不可解な症状や異常感のトップは”咬み合わせ”! 歯の治療では治らない痛みを治すには

「歯の治療をしても痛みが消えず、歯を抜いても治らない」「検査をくり返しても異常が見つからないのに、顔の痛みが続いている」それは、“原因不明の口腔顔面痛”かもしれません。 検査では異常が見つからない「原因不明」の口や顎の痛み・違和感は、ストレスや不安にも関わる脳の「痛みの回路」が作り出していた! 「特発性口腔顔面痛」に悩む人のための書籍『どうしても消えない「歯・舌・口・顔の痛み」はなぜおこる? 口腔顔面痛がわかる本』より、気になる章をピックアップしてご紹介! どうしても消えない「歯・舌・口・顔の異常感」で困ったら 歯科大学や大きな病院の口腔外科・口腔顔面痛外来には、痛みだけでなく、不可解な症状や異常感(違和感)を訴えて受診する患者さんが大勢います。 たとえば、「いくら調整してもらっても咬み合わせがしっくりいかず、どこで噛んだらいいのかわからない」「唾液がぬるぬるして不快だ」「唾液がどろどろして飲み込めなくなった」「口の中の左側(または右側)からだけ、ねばねばした唾液が出る」「口の中に何かが張り付いている感じがする」「舌が歯に当たることが気になる」「口の中でつねに金属の味がする」「口から絶え間なくカスのようなものが出てくる」「顔が左右対称ではないことに夜も眠れないほど苦しんでいる」などです。 検査をしても、症状に見合うだけの身体的な異常が認められないため、多くの場合、「異常なし」と宣言されて通院が打ち切られてしまいます。そのため、これらの症状に苦しむ患者さんは、<「歯が痛いのに異状がないと言われる」原因不明の口や顎の痛みに悩む人が急増! “特発性口腔顔面痛”とは?>で紹介した「原因不明の痛み(特発性口腔顔面痛)」の場合と同様に、診断と治療を求めてさまざまな病院を転々とすることになります。 これまで長い間、歯科医も歯科以外の医師も、患者さんが訴えるこれらの症状を「不定愁訴(ふていしゅうそ)」ととらえ、医学的に説明することができませんでした。しかし近年になって、これらの病的な異常感は、特発性口腔顔面痛と同様に、体に原因があるわけではなく、「脳の変調」によっておこっていると考えられるようになっています。 なかなか消えない病的な異常感は、患者さん自身にとっては非常に苦しく不快であるため、日常生活に支障をきたすこともあります。このような場合は、精神科医と連携して治療を行う必要があります。 歯科でよくみられる病的な「異常感」 口腔内の病的な異常感を主訴とする病気としては、「身体症状症」と「妄想症」が多いのですが、これらの境界領域にある状態の患者さんも多いため、明確に診断名をつけられないことも少なくありません。したがって、ここでは診断名ではなく代表的な異常感として、以下の5つの主訴について解説します。 � 咬み合わせの異常感 咬み合わせがずれている、新しく入れた前歯(あるいは奥歯)が唇(あるいは舌)に当たってイライラする、などの訴え。 � 唾液の異常感 唾液が出すぎる、唾液がぬるぬるして不快など、唾液の量、質、粘稠(ねん ちゅう)性(粘り気)などに関する訴え。 � 味の異常感 口の中がつねにしょっぱい、酸っぱい、金属味がする、味がわからない、などの訴え。 � 自臭症 歯肉のあたりからヘンな臭いが出ている、自分の臭いで周りの人が迷惑しているようだ、などの訴え。 � セネストパチー(体感異常症) 口腔内に何かが張り付いているような感じがする、咬むと奥歯がぐちゃっとつぶれる、朝起きると歯がふくらんでいる、歯茎から虫が出てくる、上顎が真ん中から割れて閉じたり開いたりする、などのきわめて奇異な訴え。 咬み合わせの異常感 症例1  歯科治療をきっかけに咬み合わせの異常感が生じた患者さん (35歳、女性。主訴は頭・首・肩の痛みと咬み合わせの異常感。) 虫歯の治療のために歯科を受診したら、いきなり歯を4本も削られてショックを受けた。この直後から、咬み合わせがしっくりいかなくなり、首に痛みがあらわれた。引き続き歯科を毎日受診したが、「左側の歯を削って咬み合わせを調整すると、こんどは右側の歯が強く当たる」ようになり、左右交互に削っては調整するといういたちごっこが始まった。 以後、咬み合わせの調整を受けるたびに、頭・顎関節・首・肩・背中など、違うところがつぎつぎと痛むようになり、気分も落ち込んで、家でも寝込むことが多くなった。 症例2 咬み合わせの治療から不快感が持続するようになった患者さん (52歳、女性。主訴は「右上臼歯部の違和感で食事ができない」。) X月:虫歯ができたことをきっかけに、悪いところを全部治してもらおうと思い、歯科に通院を開始した。咬み合わせが悪いと言われ、4ヵ月間で上下左右のブリッジや冠を次々とやり直したところ、途中から、咬み合わせると右上の歯がカチカチ当たる不快な感じが発現した。 X+6ヵ月:治療は完了したが不快感は持続し、1ヵ月後には違和感で固形物が食べられなくなった。入れたブリッジをはずしたが改善しない。 X+7ヵ月:2ヵ月ほどで体重が8kg減り、低栄養で倒れて1週間精神科に入院した。抗不安薬(精神安定剤)を服用しても改善しなかったため、入院から3ヵ月後に精神科より当科を紹介されて受診。 咬合違和感症候群 咬み合わせの異常感では、「歯の治療をしたあとから、咬み合わせが落ち着かなくなり、どこで噛んだらよいのかわからなくなった」「上下の歯の当たり具合が悪い」「咬むとずれる」などという訴えが典型的で、歯科では古くから知られています。近年では日本補綴歯科学会が「咬合違和感症候群(occlusal discomfort syndrome)」という病名でこの状態を説明しています。平たくいえば「咬み合わせのノイローゼ」です。 多数の歯を治療したときに発症しやすいのですが、たった1本の歯の治療からおこることもあります。患者さんは、状況から判断して歯の治療が原因だと考えやすいのですが、「痛覚変調性疼痛」と同様、治療時に受けたストレスや口腔内の変化が引き金となって、脳の神経系のシステムに変調がおこり、異常な感覚を作り出している状態だと考えられます。 通常は、歯の治療は異常感が生じる引き金にすぎず、治療した歯の形などが実際に不適切であったためにおこったということはあまりありません。 咬み合わせの異常があらわれると、患者さんは調整を求めて何度も通院しますが、症例1のように、調整をくり返すことでますます咬み合わせに意識を集中するようになってしまうと、症状は悪化します。また症例2のように、食事ができなくなったり、入院が必要になったりする患者さんもいます。 もっとも治りにくい異常感 咬み合わせの異常感は、異常感のなかでももっとも難治です。なぜなら、その異常感があまりにもリアルなので、患者さん自身に「ここさえ、こう調整してくれればよくなる」という強い思い込みがあり、「実際には悪いことはおこっていない」という医師の説明を受け入れられないことが多いからです。 「下の歯のここと、上の歯のここが当たっているので、こういうふうに削ってほしい」と詳しい図を書いて持参する人もいますし、自分で入れ歯を改造してしまい、原形をとどめないほどになっている人もいます。 私たち歯科医が、「これらは脳の中でおこっている異常感覚であり、歯の治療では治らない」ことを説明して、認知行動療法や薬物療法をすすめても納得してもらえず、咬み合わせの治療をしてくれる歯科医を探して診察室を去ってしまう患者さんも少なくありません。 咬み合わせの異常感を訴える患者さんの予後を追跡した研究はありませんが、日本補綴歯科学会が2013年に発表した公式見解では、発症後の経過は長く、概ね10年以上とされています。 咬み合わせには手をつけない、が治療の原則 先ほど述べたように、咬み合わせの調整をくり返すと、調整した部位に意識が集中するため、ますますそこが気になってしまうという、アリ地獄のような悪循環に陥ります。したがって、最初は咬み合わせには手をつけないのが治療の原則です。 症例1の患者さんの場合は、実際には身体的な異常は認められないこと、「咬合違和感症候群」と呼ばれる状態であること、「咬合に異常はなく、何も悪いことはおこっていない」ことを説明したところ、ご本人によく理解してもらうことができ、2週間後には症状は消失しました。 この症例のようにすんなりと治ってしまうことは珍しいのですが、やはり治療の原則は、この病気をよく知ってもらうことと、「咬み合わせに意識を集中しない」という認知行動療法を徹底することです。「誰かいい歯科医がこの状態を治してくれるはずだ」「なにかいい薬があるはずだ」というのは思い込みにすぎず、この状態から抜け出すためには、患者さん自身の努力が必要です。 ただし、あまりにも咬み合わせが気になって、それ以外のことは考えられないとか、寝込んでしまうというほど重症な場合には、精神科医と連携して薬物療法を併用することもあります。 症例2の患者さんは、抗うつ薬と抗精神病薬を併用したところ落ち着き、3ヵ月後には元の体重に戻りました。1年後にははずしたブリッジを作り直し、仕事に戻ることができました。 【オススメ】精神疾患は「心の病気」ではない!? 「痛み」などに代表される身体症状は、脳のネットワーク異常が原因

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