出生前診断や延命治療など「命巡る選択」、心の揺らぎと「自己決定」への問いかけ…劇団俳優座「PERFECT」

 人生は選択の連続だ。  不妊治療、出生前診断、家族計画、延命治療——。誰しもに起こりうる決断の過程を、劇作家で演出家の瀬戸山美咲が丹念な取材を基に書き下ろした。山ほどの重いテーマに加え、他者の介入を受けた決断は果たして自己決定と言えるのか、ということまでを問いかける。  不妊治療がうまくいかず離婚したばかりの早苗(若井なおみ=写真右)は、ディレクターを務めるドキュメンタリー番組で出生前診断を取り上げることを決める。制作に携わる元夫のカメラマン(千賀功嗣(いさし))やAD(高宮千尋)と様々な倫理的な問題について話し合う中、技術スタッフ(深堀啓太朗)は兄がダウン症であることを明かす。  取材対象は、出生前診断を受けて、胎児にダウン症の可能性があるとわかった悠(小泉将臣)と美花(天明屋(てんみょうや)渚=同左)の夫妻。2人は手軽さを売りにしたクリニックで診断を受けた後、専門家の助言を受けずに結論を出そうとしていた。  早苗はカウンセリングを勧めるが、美花はカウンセラーの話に影響される不安を吐露する。情報があふれる現代では専門家の意見にさえ疑心暗鬼になる。医療の進歩で検査が簡単に受けられるようになった結果、倫理観が置き去りになるという問題も浮き彫りになった。  新しい命を迎え入れるかどうかを悩む家族の姿と並行し、人生の最期の過ごし方を考える家族の姿も描かれる。がんが見つかった早苗の母(天野真由美)は、娘と夫(森一)に「人生会議」の開催を提案する。延命治療や介護について家族らと話し合いを繰り返すもので、母は「みんなで決めたい」と語る。  早苗は取材する夫婦のわずかな違和感には気づけても、自らの肉親のことになると逡巡(しゅんじゅん)する。登場人物のどの立場にも観客が共感できる余地を作った瀬戸山の戯曲が巧みだ。  小泉演じる夫が「産ませる圧」を押しだした時、天明屋が演じる妻が夫に送った視線が出色で、言葉にできない不安な思いがにじみ出た。張り詰めた空気が劇場に流れる中、妻、母として家族を支えてきた自負を明るくカラリと演じた天野の笑顔と、妻の一大事を直視できずスマホゲームに逃避する夫を情けなく演じた森の憎めない表情が、場の緊張をほぐした。  舞台の背面や床に描かれた白い波形は、登場人物の心の揺らぎを象徴しているかのよう。投じられた波紋が、今も胸の中で渦巻いている。(武田実沙子)  ——19日まで、東京・六本木の俳優座スタジオ。

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