「3万円という額は、後付けの方便」 現金給付案に専門家から批判の声 「政府の説明はインチキ」

【前後編の後編/前編からの続き】  参院選を目前に控え、石破茂首相(68)が打ち出した「現金バラマキ」案が世論調査などで不評を買っている。そんな中、野党第1党である立憲民主党の野田佳彦代表(68)は最後の最後まで内閣不信任案を提出することはなかった。終盤国会で繰り広げられた「大いなる茶番劇」を振り返る。  *** 【写真を見る】いつになくサマになってる……石破首相の「超高級オーダースーツ」姿 “ヨレヨレ”と心配された普段の着こなしと比較すると  前編【「野党が選挙を怖がってどうするの」 立民の不信任案見送りに小沢一郎氏が痛烈なコメント】では、立憲民主党の小沢一郎・党総合選挙対策本部長代行(83)にインタビュー。今国会で内閣不信任案が提出されなかったことに対する思いを聞いた。 石破茂首相  一方、国会閉会後も引き続き注目を集めるのは、石破首相が表明した「現金給付案」であろう。  国民1人あたり現金2万円、住民税非課税世帯の大人とすべての子どもにはそれぞれ2万円上乗せして4万円ずつ配る方針で、自民、公明両党が参院選の公約として掲げる予定だという。現金給付案は4月にも浮上したが、「バラマキ」との批判を受けて見送りとなった。なぜその案が今になって復活したのか。 「今回、『現金給付案復活』を中心的に推し進めたのは財務省出身の木原誠二選挙対策委員長です。参院の改選組が“なんとかしてくれ”と騒ぎ、松山政司参院幹事長が、同じ旧宏池会の木原選対委員長に泣きついた、という構図です。木原選対委員長が、やはり同じ旧宏池会の林芳正官房長官にも根回ししていた、とも耳にしています」(政治部デスク)  最終的には森山裕幹事長も了承した「給付案復活」。 「ただ、森山幹事長は一貫して慎重な姿勢でした。4月に給付金案が国民からの反発を受けて見送りになったことに森山幹事長はショックを受けていて、周囲には“ウケが悪いならやめたらいい”という趣旨の言葉を漏らしていました」(同) 「3万円という額は、後付けの方便」  その森山幹事長に聞くと、 「(総務省が公表している)家計調査を基にすると、食費にかかる1年間の消費税の負担額は国民1人あたり2万円。だから全ての人に2万円を給付するということです。軽減税率を時限的に0%にするという野党の政策にも応えられます。しかも、できるだけ早く国民に届けるためには、野党がおっしゃっている減税政策では時間がかかり過ぎますが、給付金という形であれば、より早く対応できます」  件の家計調査を基に算出すると、外食も含めた食費にかかる消費税は1年間で約3万2000円。国民1人につき2万円ずつ配っただけでは少々足らないようだが、 「森山幹事長が2万円という額について『1年間の食費にかかる消費税の負担額』と説明しているのは、後付けの方便にすぎません。2万円という額は、税収の上振れ分3兆円の枠組みありきで決めた数字です」(前出の政治部デスク) 「財政健全化という方向性とは違ってしまう」  税収の上振れ分を国民への現金給付の財源とすることについて、元大蔵官僚で法政大学経済学部教授の小黒一正氏はこう話す。 「いくら税収の上振れ分があるといっても、3兆円超の財政支出拡大は需要を刺激しインフレ圧力を高める可能性もあり、焦点を絞った給付にすべきです。インフレによってダメージを受けている人々がいるのは事実ですので、そこに絞って給付するのが望ましいと思います」  政府は2025年度に国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)を黒字化する、との目標を立てていたが達成は困難とみられている。 「度重なる巨額の補正予算も継続しており、そんな状況下で給付金を国民全員に配ることは、財政健全化という方向性とは違ってしまいます。骨太の方針の記載との整合性に疑問が生じてくるのではないでしょうか」(同) 「政府の説明は全部インチキ」  政治アナリストの伊藤惇夫氏も苦言を呈する。 「2万円は1年間の食費にかかる消費税分、などという説明は全部インチキ。バラマキを隠すための詭弁ですよ。税の上振れ分は国債の償還に回すか、子育て支援や社会保障全般などの政策に割り振るべきです。上振れ分を国民に還元します、というのは意味が分かりません」  先の政治部デスクによると、バラマキとの批判が巻き起こることは石破首相も気にかけているといい、 「それで一律4万円を配るのではなく、子ども・低所得者には4万円、それ以外には2万円という形で差をつけたのです」 「みこしに担がれているだけで何も準備してこなかった」  しかし、案の定と言うべきか、国民の見方は厳しかった。朝日新聞の世論調査では、給付金案を「評価する」とした人は28%にとどまり、「評価しない」が67%にも上ったという。  参院選で自民党と対峙する立憲民主党にとってはチャンスといえるが、 「ここに至っても野田さんが不信任案を出さなかったことで、自民党との大連立を裏で画策しているのではないか、と言われてしまうことになるでしょう。実際、大連立に関しては、財務省の新川浩嗣事務次官がそのようなことを周囲に吹聴している、という話もある」  と、立憲民主党関係者。 「衆参ダブル選になる可能性があるということは半年も前から分かっていたのに、野田さんはみこしに担がれているだけで何も準備してこなかった。その間に他の野党の党首と膝詰めで相談していなかったのだから、今になって話をまとめることなどできるはずもありません」 「裏金議員がどうこうとか、揚げ足ばかり取って……」  元自民党事務局長で選挙・政治アドバイザーの久米晃氏が慨嘆する。 「結局、与党も野党も大きい意味での展望を国民に示せていない。イランとイスラエルの紛争や、中国の領海侵犯に関して、与党から何か大きな展望が示されましたか? 立憲も同じです。裏金議員がどうこうとか、揚げ足ばかり取って、そんなこといつまで続けるのでしょう。そういう絶望感が国民にまん延しているからこそ、投票率もどんどん下がっているのではないですか」  側近不在で判断を誤り続ける首相と、勝負を決断できない野党第1党代表。われわれが見せつけられているのは、情けないリーダー二人による大茶番劇だ。 「週刊新潮」2025年6月26日号 掲載

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