いままで、「大切な人と深くつながるために」「いじめられている君へ」「親の期待に応えなくていい」など、10代に向けて多くのメッセージを発信してきた作家の鴻上尚史さんが「今の10代に贈る生きるヒント」を刊行した。その書籍のタイトルは『君はどう生きるか』。ジブリの映画でも話題になった90年近く前のベストセラーをもじったこのタイトル。なぜ「君たち」でなくて「君」なのか。そこには鴻上尚史の考える時代の大きな変化があった。 『君はどう生きるか』(鴻上尚史著)より抜粋して、著者がいまを生きる10代に贈るメッセージを一部紹介する。 『君はどう生きるか』連載第49回 『「学級委員なのに誰からも友達として思われていませんでした」…人間関係の「矢印」が与える「究極の絶望」と「ひとりのみじめさ」』より続く 本当の友だち さて、君はどうですか?本当の友だちが欲しいと思っている? それなら、「友だちのふりをする苦痛」と「ひとりのみじめさ」を自分で天秤にかけることを勧めます。焦らず、ゆっくり考えるといい。 そして、「この人と本当の友だちになりたい」と思う人がいたら、「自分はどんな『おみやげ』を渡せるんだろう」と考えるといい。 「おみやげ」は押しつけるものじゃないよ。相手がいやがるものでもいけないよね。 相手がもし、君の「おみやげ」を受け取る気持ちがないようなら、あきらめるしかない。ただ、その人が何か「おみやげ」(話しかけてくれたとか、微笑んでくれたとか)をくれた場合は、「おみやげ」に感謝していること、うれしかったことを伝えよう。 相手への「おみやげ」を考えることは、人間を理解しようとすることだ。うまくいかなかったとしても、それは決してムダな努力ではありません。 その努力は、君を間違いなく成熟させる。人間を見る目を養い、相手の気持ちを察することができるようになるんだ。 やがて、そんな素敵な人とは、みんなが友だちになりたいときっと思うだろう。 友だちが多いことはよいこと? 「友情は喜びを二倍にし、悲しみを半分にする」という言葉を聞いたことはあるかな。 ドイツのシラーという作家の言葉と言われている。 こんな友だち関係を持てたら、本当に素敵だよね。 ぼくに相談を送ってくれた彼女は、「喜びは少しで、悲しみが大きい」状態と言えるだろう。 君はどうかな? この言葉は、つまりは、「喜びが二倍に、悲しみが半分に」ならないなら、友だちをやめた方がいいということだと、ぼくは考えてる。 なんだか、「友だちが多いほうが素敵」とか「友だちが少ないとみじめ」とか、友だちの数で、人間性を判断される空気があると感じるんだ。 多ければ多いほどいい。 そう思い込んでしまった大きな原因のひとつは、「一年生になったら」っていう、あの歌じゃないかと、ぼくは思っている。 「いちねんせいになったら ともだちひゃくにんできるかな」という歌詞だ。 君も、小さいときに大きな声で歌わなかった? あの歌が、ぼくたちに「友だちが多いことはよいこと」「友だちがいないことは恥ずかしいこと」と無意識に刷り込んだと思っているんだ。 でも、実際、100人も友だちがいたら、毎日、大変だよね。1人の友だちと10分話したとしても、全員で1000分、17時間ぐらいかかる。1日の残りは7時間しかない。 この世の中に、友だちが100人いる人がいるんだろうか、いたら本当に大変だぞと、ぼくは思うね。 本当の友だちは1人いればラッキー 本当の友だちは1人いればすごくラッキーで幸せなことだと、ぼくは思っている。 本当の友だちは、シラーのいう「喜びを二倍に、悲しみを半分に」してくれる人だ。 「おみやげ」の関係を大切にして、お互いが、相手の「喜びを二倍に、悲しみを半分に」できたら、ものすごく素敵だよね。 でも、そんな友だちと出会える人は、そんなに多くないと、ぼくは思っているんだ。 本当の友だちではなく、「友だちのふりをした人」と、なんとなくつきあう人が多いんじゃないかと思っているんだ。 だから、もし、君が、「ああ、本当の友だちだ」と思える人と出会えたら、ものすごくラッキーだ。 でも、出会えなかったとしても、そんなに悲しむことではないとぼくは思っている。それは、とてもよくあることなんだ。 『「ひとりは、みじめじゃない」…人生相談のプロが教える「“本当の”友達」「“本当の”恋」とは?』へ続く 【つづきを読む】「ひとりは、みじめじゃない」…人生相談のプロが教える「“本当の”友達」「“本当の”恋」とは?