家じゅうに溢れるほどものを集める、うそをつく、盗む。認知症の人の困った言動にどう向き合う?

認知症の人の介護はトラブルが多く、一筋縄ではいかないものです。さまざまな問題をかかえこみ、経済的にも悩みがつきません。ときにはつらさのあまり、介護をギブアップしそうになるでしょう。 しかし、認知症の人がすんでいる世界を理解すれば、介護をしやすくなるかもしれません。認知症の人は私たちの常識の基準とは少しずれている世界に生きていますが、どんな行動にもその人なりの気持ちや考えがあります。ただ、気持ちをうまく言葉にできないだけです。そして、その気持ちを理解する手がかりはあるのです。 この連載では、 『認知症の人の気持ちと行動がわかる本』 (杉山孝博監修、講談社刊)のエッセンスから、認知症と介護について、正しい知識と情報についてお伝えしていきます。認知症の人の思いやじょうずな介護の方法、利用できる社会制度・サービスを知れば、介護がぐっと楽になるはずです。 今回は、認知症の人の困った言動について調べてみました。 認知症の人の気持ちと行動がわかる 第11回 『入浴やリハビリは面倒で嫌だけど、車の運転は続けたい。認知症の人にありがちな「困りごと」への対応』 より続く。 食品から不衛生なごみまで何でも集めてしまう 認知症の人は、がらくたを集めてきたり、同じものばかり買い集めたりして、家の中がものであふれかえることがあります。食べきれない食品も、不衛生なごみも、他人のものも関係なし。「これがあれば安心」と集めてきます。 困ったことに、人に片づけられそうになると、「大事なものを盗まれる」と思いこみ、いっそう大事にしまいこみます。家族や周囲は、家がごみ屋敷になる、不衛生、自治体によってはごみの持ち帰りで処罰されることがある、万引きにつながることもある、などの問題が生じて困惑します。 収集癖の背景には、ものを集めることで、不安や孤独を埋めようとする心理が隠れています。とくに、今の高齢者は戦中・戦後と貧しい時代を経験した人が多く、ものに強いこだわりをもつ傾向があります。その時代に記憶が戻り、「もったいない」と、せっせとがらくたなどを拾い集める人も。 集めるものは、人によって異なりますが、石や紙くずなどさまざまです。米や砂糖など、同じ品物を大量に買いこむ「乱買」も、収集癖のひとつです。こだわりの対象はたいてい長続きせず、別の対象にうつります。本人は集めたくて集めています。その気持ちを考えて、無理にやめさせず、捨てるときも配慮しましょう。対応する際は、下記を参考にしてください。 *生活歴と不安が収集の理由なら 貧しい時代を生きた記憶や、話し相手がいなくて寂しいということが主な原因。苦労や不安を感じないように、心のケアをおこなう。 *大事なものは隠しておく 家の中でも目についたものを1ヵ所に集めだすことがある。持っていかれたら困るものは、あらかじめ隠しておく。 *本人のいないところで少しずつ処分する 不衛生なものや、たまりすぎたものは、本人にわからないように処分する。本人のいないときに少しずつ減らしていけば、気づかれにくい。 目の前に欲しいものがあったから 『犯罪白書』によれば、検挙された高齢者の約5割は万引きです。なかには、認知症の症状として万引きをしてしまう人もいます。 認知症の人の万引きの原因は、自分のものと他人のものの区別がつかない、ものへのこだわりが強い、レジでの会計を忘れた、などが考えられます。前頭側頭型認知症(ピック病)の場合は、万引きなどの反社会的な行為がめだちます。 家族は衝撃を受け、罪悪感でますます自分たちの居場所がなくなるような感覚に陥りがちです。しかし当の本人は、自分のしていることが「万引き」だと理解できません。「万引きはいけない」という常識はあっても、自分のしたことと結びつかないのです。 本人にしてみれば、目の前にほしいものがあったので、持ってきただけのこと。その行為を責められても「自分がやったのか」「なぜやったのか」、よくわかりません。他人事のように感じ、罪悪感もありません。 万引きは認知症の症状のひとつ。家族だけで対応しようとせず、周囲に事情を知らせ、万引きをしたときの対応を一緒に考えましょう。対応のヒントは以下の通りです。 *叱責しない 本人は自分が悪いことをしたという自覚がない。叱責すると態度をかたくなにしてしまう。 *店や警察に事情を伝えておく いつも決まった店でトラブルを起こすことが多い。あらかじめ相談しておき、協力を求める。 *心の張りをつくる 刺激がないと、認知症は急激に進む。生きがいをもたせ、再犯を防ぐ。 突拍子がなくても、本人にとっては真実 「猫におしっこをひっかけられて、下着がぬれてしまった」。 認知症の人は、たまに突拍子もない話をもち出すことがあります。ありもしないことを、実際に体験した話のようにつくりあげて言いふらす「作話」です。抜けてしまった記憶を、自分に都合のよいように補うので、聞いた人は呆れます。 けれども本人は大まじめです。誰かをだましたいのではありません。本人にうそをついている自覚はないので、反論したり、否定したりすると、反発します。 作話のなかには、近所の人に家族の悪口を言いふらすケースもあります。一見しっかりしたようすで話すので、近所の人が信じてしまうこともあり、家族は傷つきます。 本人は、自分の失敗を認めようとしません。「私がそんな失敗をするはずがない」と思っています。「では誰が?」と考えると、自己防衛の本能が働き、現実とのつじつまを合わせるために、「猫がやった」などと話します。自分もそう信じこんでいます。 そんな認知症の人に対して、「うそつかないで!」「なに言ってんの!」は禁句です。以下の対応を参考にしてみてください。 *作話をする心理を理解する 記憶障害によって、自分がおこなったことを忘れている。その空白を埋めようと推測するとき、自分にとって都合のよい話になってしまう。この心理を理解する。 *話を合わせる 自分の人生を美しく脚色する場合もある。うなずきながら話を聞き、けっして否定しない。否定すると妄想につながることがある。 *理由を考えてサポートする 「猫が服を引き裂いた」などと言う場合は、なにかしたいことがあって失敗した可能性がある。本来したかったこと(裁縫など)を、生活歴などから推察し、サポートする。 『目を離した一瞬のスキに…認知症の人の徘徊、行方不明や事故につながる恐れも』へ続く。 【つづきを読む】目を離した一瞬のスキに…認知症の人の徘徊、行方不明や事故につながる恐れも

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