「ファッショ」への嫌悪 2020年代に入ってから、疫病に戦争と、さまざまな災厄が世界に降りかかっています。 少し目線を高くして、巨視的にものごとを見る必要性や、「歴史に学ぶ」必要性を感じる機会が増えたという人も多いのではないでしょうか。 日本の近代史、とくに昭和期について学ぶのに便利なのが、黒田勝弘・畑好秀編『天皇語録』という一冊です。 この本は、昭和天皇が即位してからのさまざまな発言を取り上げ、一冊にまとめたもの。 歴史的に大きな意味のある発言から、天皇の性格が伝わってくる日常の発言まで、多くの言葉が、背景とともに紹介されています。 たとえば、1932年に発生したクーデター未遂事件である五・一五事件のあと、暗殺された犬養毅首相の後継を選ぶさいに、昭和天皇はこんな印象的な言葉を残しています。首相経験者であり、「元老」として日本の政治を牛耳ってきた西園寺公望の側近・原田熊雄が残した記録からの抜粋です。 本書より引用します（読みやすさのため、改行や表記などを一部編集しています。また〈〉のなかは『天皇語録』が参照する文献からの引用です）。 ファッショに近き者は絶対に不可なり （昭和7年5月19日） 海軍の青年将校らによるクーデター未遂の五・一五事件で暗殺された犬養首相の後継者について、天皇は具体的条件をあげ、軍機粛正や国際協調などを強調した。 〈昨夜、侍従長が来て、『陛下の御希望』といふやうなことを自分に伝へたが、いづれも御尤もな思召で、その御趣旨は、 一、首相は人格の立派なるもの。 二、現在の政治の弊を改善し、陸海軍の軍紀を振粛するは、一に首相の人格如何に依る。 三、協力内閣、単独内閣等を敢へて問ふところにあらず。 四、ファッショに近くものは絶対に不可なり。 五、憲法や擁護せざるべからず。然らざれば明治天皇に相済まず。 六、外交は国際平和を基礎とし、国際関係の円滑に努むること。 七、事務官と政務官の区別を明かにし、振粛を実行すべし。 といふやうなことであつた〉（『西園寺公と政局』第二巻287〜288ページ） ＊ さらに【つづき】「昭和天皇が「張作霖爆殺事件」のあと、怒りに満ちて放った「強烈なひと言」」の記事でも、昭和天皇の言葉を紹介しています。 【つづき】昭和天皇が「張作霖爆殺事件」のあと、怒りに満ちて放った「強烈なひと言」