古米・古古米・古古古米…備蓄米の放出は″誰に″に届いたのか…〜フードバンク ピンチの夏〜

小泉農水相の一声で放出を続ける備蓄米。「価格を下げる」と意気込み、5年前の備蓄米にまで手を伸ばし、酒米など加工用の需要にも応える姿勢も見せており、まさに“コメ担当大臣”という働きだ。 街のスーパーでは備蓄米を求めて行列ができ、購入制限のある場合も多い備蓄米を手にした人たちは「やっとお米を買えた」とほっとしている。 しかし…いくら放出を続けても、コメの価格が下がっても、それを口にすることができない人がいる。様々な事情で生活に苦しみ、その日を暮らすので精一杯な"生活困窮者"と呼ばれる人たちである。彼らにとっては5キロ2000円を切るお米も、手を出すことが難しい現実がある。 ■お米がない!フードバンクが緊急事態宣言 「3月末で米が底をついた。倉庫の中は空っぽで4月は米の提供ができなかった」 こう話すのは、東京都荒川区でフードバンクを運営する一般社団法人「あじいる」のスタッフ中村光男さん(74)。2000年の設立以来、初めてのことだったという。生活困窮者にとって命綱とも言える場所で底をついた米。それは、米の寄付やカンパを求める「緊急事態宣言」を発信するほど深刻だった。 ■命綱が絶たれる・・・提供先の団体からもSOS 生活困窮者などの支援団体に食料を無償提供する活動を行う団体、フードバンク。全国に289団体存在する。(今年6月時点 農林水産省調べ)もともとは路上生活者への炊き出しからスタートした「あじいる」だが、現在は、このフードバンク事業が中心だ。 食料の提供先は、路上生活者、外国人、シングルマザー、DV被害者、非正規雇用者、高齢者支援など、およそ30の団体。米の提供量は月に800キログラムから1トンに及ぶ。しかし、米不足の影響で寄付や備蓄が減り始めてからは、各支援団体が希望するだけの量を提供できなくなった。 「米が確保できなければ命にかかわってくるので心配」 「要支援家庭への継続的な食糧支援が困難」 「子どもにお腹満足の食事の用意が難しい」 「1軒に毎月2キロ渡していた米を1キロに減らした」 各支援団体から届く悲痛な声…。しかし、配る物がないのだ…。 ■寄付が激減 売ってくれるところもない 中村さんによれば、米が足りなくなる前兆は、去年の秋ごろから始まっていたという。「あじいる」に集まる米は、個人と農家からの寄付によるものが多く、例年なら新米が出た後から集まっていたはずの米がなかなか集まらない。農家からその年余ったお米の提供もなかったという。そこには、“米の価格高騰”が影響しているようだった。 中村光男さん 「5キロ4000円台になって、わずか5キロの米を送るのに、配送代含めて7000円以上負担するとなると寄付する側も難しいだろう。無理に米を送ってくれとも言えない」 これまでは、足りない分は、カンパで集まったお金で購入して補っていたが、3月には、どこの卸業者にも「米がない」と購入を断られた。その結果、3月末に米が倉庫からなくなり、4月の発送は中止となった。 ■国からの備蓄米支援を受けるには「食育」が必要 ちょうどその頃、農林水産省の職員が「あじいる」にやってきた。この春から始まった"備蓄米の無償交付制度"が利用できるから申請してほしいという。この制度は「食育活動を支援するフードバンク」が対象だが、 農水省によると「教育や研究のために交付できると、食糧法施行令という法令で決められている。チラシを配るなど食育活動をすれば、生活困窮者対象のフードバンクでも要件を満たせる」というのだ。 さらに、6月、農水省は、年2回行っている無償交付とは別枠で、7月に追加の交付申請を受け付けることを決めた。 中村光男さん 「チラシを配るのは、食育活動とは言えないだろう」 「月の年金5万円でその日暮らしもままならない、生活に困窮している人たちがたくさんいるという社会の実相を役所の方はわかってないと思うんですよ。本来はそういった人たちを支えていくために備蓄米を放出するべきではないでしょうか」 とはいうものの、背に腹は代えられないと、7月に申請を出すことにした。届くのは10月。一番米が底をつきやすい時に届かないため、新米が出るまであまり状況は変わらない…。 ■購入先が見つかったけれど・・・先が見通せない支援 緊急事態宣言の発信後、全国から米の寄付があったが、1月分の提供量には及ばない。そんな中、米の購入先がようやく見つり、およそ1トンの米を購入。5月の上旬、米の提供を再開することができた。だが、6月の配送が終わると、ストックがほとんどなくなった。 寄付の量は依然として少なく、自分たちで買わないと提供できない状況だという。そこで7月は、カンパのお金で外国産米1トンの購入を確保することにした。しかし、8月以降に米が手に入るのか、まったく見通しは立っていないという。 中村光男さん 「カンパも減っているし、集まったお金もいつまでもつかわからない。どこまで踏ん張れるかって簡単じゃない。ずっと買い続けるのは無理だ。米の無償交付は続けてほしいが、備蓄米に依存してしまうと、社会で支えあうフードバンクの仕組みが弱くなっちゃうので、やっぱり僕らが頑張るしかないよね。できるだけ社会にこの窮状を知らせて、支え手を新たに作るしかないですね」 スーパーや小売店の店頭には次々と並ぶ備蓄米。一方でその米すら買えない、生活困窮者支援むけの備蓄米の放出はない。本当にお米を欲している人たちの命を支えるフードバンクの機能が限界に近づくなか、備蓄米は本当に必要な人の口に入ったのだろうか…。

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