なんと「小学生が喫煙」していた時代があった!「お酒と煙草は20歳から」の驚くべき真実!

男と女はどう線引きすべき? 成人の定義って? 安全な堤防の高さとは? 混迷するボーダレスの時代に基準値の進化は止まらない! 『世界は基準値でできている 未知のリスクにどう向き合うか』、 2014年に出版され大反響を読んだ名著『基準値のからくり』、待望の続編!! *本記事は、『世界は基準値でできている 未知のリスクにどう向き合うか』(ブルーバックス、2025年刊行)を再構成・再編集してお送りします。 少し長いまえがき 世の中には、さまざまな基準値がある。それらの多くは、私たちの「安全」を守るために定められている。私たちは基準値に囲まれ、基準値に守られて暮らしているといっても過言ではない。 しかし、「基準値の○倍もの量が検出された!」というニュースはよく目にしても、その基準値はどのようにして決まったのか、基準値を超えると私たちの身に何が起こるのか、といったことは、案外、あまり解説されていないのではないだろうか。 基準値のなりたちを知ることは、そこにあるリスクにどう向き合えばよいのかを知ることでもある。そして基準値の決定には「科学的な評価」のみならず、社会・経済・文化など、さまざまな要素も加味されるため、基準値の根拠を探ることは「世の中の意思決定のしくみ」を探ることでもある。そんな純粋な面白さが、基準値には隠されているのだ。 「基準値を超えた/超えない」「基準値が高すぎる/低すぎる」といった表面的な議論にとどまらず、基準値の根拠から導出過程までをわれわれ4人の基準値オタクが深掘りしたブルーバックス『基準値のからくり』は2014年に出版され、幸い多くの人に読んでいただいた。われわれの周囲でも「面白い!」という反応を多数いただいた。 だが、それから10年以上が経ち、基準値をめぐる状況は大きく変化した。 まず、なんといっても新型コロナウイルスが全世界にもたらしたパンデミックは、濃厚接触の定義、濃厚接触者の自宅待機期間、ソーシャルディスタンスなど、新たな基準値をいくつも生みだした。 また、原発事故により発生した処理水中のトリチウム濃度が基準値以下であることを厳密に監視されているにもかかわらず、中国が処理水放出に反対して日本産の水産物の輸入を一時停止するなどの問題も発生した。 さらには、「PFAS(ピーファス)」という耳慣れない化学物質による水質汚染が世界中で問題となって各国が基準値を策定したりと、より大きなスケールで基準値が議論されるようになった。 一方では、「ボーダレス化」の流れも進んでいる。そもそも基準値とは、さまざまな事象に明確な境界を示そうとするものだが、たとえば「男は男らしく、女は女らしく」といった性別に関する価値観が変化し、「大人と子供」についても、飲酒・喫煙や選挙権・被選挙権が認められる年齢は、このあと示すように線引きが複雑になってきている。 そして「機械と人間」についても、いまやAIが作成した文章が人間のそれと区別がつかないほどになった。 しかしながら、社会の中でルールを決めるときには、ボーダレスなものにあえてボーダーを引くことも求められる。そうした線引きの根拠を探ると、隠れたさまざまな苦悩も見えてくる。 さらには、「安全」という概念そのものが、広がりを見せている。以前は安全といえば、健康や環境、事故や災害、犯罪に関わるものであることが多かったが、近年では、組織への信頼にもとづく心理的安全性や、デジタル化やSNSの発展にともなうプライバシーや人権の侵害に対してまで安全が求められるようになっている。 こうした変化を踏まえて続編を望む声が多く寄せられ、著者らも「もう一度書きたい」という思いを強くしていった。そこで、前著でカバーしきれなかった基準値や、10年前には存在しなかった新しい基準値などを取り上げて、それらの根拠や導出プロセスを解説したのが本書である。 前著を読まれていなくても本書を読むのにまったく不都合はないが、あわせて読むともっと面白いことはわれわれが保証する。 お酒はなぜ「やっぱり20歳」からなのか? ここで早速だが、前著の「まえがき」で解説した「飲酒が認められるのはなぜ20歳からか?」という問題について、その後の経緯と、現在の状況をみてみよう。 2022年4月1日、民法改正にともなって、「成年」の年齢が20歳から18歳に引き下げられた。ただし、飲酒や喫煙、(競馬などの)ギャンブルなどが許されるのは「20歳以上」のままで変わらなかった。 そのため、制度的にはかなりややこしいものとなってしまった。たとえば、2024年のパリオリンピックで日本代表に選ばれた19歳の選手が、飲酒・喫煙が明らかになったため出場辞退となったときは「なぜ成年である18歳以上なのにダメなのか?」といった声がSNSなどで多数見られた。 前著でも紹介したように、そもそも飲酒開始年齢が20歳に決まったのは、アルコールの有害性などの科学的な知見を根拠にしたというよりも、「20歳以上は成年であること」にもとづいていた。 「成年」になれば、行動はすべて自己責任となるなど法律の面で自立するから、というわけである。ならば成年年齢が18歳になれば、飲酒も自動的に18歳以上からとならなければ辻褄が合わないはずだ。なのに、なぜそうならなかったのだろう? 疑問は膨らむばかりだ。 飲酒開始年齢のほかにも、もとは「20歳」が基準とされていたものは多数あった。ところが、2022年の民法改正では、18歳に引き下げられたものもあれば、20歳のままのものもあった。それまでの規定が「20歳」と記されていたり「成年」であったりとまちまちだったため、従来は20歳=成年だったのでどちらでも同じだったのだが、統一できなくなってしまったのだ。 たとえば驚くべきことに、医師免許も、20歳以上から18歳以上に引き下げられた。とはいえ医学部を卒業しなければ医師国家試験を受験できないので実質上は意味がないのだが、それまでの規定が「未成年者には免許を与えない」であったので、従来通り「20歳以上」を維持するには法律を改正する必要がある。それは大変なのでやらなかったのだろうと想像される。 じつは飲酒については、法律の名称は「未成年者飲酒禁止法」である一方で、条文のほうは「未成年者」ではなく、「満二十年ニ至ラサル者」となっており、記載が一致していなかった。 このため、この法律は名称のほうを「二十歳未満ノ者ノ飲酒ノ禁止ニ関スル法律」と改められることになったのである。ちなみにこの法律は1922(大正11)年に制定されたので、ちょうど100年後の改称だったのだが、令和の時代に、条文の“大正っぽさ”が反映されて、カタカナ交じりの名称となったことには驚かざるをえない。 では、なぜ飲酒は18歳以上とならなかったのだろうか? じつは成年年齢引き下げについて法務省が検討した経緯を見ると、不思議なことに飲酒については議題にすら上がっていない。だが2015年9月1日付の報道によれば、自民党の「成年年齢に関する特命委員会」は、飲酒と喫煙の禁止は18歳未満に引き下げることが妥当、との提言をまとめようとしていたようだ。 これに待ったをかけたのが日本医師会だった。9月9日、日本医師会は自民党の稲田朋美政務調査会長に、飲酒開始年齢の18歳への引き下げを撤回するよう申し入れた。 結果として9月17日に政務調査会が公表した成年年齢に関する提言では、飲酒開始年齢の引き下げは「賛否両論あり引き続き検討する」と、トーンダウンしたものになった。法務省はこれを見て、飲酒開始年齢を変更する必要はなくなったと判断し、検討しなかったのだろうと想像される。 タバコはなぜ20歳からなのか? 飲酒とともに、喫煙も20歳からであることは誰もが知っているが、どうしてそう決まったのかは、意外に知られていないのではないだろうか。じつはそこには、飲酒とはまた違った論理が適用されているのだ。 若者の喫煙を禁止する動きのはじまりは、19世紀末に遡る。1894(明治27)年に文部省は「小学校ニ於ケル体育及衛生ニ関スル訓令」において、 「小学校ニ於テ生徒ハ喫烟スルコト及烟器ヲ夾帯スルコトヲ禁スヘシ」 として、小学校における児童の校内での喫煙が禁止された。なんと当時は、喫煙する小学生も珍しくなかったということだ。 その5年後の1899(明治32)年、根本正(しょう)衆議院議員らは、第14回帝国議会で「幼者喫煙禁止法案」を提出した。その第1条には「十八歳未満ノ幼者ハ煙草ヲ喫スルコトヲ得ス」と書かれていた。もちろんタバコに含まれる成分が健康に悪いことが理由であるが、当時の議事録からは、別の側面も明らかになってくる。 折しも、朝鮮の支配をめぐって日本軍と清軍が戦った日清戦争が終わり、次のロシアとの戦争に備えて日本政府が軍備拡張を進めている時期だった。根本議員は法案の提出理由について、国内で子どもの喫煙が増えていること、国際情勢に緊張が増しつつあることについて触れたのちに、次のように述べている。 「……スペインとアメリカが戦争をしました時分に各地方から兵卒を呼びまして、そのうち取り除けられた青年があります、その取り除けられた青年の100人の中90人は幼少より煙草を喫(の)んだものであるということが書いてあります、……20歳以上の人には害は少ないが、18歳以下の人にはよろしくないものであるというて、ヴォルチニア(ヴァージニア)州では18歳以下の子供には、一切煙草を売ることを法律をもって禁じてある……」(12月12日の衆議院議事速記録より) つまり、強い兵隊をつくるために喫煙を禁止しようというのである。「18歳」とした根拠について聞かれた根本議員は、個人的には丁年(成年)としたかったが反発も多いだろうから、米国のいくつかの州などで採用されている18歳としたと述べている。 だが、他の議員から18歳ではなく徴兵年齢である20歳に至らない「未成年者」に修正すべきとの提案が相次いだため、法案名を「未成年者喫煙禁止法」に変更したうえで、「20歳以上」とされたのだった。 100年以上経って成年年齢の引き下げが決まり、成年年齢が満18歳に引き下げられたときに、そのままだと喫煙年齢も18歳に引き下げられるので、飲酒と同様に「20歳」を維持するため、名称が「二十歳未満ノ者ノ喫煙ノ禁止ニ関スル法律」に変更されたのだ。だが、名称変更の理由として、次のように述べられていることには首を傾げざるをえない。 「未成年者喫煙禁止法が20歳未満の者による喫煙を禁止している趣旨は、民法の成年年齢の定めとはその趣旨を異にし、健康被害防止及び非行防止の2点にあることから、喫煙を禁止する年齢については、引き続き20歳未満とすることとした」 これまでに、健康被害防止のためには喫煙の開始は18歳がよいのか20歳がよいのかといった議論はほとんどされていなかった。にもかかわらず、喫煙開始年齢を「成年」から「20歳」に変えるというなら、なぜ「20歳ならOK」なのか、医学的見地からその根拠を明らかにすべきであろう。 この際、飲酒や喫煙は何歳からOKなのかについて、正面から検討してみてはどうだろうか。もっとも、それをすると医学的見地からは全面禁止になってしまうかもしれないが。 「酒気帯び運転」が「努力義務」だった時代があった…「飲酒運転厳罰化」のウラにあった「世紀末の悲劇」。

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