女子と接点がなくても「問題ナシ」 「コミュ障」にこそぴったり 「中高6年男子校」への懸念を徹底検証

 東京都内の私立中高一貫校から、地方の名門公立高校まで、男女別学のトップ校は今なお多い。それゆえこの男女平等が謳われる時代にも、「男子校」を目指す受験者の勢いは衰えることを知らないのだ。しかし保護者の中には、「男子だけで6年間も過ごして大丈夫か」「何かデメリットがあるのでは」と、不安を覚える向きもあろう。前編の記事【「男子校人脈で食いつなぐ弁護士」も 時代の流れに抗う「男子校」の“真のメリット”と驚くべきビジネスネットワークとは】では、将来のビジネスにおいても役立つ強力な男子校ネットワークの実態などについて、全国5000にも及ぶ塾の関係者(計20,000人)を取材してきた教育ジャーナリストが解説した。後編では、保護者が抱える男子校への懸念や疑問に答える形で、男子校の実態を詳述する(西田浩史/追手門学院大学客員教授、学習塾業界誌『ルートマップマガジン』編集長) (前後編の後編)  *** 【写真】開成、麻布、灘…名門男子校らしい伝統あふれる校舎の数々  めでたく男子校に合格しても、女子との接点のないまま成長することを不安視する保護者は多い。この点については、多くの塾関係者が「全く問題ない」と口を揃える。 知られざる「中高6年男子校」のメリット・デメリットとは  全国の中高一貫校の事情に詳しい、神田女学園中学校高等学校の法人事務局部長の川畑浩之氏によれば、 「学園祭、部活動の大会、大学入試に向けて通っている学習塾や予備校内でも少なからず女子との接点はあります。共学校でも、女子と接点が少ない男子はたくさんいますから」  さらに東京の大手塾関係者は、 「言い方は悪いですが、その年齢の子どもの女子との接点といえば、興味の延長程度のものです。ですから、女子と接点がないことでその後の影響など不安視する必要は全くありません」  と話す。  近年では、芝学園や品川女子学院のように、男子校、女子校合同の体験授業や生徒会活動を通して生徒間交流を行うといった新しい動きもあるようだ。 「コミュ障」こそピッタリの環境 「うちの子はコミュ障であるし、男子校だといじめられるかも」「コミュ障のまま大人になるのでは」と今後を心配する保護者も多い。  しかし男子校は、いじめの原因の一つとされる「スクールカースト」(生徒間の序列構造)が形成されにくい。よって、 「どんな性格、特性であっても溶け込めやすい。だから『コミュ障』こそピッタリの環境」  と多くの塾関係者は語る。 「コミュ障」といわれる子であっても、何かに没頭できる環境の中で、自分の強みを発見することで、自信をつけて、入学後、「コミュ障を克服した」という話も珍しくない。 「オタク」を存分に出せる 「スクールカースト」(生徒間の序列構造)は、中学という時期特有の、勉強やスポーツで見栄を張るための、いわゆる「少しでも女子によく見てもらうための意識」によって形成される。  こうしてできた序列の上位が、下位と接点を持つことは少なく、同じ序列同士で狭く交流する傾向にある。下位はどちらかといえば、自分を出せず、ひっそり学校生活を送ることになる。この構造が、共学校の中高一貫校ならば、高校段階まで続く。  また勉強面では、中学生のうちは、上位に女子が位置しやすい。高校生になって、男子が抜き返すパターンが多いのだが、中学入学段階のスタートで、成績が上位になれず、それに圧倒され、自信をなくし、高校までそれを引きずって、大学入試でうまく成果を出せなかった男子も少なくないという。  こうした共学ならではの問題が、男子校ならおきにくい。  どんな性格、志向性があっても居場所があるのだ。何かの「オタク」などであってもバカにされにくい。それを存分に出せる雰囲気もある。たとえ「コミュ障」であってもなんとかなるのだ。男子の名門中高一貫校でオタク的な部活動が盛んなのはこういった背景があるからだといえよう。  京都市の大手塾関係者は、 「真剣に6年間、自分に向き合って、得意、不得意なことなどを知り、社会人になるためのベースとなる『自分の特性』を発見していくのが中高一貫男子校」  と力説する。 変化を嫌う傾向  最後に、男子校のデメリットを指摘しておこう。  難関の男子校は、戦前からながらく続くエリート養成機関的な側面があったところが多い。「進学実績が良かったから」「経済界などで学閥の力が強かったから」など、共学化しなかった理由は諸説ある。いずれにせよ、長い年月をかけて、“男子専用”の学校として独自に発展してきた経緯や伝統にプライドをもつ学校幹部が多い。  その流れで、多くの塾関係者が挙げるのは、学校経営者の考えが「固い」こと。いわゆる、変化を嫌う傾向があるのだ。  東京の大手塾関係者によれば、海外大学を受験するにあたって必要な「グローバル教育」や、総合型・学校推薦型選抜に必要な「探究学習」など新しい教育の取り組みは、共学校の方が先行している場合が多いという。さらに、学校主導で何か新しいことをやるということにはめっぽう弱いようだ。  ある関西の男子中高一貫校では、先進的なライバル校の動きを横目に不安になったOBたちが、動きの鈍い母校の経営者に押しかけて意見したという逸話もあるほど。裏を返せば、生徒の自主性に徹底的に任せてきた校風とも見て取れる。  こうした時代の流れゆえか、共学化の波もまた起こりつつある。開成中学・高校の野水勉校長のインタビュー(日本経済新聞2023年10月28日号)で、「将来、共学化はありうる」といった発言があったことも話題になった。もしこれが本当におきれば、多くのライバル校でドミノ的に共学化が進行することさえありえる。天下の開成であっても、近年進む共学校人気の動きは無視できない状況になってきているのだろうか。 〈前編の記事【「男子校人脈で食いつなぐ弁護士」も 時代の流れに抗う「男子校」の“真のメリット”と驚くべきビジネスネットワークとは】では、将来のビジネスにおいても役立つ強力な男子校ネットワークの実態など、「中高6年間男子校」のメリットについて詳述している〉 西田 浩史(にしだ ひろふみ) 追手門学院大学客員教授、ルートマップマガジン社 取締役・編集長、教育ジャーナリスト。2016年ダイヤモンド社『週刊ダイヤモンド』記者、塾業界誌記者を経て、19年追手門学院大学アサーティブ研究センター客員研究員、20年から現職。全国5000にも及ぶ塾の関係者(計20,000人)を取材。著書に『中高一貫校vs地方名門 最強の高校』『大学序列』(週刊ダイヤモンド特集BOOKS ダイヤモンド社)など。 デイリー新潮編集部

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