「国分・コンプラ違反」に日テレが「ゼロ回答」を貫いた本当の理由 会見に隠されていた“周到な仕掛け”とは

 コンプライアンス違反が明らかになった「TOKIO」のメンバー、国分太一氏(50)を巡り、テレビ各局の大騒動が止まらない。雑誌や新聞、テレビ局の記者たちの間では、発表前日から「日テレの『ザ!鉄腕!DASH!!』を巡り国分さんにトラブルが起きているらしい」という情報が飛び交っていた。次いで日本テレビの福田博之社長自らが記者会見をすると発表したことで、「よほどヤバいことのようだ」「反社会的勢力との関係があったらしい」「中居問題のような女性関係らしい」との臆測が広がり、緊張感が高まっていった。しかし翌日の記者会見で福田社長は、「プライバシー保護のためお答えできません」との発言を連発。記者が怒声を浴びせるなど大荒れとなった。なぜ社長はこうした対応に終始したのか。そこには、「フジの二の舞だけは避けたい」という、周到な計算があった。 国分太一氏と日本テレビ  *** 【写真】万博にライブ配信、ロケ収録…日テレが事案を把握した5月27日、国分太一氏が行っていたこととは 周到な段取りをうかがわせる記者会見  フジテレビが初回の記者会見の失敗から火だるまとなったことは、日テレにとって明らかな教訓となっていた。フジは「中居問題」を受け、初めて開いた記者会見でフリーランスの記者の入場を認めず、会見映像や音声の配信も行わなかった。これに批判が殺到し、二度目の会見を開かざるを得なくなった。そこではすべての記者に参加を認めた結果、会見は10時間もの長さに。ガバナンス体制の欠如が明らかになった。  それだけに今回の日本テレビの記者会見ではフリーランスの記者も入ることが許され、テレビ映像も10分遅れではあるが同局が撮影したものがすべて配信されることになった。そのためネットでの動画配信も可能になった。こう書くと開かれた記者会見が行われたかに思えるが、実際には「仕掛け」がいくつもあったと筆者は感じた。  例えば、記者が通された場所は、ロビーの端にある狭いスペースだった。日テレ社長も関係者も含めて立ったままでの進行となり、長時間会見となることを予防していることがわかる。記者は1社2名とされたため参加人数も70名強と少なめに抑えられた。会見中に隠れて同時配信を行っていることを指摘されたジャーナリストが途中で制止される場面もあり、要注意なフリーランス記者は事前にマークされていたことが窺える。  また福田社長は記者の角度を変えた質問や挑発にも「本当に申し訳ありません」と丁重に答えつつも事案の詳細については「プライバシー保護のためお答えできません」と一貫して回答から逃げた。想定問答を手に持っていないことからリハーサルも行ったように見受けられる。白いワイシャツに地味なネクタイと、記者会見で適切とされる服装にコーディネートもされていた。結果的にフジテレビと比べて詳細な説明は避けつつ短時間のうちに会見を終えることが可能になった。  また、この入念な記者会見のあと、速やかに株式会社「TOKIO」のHPで国分氏のコメントが発表されたことは、事務所側とのすり合わせも入念に行われていたことを示唆している。  日テレに出入りする広告代理店関係者は「福田社長は営業畑が長く、あえて本人が矢面に立つことで番組ぐるみではないということを発信したかったのだと思います。国民的な人気番組、そして局の番組すべてを守るための戦術」と解説する。 「重大なコンプライアンス違反」としたワケ  本件について、福田社長は記者会見では「刑事告訴をする事案ではない」と断じている。本件の事情を知るある芸能関係者も「中居問題のような性加害の案件ではなく、わいせつな画像を見せたりするセクハラレベルの内容」だと話す。しかも社長は事案を「深刻なもの」と述べながらも、「個人的な問題」で「日本テレビの社員や制作会社も関与していない」と説明をした。  すなわち、「刑事告訴されるレベル」の事案とされ、フジの幹部社員も密接に関わっていた「中居問題」とは、状況は明らかに異なる。この言葉が本当だとすると、なぜ日テレ側は臨時の取締役会を開催してまで国分氏の降板承認をしたのか。取締役会で降板を決めたということは他の局も含めて前代未聞で、加えて社長自ら記者会見を開く必要があったかどうかに疑問が浮かぶところだ。  日テレの判断のポイントは2つあるように思える。  ひとつはコンプライアンス重視の姿勢を徹底させることだ。フジの場合は、被害に遭った女性アナウンサーの訴えをはじめに受けた段階で、当時の港浩一社長、大多亮専務ら一部の幹部が密室で対応を協議し、不透明かつ恣意的にも見える措置を取ってしまった。これが第三者委員会で問題視され、結果、両名はフジから損害賠償請求される事態にまで発展した。一方の日テレは被害申告の初期段階から幹部が対応に乗り出し、臨時取締役会まで開いて意思決定をしている。あるライバル局幹部は、 「日テレ社員が関わっていないのが本当だとすると、それでも臨時取締役会まで開いて決定をするところに、フジテレビの二の舞にはならないという強い信念を感じた。それだけコンプライアンスが重要な時代にテレビ界も急激に変化している」  と述べた。 被害者保護  もうひとつは被害者保護の徹底だ。フジは女性アナウンサーへの対応が不十分なものに終わり、結果、被害者は会社を辞し、情報も外部に漏れた。一方の日テレは社長が「お答えできません」と曖昧に答え続けたことでその場では批判を浴びたが、結果、被害者の特定に繋がる動きは広がらず、被害者の保護に成功、信頼関係を維持しているように見える。  これらの対応が評価されているのか、現状、フジのようにはスポンサー離れなどの動きは起きていない。  メディア業界に詳しいリスクコンサルタントは、 「コンプライアンス時代だけに、どんな案件も自ら軽微だとは言えないのが本音。“あのくらい”という言葉が許されない時代、“軽微だ”と言った段階で炎上する時代であることを理解して慎重すぎるほど慎重に対処できていることが、フジとの違いだと感じた」  という。  しかしこのコンサルタントはこうも指摘する。 「社員や制作会社の関与が無いと断言しているわりに、その調査にどれくらいの人数が関わり、どれくらいの時間をかけて行ったのかが曖昧。調査人数が曖昧で少なそうなことが気になった」 戦々恐々の他局幹部  このように、様々な思惑で行われた「大人の事情」満載の記者会見だったが、異例ずくめの日テレの対応に、穏やかではないのは他局幹部たちだ。国分氏は人気タレントであるだけに、多くのレギュラー番組を抱えており、彼の関係する番組はひとまず放送休止対応とする例が相次いでいる。出演CMも放送見合わせが同様に発生しているという。が、いつまでも「休止」というわけにもいかず、視聴者への説明の必要の有無含めて今後の対応を早々に決めなければならない。  ライバル局の編成関係者は、 「コンプライアンス違反の内容を様々なルートで確認すること。自局のレギュラー番組では類似の問題が無かったのか確認をすること」という指令が出ており、担当者は休日返上で走り回っているという。また別の局の制作関係者は「国分氏を特番のメイン司会者に予定していただけに、代打の司会者をどうするのか早急に決めないとならず、本当に時間が無い。しかも詳細がわからないだけにスポンサーへの説明も困り果てている」  という。  芸能界やテレビ界は昭和どころか平成以降もハラスメント満載な業界だと指摘されていた。ある局の制作プロデューサーは、 「この状況なので、どんな細かいこともすべて注意して、役員に報告しなければならない。昔気質のお笑い芸人などは息苦しいと感じることも多いだろうが、報告漏れが起きれば、即処分というほど厳しい状況だと感じている」  と本音を漏らす。 田原俊彦もすぐに公表  折しもTBSラジオは、日テレの会見と同日「生放送された番組で、ゲストの田原俊彦さんが、アナウンサーに不適切な行動や発言を繰り返した」と発表した。田原が性的な発言を行ったり、女性アナウンサーの手に触れたりしたためで、同局は本人に注意をしたという。かつてなら「トシちゃんも64歳、ますます元気だね」で済まされていたケースだが、今ではそんな対応が許されなくなった。ゲスト出演者の、わずか1回の発言も問題があれば速やかに公表することに、TBSも日本テレビ同様、フジテレビ問題以降の放送現場の「コンプライアンス重視」の姿勢を堅持していることが示されている。フジテレビ問題以降、軽い気持ちで派目を外した言動が、タレントにとっては一発で命取りになる、そんな時代が訪れているのである。 多角一丸(たかく・いちまる) 元テレビ局プロデューサー、ジャーナリスト デイリー新潮編集部

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