自らの所有する不動産が、信用していた“隣人”に乗っ取られ売られていたーー。市場価格8000万円ほどの都心のマンションで、高齢者を狙った信じがたいトラブルが起こっている。前編<高級マンションで個人情報が流出…85歳男性が「信頼した隣人」に財産を奪われるまで>に引き続き、その詳細を明かす。 資産1000万円を他人に預け、入院 トラブルは、妻が亡くなって以降、ペットとともに暮らしていたAさん(85)は、健康上の不安で長期入院にいたり、その間ペットを誰も世話する人がいなくて困っていると、同じマンションに住む60代のZ氏に相談を持ちかけたことが発端だった。 Z氏は災害時の要介護支援名簿登録の際に、親切に声かけをしてくれた「見守り隊」のひとりで、以降、身寄りのないAさんの生活必需品の買い物やコンビニでの入金も快く代行してくれた、いわば「特別な存在」だった。 ここからはのちに発覚したと理事長は応えるが、Aさんはこれまでの付き合いや、ふたつ返事でペットの世話をかって出たZ氏に、長期間にわたるペットの世話にと500万円を、そのほか入院の手続き、入院保証人、公共料金の支払いや部屋の管理費として500万円と、合計1000万円と自宅の鍵を躊躇もなく預けたという。 驚くことに、長期入院期間中にZ氏は、巧みにAさんを誘導し、銀行通帳、印鑑、キャッシュカードといった資産関わるものまで取り仕切り、退院後も資産管理を継続することに成功。実質上、財産を自分の自由に扱えるようになったZ氏は、一人暮らしが困難になったAさんが介護施設に入所して3年後に、弁護士を伴って公証人役場でAさんに遺言書を作成させていたそうだ。 名実ともに資産が自分の手に渡る手続きを済ませたZ氏は、その翌年、Aさんに何の断りもなく、販売価格8000万円ほどのマンションと家財道具のすべて売却を済ませ、マンション管理組合がその事態を把握したのは手続きが終わった後だったという。 支援の限界と求められる対策 この件は当然、マンション内で様々な憶測を呼び、住民説明会が開催された。「見守り隊」の活動範囲に関する意見が噴出し、行政から受け取った高齢者支援の活動金を、仲間内の”飲み食い代”など不正な用途で使っていたことが発覚した。 金銭は「見守り隊」が行政に返金したものの、結論として「住民同士が金銭を預かるのは不適切であり、速やかに地域包括支援センターと連携し、外部の成年後見人などを立てるべき」という結論に至ったという。 現在、理事会は行政機関に対し、家庭裁判所によるAさんの成年後見人の選任を要請、さらにはAさんも資産を取り戻すため奔走しているものの、Z氏も数年後に死去し、現在マンションにはZ氏の家族が暮らしている。 管理組合の業務は、原則として「建物、設備、共用部分の維持管理」であって、高齢者の見守りは、地域町内会や自治会の役割と考えるのが一般的だ。 しかし、マンション標準管理規約第32条では、「マンション及び周辺の風紀、秩序及び安全の維持、防災並びに居住環境の維持及び向上に関する業務」が規定されており、地域町内会のないマンションなどでは、こうした役割が必要となる場合もある。 その場合、居住者名簿などの個人情報は厳重に管理し、必要最小限の関係者以外には開示しないこと、個人情報保護に関する規約を作成し、居住者への周知徹底を図り、定期的に監査を実施することが不可欠だ。 今回のような問題が起きた際には、初動の一時対応は理事会が行うものの、その先は地域包括支援センターと連携し、高齢者の財産管理は、原則として専門家(成年後見人、弁護士、司法書士など)に委託することが望ましい。 そのためには、地域包括ケアシステムの活用について居住者への周知徹底を図り、地域包括支援センターとの定期的な情報交換を行うとともに、高齢者支援におけるリスクと注意点について、居住者への啓発活動を行う必要がある。 近年、高齢化が進むマンションでは、高齢者の生活支援を行う管理組合も増えているものの、その支援範囲を管理規約で明確にしておかないと、Aさんのようなトラブルにつながりかねない。同様の手口での第2、第3の事件にも発展する恐れもある。 マンションの部屋自体は個人のものだとしても、マンションの資産価値を下げるも上げるも、管理組合の役割が重要だ。 * 一方、マンション内の管理員によって、部屋を乗っ取られた高齢者の話もある。続編記事『善良な住民が「禁断の関係」の犠牲に…昭和レトロマンションで起きた「住み込み管理員の妻」の信じられない裏切り』でレポートする。 【つづきを読む】善良な住民が「禁断の関係」の犠牲に…昭和レトロマンションで起きた「住み込み管理員の妻」の信じられない裏切り