自分のいる階層は「真ん中より上」か、「貧困層」か…「格差の構造」からわかる「日本の現実」

「中流幻想」ははるか彼方の過去の夢。 1980年前後に始まった日本社会の格差拡大は、もはや後戻りができないまでに固定化され、いまや「新しい階級社会」が成立した。 講談社現代新書の新刊・橋本健二『新しい階級社会 最新データが明かす〈格差拡大の果て〉』では、2022年の新たな調査を元に「日本の現実」を提示している。 本記事では、〈年収わずか216万、結婚できない「アンダークラス」…日本で進行する「階級社会化」の現実〉に引き続き、それぞれの階級の人がどのような仕事をしているのか、そしてどのような階級意識を持っているのか、詳しく見ていく。 ※本記事は橋本健二『新しい階級社会 最新データが明かす〈格差拡大の果て〉』より抜粋・編集したものです。 仕事の世界 それぞれの階級の人々は、どのような仕事をしているのだろうか。これをみたのが、図表1・7である。職種は六つに分類した。マニュアルとあるのは、生産現場職、技能職、運輸・通信職、農林漁業従事者を合計したものである。 資本家階級には、一般的な企業の経営者のほか、開業医、小売店主、町工場のベテラン職人など、さまざまな業種の人々が含まれるので、職種の幅が広い。管理職が45.4%と多いが、専門職が20.4%、事務職、販売職、サービス・保安職、マニュアル職がそれぞれ8-9%前後となっている。 新中間階級は専門、管理、事務の三つの職種からなる。専門職が47.0%ともっとも多く、事務職が39.5%で、管理職は13.5%と少ない。 正規労働者階級は販売、サービス・保安、マニュアルの三つの職種からなる。多いのは販売職(37.5%)とマニュアル職(39.1%)で、サービス・保安職は23.4%となっている。 アンダークラスでは、もっとも多いのが事務職(34.3%)、次いで多いのはマニュアル職(26.0%)である。予想されるように性別によって職種がかなり異なり、女性では事務職が44.2%と多いが(男性は18.9%)、男性ではマニュアル職が44.4%と多い(女性は15.7%)。 旧中間階級は多様な職種からなるが、もっとも多いのは専門職(38.0%)で、販売、サービス・保安、マニュアルがそれぞれ16-18%程度となっている。自営業者といえば、かつては小売店、町工場、農家などのイメージが強かった。今回の調査が大都市部を対象としていることもあろうが、中心が専門職に移っていることがわかる。 仕事に対する満足度 仕事に対する満足度をみたのが、図表1・8である。満足度は、仕事の内容に対する満足度と、仕事から得られる収入に対する満足度という二つの側面から尋ねている。 仕事の内容に対する満足度は、自分で事業を営む資本家階級、旧中間階級と、雇われ人である新中間階級、正規労働者階級、アンダークラスで大きく分かれた。雇われ人のなかでは新中間階級の満足度がわずかに高くなっているが、「満足している」という人の比率をみると、正規労働者階級やアンダークラスとの差は1-3%程度に過ぎない。新中間階級といっても雇われ人である限り、仕事から得られる満足感には限度があるようだ。正規労働者階級とアンダークラスの間には、まったくといっていいほど違いがない。 仕事から得られる収入に対する満足度は、ほぼ実際の収入額(図表1・3)のとおりになった。もっとも満足しているのは資本家階級で、次いで新中間階級の満足度が高く、旧中間階級と正規労働者階級が続き、アンダークラスはもっとも満足度が低い。二つの中間階級は、仕事の内容には満足していないが収入には満足している新中間階級、仕事の内容には満足しているが収入には必ずしも満足していない旧中間階級と、対照的である。 図表1・9は、仕事で感じるストレスと、仕事の上での自由度についてみたものである。 仕事でもっともストレスを感じているのは正規労働者階級、次いで新中間階級である。雇われ人である上に、それなりの責任もともなう仕事だからだろう。これに比べてアンダークラスでは、ストレスを感じる人の比率がやや低くなっているが、これは責任がなく期待もされていないことの裏返しだろうか。 それでも「かなり」と「ある程度」を合計すると過半数がストレスを感じているのだから、収入が低いことを考えれば割に合わない仕事である。資本家階級も過半数がストレスを感じている。仕事への満足度が高い反面、重圧もあるのだろう。もっともストレスを感じにくいのは旧中間階級である。 仕事の上での自由度は、先にみた仕事の内容への満足度以上に、はっきりと二分された。「自分のペースで仕事ができる」について「かなりあてはまる」と答えた人の比率は、資本家階級で32.0%、旧中間階級で46.3%に上ったのに対して、雇われ人の三つの階級はいずれも10%台にとどまる。 新中間階級はやや高いとはいえ、15.7%に過ぎない。専門職と管理職が多い新中間階級でこれほど低いというのは意外だが、これが現実なのだろう。「職場の仕事の方針に自分の意見を反映できる」では、さらに差が大きくなった。 「かなりあてはまる」と答えた人の比率は、資本家階級で41.2%、旧中間階級では49.4%に上るのに対し、雇われ人ではいちばん比率の高い新中間階級でもわずか7.7%にとどまり、正規労働者階級では6.0%、アンダークラスでは3.6%に過ぎない。 階層意識 階層意識とは、自分が社会のなかで占めている位置についての認識や、生活満足度や幸福感のような、自分の現状に対する評価全体を指すものである。とくに前者は、社会における自分の位置を「上」「中」「下」などと判定させる設問によって測定されることが多く、「階層帰属意識」とも呼ばれる。図表1・10では階層意識を、階層帰属意識と自分が「貧困層」に入るかどうかの、二つの指標で示しておいた。 (1)は階層帰属意識である。階層帰属意識といえば、広く知られているのは内閣府の「国民生活に関する世論調査」に1964年から盛り込まれている「生活の程度」に関する設問だろう。「日本人の九割は中流」だという風説の根拠となった調査だが、選択肢が「上」「中の上」「中の中」「中の下」「下」の五つであることから、真ん中の三つを合計すれば「中」が必然的に多くなる仕掛けになっていて、専門家の間ではまったく信頼されていない。これに対して今回の調査では、選択肢を「上」「中の上」「中の下」「下の上」「下の下」として、回答が「中」に集中しないようにしている。 一見して、階級によって階層帰属意識がまったく異なることがわかる。さすがに「上」との回答は少ないが、それでも資本家階級では9.4%と無視できない比率を占めている。これと「中の上」を合計すれば、自分を「真ん中より上」と考えている人の比率を示すことになるが、資本家階級ではこれが53.3%と過半数に達する。 これに対してアンダークラスでは、この二つの合計はわずか6.8%で、「下の上」「下の下」の合計が70.5%にも達している。「真ん中より上」の比率が資本家階級の次に高いのは新中間階級(37.6%)で、これに旧中間階級(27.7%)、正規労働者階級(21.6%)が続く。 自分を「貧困層」だと考える人の比率も、階級によってまったく異なる。アンダークラスでは「入る」が19.8%、「どちらかといえば入る」が23.0%で、合計すると42.8%に達する。これはアンダークラスの貧困率37.2%を少し上回る程度で、アンダークラスは全体として、自分たちの貧困状態をかなり正確に把握しているといえる。 二つの合計は、正規労働者階級と旧中間階級では、それぞれ16.3%、18.8%と近い水準にあるが、資本家階級と新中間階級はそれぞれ6.7%、8.4%で、ほとんど無視しうる比率となっている。 どちらの指標からみても、階級間の違いは非常に大きく、とりわけアンダークラスの異質性が目立つ。あたかもアンダークラスは、他の四つの階級から完全に切り離されているかのようである。 収入の大きさとは異なり、仕事のしかたという点では「事業主」と「雇われ人」の差は決定的であるといえる。これをみると、脱サラして自営業主に転じる人が多いのも納得できる。仕事の内容への満足度と仕事の上での自由度において、「事業主」と「雇われ人」がはっきり分かれるというこの事実は重要なので、心に留めておいていただきたい。その理由については、次章で考えることにする。 五つの階級から社会をみる 簡単な集計結果をみてきたが、資本家階級、新中間階級、正規労働者階級、アンダークラス、旧中間階級という階級五分類を用いれば、現代日本の格差の構造をくっきりと描き出すことができるということがわかる。 経済的な格差からみれば、資本家階級を頂点、アンダークラスを最底辺とし、アンダークラスの上に正規労働者階級が位置し、その上には収入の多い新中間階級と資産の多い旧中間階級という二つの中間階級が位置している。 経済的な格差だけではない。配偶関係からして大きく異なり、アンダークラスは結婚して家族を形成することが困難な状態にある。仕事の内容も大きく異なり、仕事から満足感を得られる資本家階級、旧中間階級と、なかなか満足感を得られない雇われ人の三階級(新中間階級、正規労働者階級、アンダークラス)の違いがはっきりしている。 これは仕事の上での自由度と関連していて、自分で事業を営む資本家階級と旧中間階級は仕事の上での自由度が高いが、雇われ人の三階級は自由度が低い。とはいえこの三つにも違いはあり、新中間階級はやや自由度が高いが、正規労働者階級とアンダークラスは自由度が低い。 こうした違いは、意識にもあらわれる。資本家階級は明確に、新中間階級もある程度まで、自分は豊かだと認識しているのに対して、アンダークラスは自分が社会のなかの下層に位置していること、貧困層であることを認識している。 本章では、ごく簡単な指標から基本的な格差や違いだけをみてきたが、『新しい階級社会』第三章以降では、さらにさまざまな観点から、各階級の特徴や対立関係などについてみていくことにする。 【もっと読む】日本が他国に誇った「一億総中流」はどこへ…?「格差拡大」による「新しい階級社会」が到来していた!

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