綾瀬はるか「このままひとりで死ぬのかな」孤独死テーマの『ひとりでしにたい』カレー沢薫と考える、より良い生き方

2019年より『モーニング・ツー』、2020年からは『コミックDAYS』で連載されているカレー沢薫さんの『ひとりでしにたい』。30代後半で独身を謳歌する主人公・山口鳴海は憧れていたキャリアウーマンの伯母が思いもよらない孤独死をしたことをきっかけに、婚活をはじめて撃沈します。そこからは180度方向転換して、「終活」について考え始めることに……。 “ひとりでよりよく死ぬには、よりよく生きるしかない” 普遍的で切実なテーマを軽快な切り口で捉えた同作は連載開始当初から大きな話題を集めました。そんな同作がこの夏にNHKでドラマ化、6月21日に第1話が放送されます。主人公・鳴海役を演じるのは俳優の綾瀬はるかさん。本記事ではそんな綾瀬さんと原作者であるカレー沢さんのスペシャル対談をお届けします。社会問題を議論するかと思いきや……ふたりらしいトークが繰り広げられました。 本記事は『モーニング 29号』(6月19日発売)に掲載された記事を抜粋・編集したものです。 初対面の食事会で…… ーーおふたりはすでに面識があると伺いました。 綾瀬:ドラマ出演が決まり、どんな先生なんだろう? という興味があったので、「機会があればお会いしたいです」って話したらOKのお返事を頂いて。先日、お食事会をしました。お会いできて嬉しかったです。 カレー沢:いやいや! それはこちら側のリアクションです。普通は綾瀬はるかさんに会えることが「嬉しい!」ですから。むしろこちらが「会えるの!?」って感じでした。 ーーさぞや初対面から盛り上がったのでは? 綾瀬:お互い人見知りなのですっごいお喋りできたわけじゃないですよね? カレー沢:「休みの日は家で何をされているんですか?」ってマッチングアプリではじめて会った人みたいなことを聞かれて、綾瀬はるかさんに気を遣わせている……って思いました。 綾瀬:先生の生活というか、お休みの日に何をされているのか気になっていたんです。可愛らしい先生だなあって思いつつ、この奥ゆかしい感じの奥底にはマンガで描かれているような面白い精神が潜んでいるんだなあって。 カレー沢:今回の対談もそうですが、私は最後まで絶対どこかでなくなる話だろうと思っていたので、あの日、まさか本当にいらっしゃるとは……。あまりにも緊張して何を話したか……話しかけていただいてすごく助かったことだけは覚えています。 猫は“神”すぎて飼えない ーー共通の話題とかはなかったんでしょうか? 綾瀬:猫の話で盛り上がりました。ドラマのプロデューサーさんが猫を飼われているというお話をされたとき、先生は“神”すぎて飼えないって言われていましたよね? カレー沢:“神”は私の手には余るかなと。 綾瀬:それを聞いて、先生のなかで猫は崇める存在なんだなって思いました。実は私も猫を飼っていたことがあります。 カレー沢:え! 神が! 綾瀬:そう! 神が我が家にいたんです。実家の庭にアメリカンショートヘアの赤ちゃんがいきなり降臨したんです。今、考えても不思議な出会いでした。で、ウチはそれまで犬を飼っていた犬派だったから、エサをどうやって食べさせたらいいのかもわからないし、どうしようかって猫についての家族会議が行われたんですけど、ずっと我が家の庭から出ていかないので結局、“コトラ”って名前をつけて我が家の一員にすることにしました。 カレー沢:猫と暮らされていたんですね。どんな猫だったんですか? 綾瀬:アメリカンショートヘアで頭のいい子でした。3年位前に老衰で亡くなってしまったんですが、私が帰ると必ず迎えに来てちょこんと待っててくれて。可愛かったです。 将来の不安はみんなが持っている ーー『ひとりでしにたい』はどういう発想で描かれた作品なのですか? カレー沢:新作を描こうとなったとき、私には特にこれが描きたいというテーマがなかったんです。そのとき漠然と思っていたのは、“この先、どうなるんだろう?”という将来的な不安だけ。でも、そういう不安ってみなさんが共通して持っているものでもあるんじゃないかなと思い、それなら私も興味を持って描けるんじゃないかと思ったのが執筆のきっかけです。 綾瀬:不安、わかります。作品を読んだとき、登場人物のささいな一言とか、人間関係のあれこれとか、いろいろな部分で共感しました。光ってみえる人に劣等感を感じたりするところとか、先生もそう思っているんだ、同じ考えの人がいた! って思えました。 カレー沢:作品を作るうえで直接誰かに取材したということはないんですけど、自分が生きていくなかで出会った人や、インターネットとかSNSのいろいろな人の声は参考にしています。自分が知らないことで悩んでいる人たちがたくさんいて、その方たちひとりひとりにも言い分があるってわかったんです。『ひとりでしにたい』にもいろんな属性の人が出てくるんですけど、意見が違う向こう側にも理屈や考え方があるというのをちゃんと描こうというのはテーマのひとつにしています。“悪者”のせいにはしたくないっていう。 「七変化」する鳴海の表情 カレー沢:そもそも、なぜ出演を受けてくださったのでしょうか? 綾瀬:漫画を読んですっごい面白いと思いましたし、お話も勉強になるし、鳴海がやっぱり好きでした。いきなり目と鼻から血をだしたり、七変化みたいに急にいろんな表情になるのが本当に面白くて。あと、那須田くんとの関係も気になるし、家族のこととかもめっちゃ共感して私にはすごく刺さる作品でした。 ーードラマでは綾瀬さんのコメディエンヌぶりが存分に見られます。演じるうえで大変だったところはありますか? 綾瀬:脚本が原作に忠実なので、漫画を読んで表情を似せたりしましたが、やっぱりドラマならではの鳴海ちゃんになっています。マンガの鳴海ちゃんってもうちょっとおっさんっていうか(笑)。可愛さとおっさんの切り替えをもっと表現できたかもな〜って思います。先生のタッチでの面白い顔が好きなので、それを急にやるとやり過ぎ感が出ちゃってそのへんが難しかったですね。楽しかったのは那須田くんとの対話。鳴海としてどんどん攻めていく感じとか喋っていてすごく面白かったです。鳴海、カッコいい〜と思えて。 ーー鳴海のどんな表情がお好きですか? 綾瀬:たくさんあります。那須田くんを論破するシーンで、急にピカソのキュビズムのような感じになるところとか。鳴海ちゃんには面白い表情いっぱいありますよね? カレー沢:女性が主人公の作品ってはじめてなので、いろいろ悩みました。あんまりすました感じもよくないなと思って、変な顔もするキャラクターにしました。大変な目にも遭いますけど、それでも負けない面白くて強い主人公にできたらいいなっていうのはありました。 シリアスなテーマに散りばめられたギャグ ーー『ひとりでしにたい』はシリアスなテーマでもありながら、ギャグも散りばめられ、そのギャップも魅力です。 カレー沢:ここまでテーマが真面目な作品も初めてです。でも、ずっとギャグマンガを描いてきて、「笑いました」って言われるのがやっぱりいちばん嬉しいんですよね。ただ、まあ、今まであんまり面白いって言われたことがないんですけどね。 綾瀬:え? 今まで面白いって言われてないんですか? カレー沢:「面白いです!」って褒められ方はしたことがないですね。ですが、『ひとりでしにたい』の連載をはじめてからは、テーマは重いけど「笑いました」とか「暗くならずに読めました」とか、そういう感想を頂いて、それがすっごく嬉しくて、ギャグをやるのは楽しいなと思いました。 ーーギャグとストーリーではどちらを先に考えられるのですか? カレー沢:描きながらどんどん変わっていっちゃうっていうのがあって、話の途中でここにギャグを入れないと読者は疲れちゃうだろうなって思うときもありますし、どうやってギャグを入れてストーリーにしようかってこともあります。 綾瀬:子供の頃からお笑いはお好きだったんですか? カレー沢:お笑いが好きとかはなかったですけど絵を描くのは好きでした。ギャグを描くとみんな笑ってくれたので、自分には向いているのかなとは思っていましたね。 綾瀬:先生の中から溢れ出ているギャグなんですね。なんでこんな面白い顔を思いつくんだろうって悔しかったです。フフ。 カレー沢:撮影現場を見させてもらいましたがすごくよかったです。自分が描いたシーンですけど、目の前で行われていることがすごすぎて気づかないくらいでした。綾瀬さんが喋っているセリフを聞いて、「あ、あれは私が描いたものを元に作られているんだ!」って後から思ったくらい。そう思うとドラマの現場って漫画の60倍ぐらい人がいるし、手間もものすごくかかっていて大変ですよね。 原作屈指の名シーンであるラップバトル ーー原作好きとしては綾瀬さん演じる鳴海と松坂慶子さん演じるダンシング・マサコのラップバトルがどうなるか気になります。綾瀬さんも松坂さんも事前にラップの練習をされたとか? 綾瀬:ラッパーのDOTAMAさんが指導してくだったんですけど、マンガに出てきそうなくらい面白い方で、無表情で(手振りをしながら)「そこの“〜〜か!”の韻はもっとこういう“〜〜〜かっ!”ってイントネーションです」って。すごい世界観のある先生でお会いできて嬉しかったです。 ーー原作のリリックは先生が書かれているんですよね? カレー沢:はい。私はラップを聴くのは好きですが、知識やテクニックがあるわけではないので、適当に描いたんですが、ドラマではラッパーの方の監修が入るということで楽しみにしています。しかも、それを松坂慶子さんと綾瀬はるかさん演じてくださるという。どんなラップになるのか、全く想像がつかないのでドラマでいちばん楽しみにしている部分でもあります。みんなびっくりするんじゃないでしょうか。 綾瀬:私としては練習して、本番をやってっていう、普通の感覚になっていますけど、はじめて観られる方にはとっては確かに「え?」って思いますよね(笑)。撮影は楽しかったです。 カレー沢:ラップもそうですし、ダンスも楽しみです。 綾瀬:鳴海ちゃんが推しているアイドルグループ“STAR PURIPURI”のダンスとか、覚えやすい振りなので、皆さん一緒に覚えて歌ったり踊ったりしてくれるといいなあと思います。 カレー沢:ダンスシーンも楽しみです。私もいつかダンスはやってみたいと思っていますので。老後はダンスをやりたいんです。 綾瀬:おお〜そうなんですね! 実際にやってみるとダンスは楽しいですよ。 ふたりにとっての将来の不安 カレー沢:テレビや映画でご活躍されている綾瀬さんを見ていると将来に不安なんてあるわけないと思っちゃうんですけど、そんなわけないとも思います。 綾瀬:そう見えますよね。私もテレビに出ている人を見てそう思っていたことがあるのでわかります。だけど、この何千年と続く人類の歴史の中で人間が持つ普遍的な悩みが3つあって、それが“お金・人間関係・健康”らしいんです。私も年齢を重ねて、疲れやすくなってきたので健康については考えます。 カレー沢:健康は大事です。 綾瀬:それこそ『ひとりでしにたい』を読んで“わかる”って思うことたくさんありました。このままひとりで死ぬのかなって思ったとき、孤独死について書いてある本を読んだこともあります。なので鳴海ちゃんの気持ちはすごくよくわかったんです。 カレー沢:綾瀬さんも私たちと同じようなことで悩んでいらっしゃったんですね。具体的には何かされていますか? 綾瀬:ジムに行ったり、寝る前にストレッチしたりですね。私、夜更かし大好きだったんです。ドラマを観てると、もう一話、もう一話となって深夜までっていうことが多かったんですけど、そういうことはやっちゃいけないと思って、今はなるべく2時までには寝るようにと自分に言い聞かせています。 カレー沢:……意外と遅い(笑)。 綾瀬:ひとりのときは携帯見てるかNetflix見てるかですしね。本当にぐーたらしています。Yogiboの周りにいろんなものを置いて、ずっと動きませんから(笑)。それで“今日も一日終わっちゃったなあ”って思うときが至福の時間です。 カレー沢:いいですねえ。私はけっこうひとりでいる時間が長いのですが、好きなことをやれているといえばやれています。 綾瀬:作品を描かれているときがいちばん幸せですか? カレー沢:……幸せ?……楽しくはない……いや、マンガを描いて生活できて、面白いって言ってくださる方がいるんだから幸せなのかも……あ、幸せって書いておいてください。 綾瀬:先生らしい(笑)。 ーー最後にドラマを見る方にメッセージをお願いします。 カレー沢:ドラマの撮影現場で鳴海と那須田のやり取りを見ていたら、自分が描いたんですけど、ふたりのこと好きだなって思えたので、みなさんにもぜひドラマを見て頂きたいと思います。 綾瀬:私は登場人物がみんな好き。もちろん鳴海ちゃんは大好き。カッコいいし、面白い。鳴海ちゃんみたいに生きていきたいなって思います。ひとりを楽しんでいる鳴海ちゃんが一生懸命もがきながら成長していく。“ひとりでしぬこと”ってどういうことなんだろうっていうことを、ネガティブじゃなく知ることができる楽しいドラマになっています。 (司会・原稿/高畠正人 撮影/大坪尚人 衣装/ル フィル ニュウマン 新宿店) 綾瀬はるか 広島県出身。第47回日本アカデミー賞優秀主演女優賞(『リボルバーリリー』)受賞。NHK大河ドラマ「八重の桜」等、出演作多数。 カレー沢薫 山口県出身。「モーニング・ツー」で連載された『クレムリン』にてデビュー。以降、漫画家・コラムニストとして活躍。『負ける技術』など著書多数。 【もっと読む】現役世代の「女性の孤独死」が増えている…離婚、仕事の厳しい現実

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