戦争に代わる解決策を「見つけられなかった」 東京大空襲の司令官・ルメイ 戦後に語った戦争観

太平洋戦争末期、米軍による日本本土への空襲で約40万人もの一般市民が犠牲となった。大きな転換点となったのが、1945年3月の東京大空襲だ。軍需施設などをピンポイントで狙う「精密爆撃」から、都市全体を無差別に焼き尽くす「焼夷弾爆撃」へ。その内情を語る作戦司令官カーチス・ルメイの肉声から浮かび上がるのは、急進的に戦果を急ぐ米軍の姿だった。 ■一般市民の犠牲避ける「精密爆撃」 失敗続きの米軍 日本本土への空襲が本格化するのは1944年11月以降。アメリカ軍がサイパンなどマリアナ諸島を占領し、日本本土が射程圏内に入ったためだ。 作戦司令官だったヘイウッド・ハンセルの戦略は、およそ1万メートルの高い高度から、軍需工場などを、ピンポイントで狙う「精密爆撃」だ。高高度のため、撃墜される恐れがないのと同時に、ハンセルは、「一般市民の犠牲を避けるべき」との強い考えを持っていた。 しかし、その精密爆撃は、失敗の連続。最大の敵は、日本上空を吹きすさぶジェット気流で、ねらった場所に投下できないうえ、機体も安定しなかった。また、高い高度からの攻撃も雲に視界をはばまれ、標的の確認を困難に。航空軍のトップは焦りを感じていた。 ■空軍独立へ 切り札は完成直後のB29 背景にあったのは、完成したばかりのB29をめぐる米軍内部での争奪戦だ。ハンセルの上司であり、本土空襲の最高指揮官でもあるヘンリー・アーノルドは、誰よりもB29の必要性を感じていた。高度1万メートルの安全圏から大量の爆弾を投下でき、さらに、これまでの戦闘機ではできなかったサイパンと日本の往復を可能にしたB29。当時、陸軍と海軍、それぞれの傘下におかれていた航空部隊だったが、「空軍」としての独立を目指すアーノルドは、B29で戦果をあげることこそが、切り札になると考えていたのだ。 だが、作戦失敗が続けば、B29がアーノルドのもとから、別の部隊にわたってしまう恐れがある。本格的な本土空襲は始まったばかりだったが、アーノルドは作戦を開始してから2か月足らずで、結果の出せない司令官・ハンセルの更迭に踏み切る。 ■抜擢された38歳ルメイ 「低空爆撃」への自信 新たな司令官に抜てきしたのが、のちに東京大空襲を実行する、カーチス・ルメイだった。1945年1月、司令官への着任当時38歳。ドイツ空爆で頭角を現し、最年少で陸軍少将に上りつめていた。上官から、ハンセルと“違うこと”が期待されていたことを理解していたルメイは、急進的なことをしようと、低空で攻撃することを決めた。 高高度からの攻撃から一転、対空砲火にさらされるリスクもある低空の攻撃へ。最大の目的はジェット気流を避け、地上に着弾させやすくすること、そして、標的との距離を縮め、命中率を高めることだった。 1943年から1944年にかけて、ドイツへの空爆作戦中に対空砲火で多くの被害を出した米軍。そのため、一部ではギャンブルとも言われた決断だが、ルメイには自信があった。 カーチス・ルメイ(1974年8月5日 カリフォルニア州の自宅で) 「持っているすべての偵察写真を見たところ、(日本は)ドイツが備えていたようには、低高度の対空砲火がない事がわかった。だから私にはうまくいきそうに見えた。何人かの部下に聞いてみたが、反応はまちまちだった。賛成する者もいたが、特にヨーロッパでの経験がある者は、低空爆撃を自殺行為だと考えた。しかし私にはいい方法と思えたので、最終的にやると決めた」 ■一帯を焼き尽くす「焼夷弾」 米軍の周到な準備 ルメイが決断した低空爆撃ともう一つ、米軍にはあたためていた作戦があった。ゼリー状の油を詰めこみ、あたり一帯を焼き尽くす焼夷弾(しょういだん)の大量投下だ。軍需工場をねらうそれまでの精密爆撃から一転、人口密集地をターゲットとして多数の市民を犠牲とする。アメリカ軍は、総力をあげ周到に準備していた。 布団や障子、畳、路地の道幅にいたるまで日本の町を精巧に再現し、どうすれば効果的に火災を起こせるか、そして日本の消防態勢では消すことのできない大火をひき起こせるか。綿密な実験を繰り返していた。 また、どの地域に焼夷弾を投下するのが効果的かも、入念に検討。現在の墨田区、台東区、中央区、江東区を中心とする地域を、米軍が最も破壊したかったエリア「ゾーンワン」として狙っていた。 ■無差別攻撃への転換点 研究者からの文書 市民が暮らす都市への焼夷弾爆撃へ。その転換点はどこにあったのか。 ルメイが着任する前の1944年10月、焼夷弾の研究者は、作戦決定の責任者に宛てた文書で、「焼夷弾攻撃には明らかな利点と、ばく大な可能性があるにもかかわらず、軍の上層部はまったく受け入れられず、潜在的な重要性を考慮していない」と訴えた。 そして、「戦争を早期に終わらせる上で、焼夷弾攻撃に、大きな潜在能力がある以上、敵に対してできるだけ早く集中攻撃すべきだ」「もし結果が望ましい場合には、焼夷弾攻撃を全力をあげて推進する用意をすべきだ」と主張したのだ。 この文書を受け取ったアーノルド。一般市民に犠牲を出す作戦について「日本は工場が小さく分散しており民家から近い」「市民に被害を出さずに軍事施設を破壊するのは事実上、不可能だ」と考えたという。 そして、本土空襲を指揮するルメイに焼夷弾爆撃を命じた。1945年2月、アーノルドが発信した電文には、その決断が記されている。 アーノルド発信の電文より(1945年2月) 「攻撃の目的は、消防能力を超える火災をひき起こす事だ」 「適切なエリアに十分な火災を起こせば、都市全体の消防設備でもコントロール不可能な広範囲の大火が発生するはずだ」 1945年3月10日午前0時すぎ、大空襲は始まった。 ■火の海と化した東京 B29からのスケッチ 作戦の指揮官・ルメイは、出撃した部下に、爆撃が終わるまで上空にとどまり、何が起こったか、炎がどう広がったかなどをスケッチするように命じた。焼夷弾の投下から39分後、1時間4分後、そして1時間39分後。火の海と化す東京の様子が記された。 およそ300機のB29から投下された32万発の焼夷弾。この日のことをルメイはこう振り返っている。 カーチス・ルメイ(1970年3月14日 カリフォルニア州ロサンゼルスで) 「大成功だった。東京の44平方キロメートルを焼き尽くした。アーノルドから『昨夜の任務は、君たちの部隊がどんなことにも果敢に挑戦する勇気があることを示した』とメッセージが届いた」 こうして始まった日本本土の都市を焼き尽くす爆撃。本土空襲は終戦の日、8月15日の午前まで続けられた。 ■現役軍人が語るルメイの評価 無差別爆撃を実行したルメイについて、現役の米軍人たちはどう見ているのか。アフガン空爆などを実行したマット・ディーツ大佐は、「軍人は時として自分の頭を2つに分けなければならない。軍事的な有効性と人道的な側面から考えなければならないのだと思う」という。 マット・ディーツ大佐 「ルメイは特定のミッションを与えられ軍事リーダーとして最善を尽くして任務を行おうとしたと思う。彼が責任を負う仲間をできるだけ安全に、早く戦争を終わらせたいと考えたのだろう」 「その結果は非常に悲惨なものだった。全部が良いことか、全部が悪いことか、どちらとも言えない。その両方を含んでいる」 東京大空襲から19年後の1964年、ルメイは日本政府から勲一等旭日大綬章を授与されている。航空自衛隊の育成に貢献したことなどが評価された。 ■原爆投下よりも「(大空襲で)多くの人を殺した」 ルメイ自身は戦争をどう考えていたのか。大空襲から29年後の1974年、ルメイ自身が語る言葉があった。 カーチス・ルメイ(1974年8月5日 カリフォルニア州の自宅で) 「戦争は問題解決の方法として最適ではない。もっとよい方法があるはずだ。しかし手段として戦争をしなければならないなら、できるだけ早く終わらせるべきだ。戦争を早く終わらせる事で長い目で見れば命が救われ、資源が節約され、人々を苦しみから救う事もできる」 「ここに極左リベラルが私をいらだたせる事の一つがある。彼らはこれらの事実を見ようとしない。未来に数え切れない死者を出さないために、今、より少ない人々の命を犠牲にする勇気がないのだ」 「私は原爆使用についての議論が理解できない。他の兵器より恐ろしいという事ではない。事実、広島への原爆投下よりも、我々は最初の低空爆撃(東京大空襲)で焼夷弾によって、原爆より多くの人々を殺したのだ」 ■「私たちは解決策を見つけることができなかった」 ルメイは未来を担う、空軍士官学校の学生に向けてもこう話している。 カーチス・ルメイ(1967年 アメリカ空軍士官学校で。アメリカの防衛力低下に関する質問に対して) 「若いインテリたちは『戦争は恐ろしい』『特に核戦争は恐ろしくて考えられない』『戦争はとにかく愚かなものだ』と思っているようだ。この点については私も同意するが、私たちはその解決策を見つけることができなかった。人間はまだそこまで進歩していないのだろう」

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