天下一品と一風堂、どこで差がついたのか…”国内増収増益”の一風堂が突きつけた「環境を言い訳にしない」ラーメン戦略

6月末の大量閉店が連日取り沙汰されている、こってりラーメンでおなじみの「天下一品」。確かにラーメン業界は異業種の新規参入、原材料や人件費の高騰で、厳しい環境に置かれているのは間違いない。だが、環境を言い訳にせず、慢心もなく、堅実に業績を維持しているのが、「博多一風堂」(以下、一風堂)だ。 天下一品と一風堂——どちらも1980年代に創業し、長きにわたって人気を集め、日本のラーメンチェーン界をけん引してきたが、なぜここまで差がついてしまったのか。一風堂の成長戦略を基に紐解いていく。 レッドオーシャン化する市場のなかで 現在、ラーメン店は個人店を中心に淘汰が進んでいる。一方で資本力のあるラーメンチェーンはと言えば、上位3社で見ても、約6000億円と推計される市場におけるシェアは20%程度と低く、混戦状態にある。 ラーメン全体の需要も安定しており、更なるシェア拡大を狙うチェーンは、自社に成長余地があると分析し、海外を含む未開拓エリアに出店攻勢をかけている。加えてここ最近では、異業態からの新規参入も増えており、ますます市場はレッドオーシャン化しているようだ。 その環境下で、老舗チェーンながら健闘しているのが一風堂だ。 一風堂は1985年に福岡県福岡市に最初のラーメン店「博多 一風堂」をオープン。国内の直営店の運営は株式会社力の源HDが担っている。 女性が一人でも入りやすい清潔感漂う店舗と、濃厚で深みのある豚骨スープやこだわりの自家製麺が特徴。博多ラーメンの先駆者として、インバウンド客にも大人気なのも周知の通りだ。 事実、業界内でも「海外でラーメン人気を押し上げた立役者は『一風堂』だ」と言われるほど、そのブランド力は高く、海外展開する際、FC加盟の募集を容易にしている。その結果、国内外の店舗数のバランスはほぼ均衡。25年度3月末の店舗数はグループ合計で296店舗(国内156店舗、海外140店舗)となっている。 明暗分かれた一風堂と天一 気になる最新の業績だが、25年3月期の連結決算で、売上は前期比21.7%増の341億6600万円(前年比+7.5%)、営業利益は28億900万円(前年比-14.8%)、営業利益率8.2%(前年比-2.2%)と増収減益となっている(後述するが、減益要因は海外事業の利益低下が主要因だ)。また、自己資本比率は57.5%と財務の健全性は向上している。 最新のトピックスでは、今年4月、ラーメン事業での更なる成長を目的に、傘下の力の源カンパニーが味噌ラーメン店を運営しているライズを買収。味噌ラーメン系にも力を入れ、グループシナジーをより強化するようだ。 また、インドネシアにてイスラム教徒向けに対応した飲食店を展開する計画も発表されている。ハラル認証の取得も目指すなど話題性も豊富であり、市場からの期待感は大きい。 一方、同じ老舗チェーンでも、天下一品の先行きはけっして明るくないようだ。 すでに各メディアで報じられている通り、今年6月30日、首都圏にある渋谷店、新宿西口店、池袋西口店、田町店、目黒店、吉祥寺店、蒲田店、川崎店、大船店、大宮東口店の10店舗が一斉に閉店する。直近の業績は明らかになっていないが、少なくとも一風堂のような健闘ぶりは感じられない。 いったい両者の「差」はどこにあるのか。筆者は、一風堂が「国内事業」「海外事業」「商品販売事業」の3つの柱をバランスよく運営している点に着目している。 けっして海外は順調と言えないが…… まず国内事業だが、人流復活による個人消費の拡大や、インバウンド需要の高まりなど景気が好転しつつありそうな中で、物価高騰による節約志向の高まりで消費マインドは複雑な状況だ。また店も売上は確保できても、原材料・エネルギー価格・人件費などの上昇が経営を圧迫し利益の捻出に苦労している。 そういった環境にありながら、国内売上は155億5600万円(前期比+11.3%)、営業利益は15億4700万円(同+9.3%)と増収増益だから大したものだ。営業利益率10.0%(同-0.1%)は前年より微減だが、それでも二ケタの利益率は理想的と言える。 次に海外事業は、日本よりもインフレによる原材料や人件費、家賃などのコスト増加により利益率が悪化した。 また景気が不安定であることにより来店客数も減少傾向だ。 加えて、米国において行政の許認可遅延や施行業者による工事遅延などにより、新規出店が大幅に遅れた結果、開業コストが増加していることも営業利益の悪化の要因。その為、価格改定やコスト構造の見直しなど対策を講じたものの、コスト上昇に対応が追いつかなかったようだ。 結果、売上は146億9000万円(前期比+2.6%)、営業利益は 11億2400万円(同−37.1%)、営業利益率7.7%(同-4.8%)と増収減益となっている。 ECサイト、新商品でマイナスをカバー このように、国内は何とか踏ん張るも、海外は厳しい状況に置かれるなど、けっして一風堂も楽な環境には無かったと言える。それをカバーしたのが《第3の矢》、商品販売事業だ。 一風堂のECサイトや関連商品への力の入れ方は目を見張るものがある。たとえば冷凍ラーメンの定期便を始めたり、「辛子たかな」や「ひとくち餃子」などのサイドメニュー販売の充実などがそうだ。新商品開発にも力を入れており、豚骨ラーメンチェーンでありながら、毎年夏には「もっちり つるっと 太つけ麺」を販売するなど、独自の路線も打ち出している。 これらの成果により、商品販売事業の売上は39億1900万円(前期比+12.9%)、営業利益は5億1300万円(同+11.6%)と好調。もちろん店舗売上にはまだまだ届かない規模だが、それでも「物販」という形で業績のマイナスをある程度カバーすることで、経営の安定、そして成長につながっていることは間違いない。 経営基盤の構築に加えて、一風堂の「強み」は他にもある。 【つづきを読む】『「回転率重視のラーメン業界に一石を」一風堂があえて子育て客への“神接客”にこだわる「明確な理由」』 【つづきを読む】「回転率重視のラーメン業界に一石を」一風堂があえて子育て客への“神接客”にこだわる「明確な理由」

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