幸福を感じる「原因」を徹底調査…日本人が「人生で最も大切に思うもの」とは?

日本人の幸福度は60%と、他国に比べて低い。国や文化により幸福の原因は異なるが、共通の傾向もある。日本人が幸福の原因として挙げるのものは何か? 統計データ分析家・統計探偵の本川裕氏(ウェブサイト『社会実情データ図録』主宰、近著『統計で問い直す はずれ値だらけの日本人』星海社新書)が解説する。 幸福感の理由も聞くイプソス社調査 幸福の要因については、1970年代に経済学者のイースタリンが提唱したイースタリン・パラドックス、すなわち「主観的幸福感が所得水準と必ずしも相関しない」ことが重要なテーマになって以来、所得との関連は当然のことながら、それに加えて学歴、健康、人間関係、自己決定などといった様々な要因指標と幸福感の関係が計量的に分析されてきた。 2万人の日本人男女に対するアンケートをもとにした最近の分析事例では、進学先・就職先を自分で決めたという自己決定要因が所得、学歴より強い影響を与えている結果が得られ、自分で人生の選択をすることが、選んだ行動の満足度を高め、それが幸福感を高めることにつながると推測されている(西村和雄・八木匡(2020改訂版)「幸福感と自己決定—日本における実証研究」)。 それ以外を含めた多くの分析結果を見れば、それぞれもっともらしい結果が出てはいるが、時代や発展段階とともに、また国や文化によって、何が人びとの幸福の要因となるかは様々であり、幸福の一般理論がノーベル賞を取ることなどは夢のまた夢の感がある。実際のところ、幸せはとらえどころがないと言ってもよかろう。 そうであれば、むしろ、幸福の要因のとらえどころのなさそのものを如実にうかがわせるようなデータを見てみたいというのが統計データを様々な角度から観察してきた私の偽らざる望みである。 そういった望みに少し近づいたと感じられる調査結果を最近、見つけたので紹介しようと思う。それは、幸福の要因論について、要因指標との相関を探る分析結果ではなく、意識調査で人びとがどんな要因を重要と考えているかを直接聞いてみた結果データである。 フランスの世界的な調査会社であるイプソス社は、世界各国を対象に定期的に幸福感調査を実施している。2025年報告書(Happiness Index 2025)では幸福である要因と幸福ではない要因を同一の17項目に対する3択の複数回答できいた調査の結果が掲載されている。 なお、イプソス社の過去の幸福感調査では、幸福の要因については、それぞれの要因項目について満足度を調べたり、各要因項目がそれぞれどの程度多くの幸福をもたらしているかを調べたりしていたが、「健康」のような当たり前の項目の回答率が高くなるだけでなかなか納得感の得られる結果が得られていなかった(と私は思う)。そこで項目間の優先順位づけを直接、調査対象者に行わせるような調べ方に今回変えており、従来よりもそうだろうなと思わせるディーセントな結果になっていると思う。 結果からいうと、国により幸福の要因を何だと捉えるかが様々である点に、幸福の要因のとらえどころのなさがあらわれているが、その中でも各国共通の傾向もあり、幸福の全体像が何となく浮かび上がっているところにイプソス・データの存在価値が感じられる。 イプソス社の幸福感調査は、このように興味深いデータであるのに余り知られていないので、ここで紹介することにも意義があろう。 本題である幸福の要因論に入る前に、議論の前提として、同調査による幸福度の推移について概観しておこう(図1)。 「幸せ」(とても幸せ+やや幸せ)と回答した割合を幸福度ととらえると、2025年調査によれば、日本人の幸福度は60%である。 東日本大震災のあった2011年からの推移を見ると70%水準から2019年には52%まで低下した後、コロナ禍からの脱却とともに幸福度も回復傾向をたどっていると認められる。 米英独仏の欧米主要国と比較すると、日本人の幸福度は韓国とともにレベル的には低いが、2020年以降、新型コロナ、およびそれが収まるや大インフレに見舞われた欧米主要国で幸福度が低下傾向にあるのに対して、むしろ、回復傾向にある点が異なっている。もっとも日本も欧米に遅れてコメの価格高騰など、最近は物価上昇にさいなまれているので、今後は分からない。 「家族・子ども」と「感謝・愛」が幸福の要因 さて、本題にもどって、幸福の要因についての日本人の意識を見てみよう。図2には、日本で幸福を感じている60%の人に幸福の要因を3択で答えてもらった結果を、回答率が多い順に掲げた。世界30ヵ国の平均も点グラフで付記した。 なお、「幸福の要因」は、幸福度の設問で「とても幸せ」及び「やや幸せ」と回答した者にきいた結果であるが、同時に示した「幸福でない要因」の方は「あまり幸せでない」及び「全く幸せでない」と回答した者にきいた結果である。 幸福の要因としてもっとも多く回答があった1位は「家族と子どもたち」と「感謝され、愛されている感じ」が41%で同順である。3位は「人生に意味を感じる」(31%)、4位は「経済的な状況」(30%)である。 「経済的な状況」、すなわち物質的に恵まれていることが幸福につながる程度は、親しい人たちと過ごす楽しく充実した人生、あるいは生きがいある人生に比べると、要因としてはやや弱いものと意識されていることが分かる。 うえでふれた自己決定要因は「自分の人生を送れているか」(原文「自分の人生をコントロールできていると感じる」)に当たるが、世界ランキングは3位だが、日本ではランキング6位とそう高くはない。 一方、幸福ではない要因の方は結果が大きく異なる。幸福ではない要因として最大なのは「経済的な状況」の64%であり、2位の「人生に意味を感じる」の27%を2倍以上と大きく凌駕している。 経済的に恵まれているかどうかは、必ずしも幸福の第1要因ではないが、不幸の第1要因ではあるのである。 こうした日本の結果は、世界30ヵ国の平均とほぼ同じである。 以上でふれた要因以外の要因について、日本の結果は世界平均とほぼパラレルだが、大きく異なっているのは、「身体的健康」や「精神的健康」、特に「精神的健康」が、幸福の要因にせよ、幸福ではない要因にせよ、日本の場合は要因として強く感じられていないと言う点である。 日本の平均寿命は世界トップクラスであるが、意識上も健康問題が世界の中でも幸福を左右する要因になっておらず、両者は整合的である。 「健康」と並んで日本の結果が世界平均と異なっているのが目立つ要因項目は「信仰や精神生活」である。信仰する宗教への帰依が幸福の要因となる場合が日本の場合は少なく、無宗教国らしい結果となっているのである。 【つづきを読む】『日本人が幸福を感じる原因を徹底解説! 他国と比べて初めてわかる、日本人の「意外な側面」』 【つづきを読む】日本人が幸福を感じる原因を徹底解説! 他国と比べて初めてわかる、日本人の「意外な側面」

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