」「麻酔をしても痛い」……普通の歯痛と”特発性歯痛”の見分け方

「歯の治療をしても痛みが消えず、歯を抜いても治らない」「検査をくり返しても異常が見つからないのに、顔の痛みが続いている」それは、“原因不明の口腔顔面痛”かもしれません。 検査では異常が見つからない「原因不明」の口や顎の痛み・違和感は、ストレスや不安にも関わる脳の「痛みの回路」が作り出していた! 「特発性口腔顔面痛」に悩む人のための書籍『どうしても消えない「歯・舌・口・顔の痛み」はなぜおこる? 口腔顔面痛がわかる本』より、気になる章をピックアップしてご紹介! 特発性歯痛とは? 特発性歯痛は、レントゲン画像などには明らかな異常が認められない「原因不明の歯痛」です。患者さんは、抜髄(歯の神経を抜くこと)や歯根の治療を何ヵ月も続けているのに、いっこうに痛みが引きません。 この病気は、1979年にハリス(Harris)という研究者が「非定型歯痛」という名称で初めて報告しました。その後、1990年代に米国で口腔顔面痛学が確立して、この歯痛に悩む患者さんが非常に多いことが明らかになり、今世紀に入って注目を集めるようになったのです。とはいっても、まだ原因や治療法に関する研究が少なく、エビデンスが不十分なため、歯科大学等の教科書には十分な記述がなく、現在、日本口腔顔面痛学会や日本歯科医師会などが中心になって、歯科医への啓発や情報提供が行われています。 特発性歯痛の痛みは「じんじん」「じわじわ」と表現されることが多く、目が覚めている間じゅう続きます。男女比では1対9と圧倒的に女性がかかる割合が高く、子どもを除いて、どの年齢にもおこりえますが、閉経後の女性に多いことが知られています。7割が歯科治療をきっかけに始まると報告されています。 この病気の最大の特徴は「食事をしているときには痛みが消失する」ことです。虫歯による歯痛なら、食事のときにもっとも痛みますので、ここが診断のポイントになります。 痛みには日内変動があり、午前中はさほど痛みませんが、夕方になるにしたがって悪化します。患者さんの3〜4割にうつ病や不安症などの既往があると報告されています。 特発性歯痛はまれな病気ではないことが知られています。実際に、私たちの週1回の外来をこの7年間に受診した1000名の患者さんの約1/4が「特発性歯痛/特発性顔面痛」でした。生活に支障をきたすほどの激痛がおこることもありますが、どんなに痛みが激しくても命に別状はありません。また、治療法がある病気です。 どんな経過をたどることが多い? 特発性歯痛では、ある日突然、あるいはささいな歯科治療をきっかけに、虫歯の痛みと非常によく似た「歯痛」が始まります。患者さんが歯科を受診すると「歯には異常がない」ため、様子をみるように言われます。しかし、痛みはいっこうに引かず、むしろ時間とともに強くなってきます。 この病気では、患者さんは痛む歯の部位をはっきりと認識しているため、くり返し歯科を受診し、「この歯の痛みを止めてほしい」と訴えます。しかし、検査をくり返しても、痛みに見合うだけの原因はみつかりません。そうこうするうちに、歯科医は痛みを止めようとして、原因が特定できないまま、やむを得ず抜髄処置を行います。 しかし、神経を抜いても痛みはよくならず、その後も歯根の治療を長期間にわたって行うことになり、最終的には抜歯に至ります。<「原因不明の痛み」は脳の誤作動!? 「歯が痛いのに異状ナシ」の具体的な症例とは>でみたように、痛みは抜歯をしてもその部位に留まり続けるか、ほかの歯に飛び火したり、顔面にまで広がったりすることもあります。実際、「82%の患者では、疼痛が一歯から多数歯へ、また歯肉や粘膜へと拡大していく」という報告があります。 またこの一連の経過中に、患者さんは痛みを止めてくれる歯科医を探し求めて、何軒も歯科医院を変えることが多いです。口腔外科で精密検査を行ったり、ペインクリニック科を受診したりして、星状神経節ブロックなどが行われることもありますが、ほとんど効果はありません。診断がつかないことや、治療をしても痛みがよくならないことから、不安や恐怖感が強くなり、不眠や食欲不振などの体調不良を生じ、寝込んでしまう人もいます。 「特発性歯痛」と「普通の歯の痛み」の見分け方 特発性歯痛では、多くの場合、痛みの場所がはっきりしています。患者さんは、はっきりと「この歯が痛い」と感じるため、薬物療法を受けることに迷いが生じ、「ほんとうにこの歯が原因ではないのか?」「歯を抜けば治るのではないか?」という思いがつのることがあるようです。 検査で客観的な証拠をつかむことができるわけではないため、診断の際は「歯には、それだけの痛みの原因となるような異常は認められない」という除外診断から始まります。したがって、医師の経験によって診断が左右されることもあるのが実際のところです。 患者さんにも参考になるよう、表に見分け方のポイントを示します。なお、局所麻酔については、少し補足しておきましょう。痛みの原因が歯であれば、局所麻酔で痛みは消失するはずです。つまり、「麻酔が効けば歯が原因」「麻酔をしても痛みが消えなければ、歯が原因ではない」という判断ができます。これを「診断的麻酔」といいます。 しかし特発性歯痛では、局所麻酔の効き方は不明瞭なため、診断的麻酔でははっきり見極めがつかないのです。ただし、少なくとも「麻酔で痛みがゼロになるなら歯が原因」といえます。「レントゲンには写らないが、歯にひびが入っている可能性がある」という理由でよく抜歯されてしまいますが、ひびが原因の痛みであれば、必ず麻酔が効くということを覚えておいてください。 【オススメ】「原因不明の痛み」は脳の誤作動!? 「歯が痛いのに異状ナシ」の具体的な症例とは

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