仕事が続かずひきこもり、祖母の介護を始めて10年…「就職氷河期世代ケアラー」に医師が告げた「衝撃の一言」

今月、厚生労働省は病気やケガで受給する障害年金について昨年度不支給と認定された件数が昨年度に比べ1.5倍に増加したと発表。不支給となるケースが増えているという報道をうけ、野党が日本年金機構と厚生労働省に調査を求めていた。 特に精神障害(発達障害含む)では、前年度に比べて障害年金の不支給が1.9倍に達していて、他の疾患より大幅に増加していることがわかった。 今回は、20代から障がいを抱えつつ介護を一手に担うことになり障害年金を申請しながら拒まれ続けた就職氷河期介護者の苦悩についてお伝えし、障害年金のあり方を考える。 大学卒業後、仕事が長続きせず「ひきこもり」状態に 山本博文さん(仮名、以下同)は、関西在住の40代半ばの男性で家族構成が母親、祖母、兄の4人家族。 山本さんは大学卒業後一時期、製造業やサービス業の仕事をしていたが、仕事がなかなか長続きしなかった。仕事を覚えられなかったり、対人関係に悩んだり、ノルマにたえられなかったりを繰り返し、自己退職や解雇を経験。自信を喪失しひきこもり状態に……。 一家は、祖母の年金に支えられている状況で母親もほとんど働いていなかった。 精神科の主治医からは、「焦って仕事を探しても精神的に浮き沈みがある上に同じ失敗を繰り返してしまう。短時間のアルバイトから探したらどうや」とアドバイスをもらい、「反復性うつ病」と診断されていた。 兄からは、出来損ない扱いをされて相手にされなかったが、母親は「無理しなくても家にいてくれたらいいよ」と山本さんに優しく声をかけてくれた。 祖母に認知症の疑いが… 山本さんの家庭環境に変化が訪れたのは30代半ばの頃だ。 祖母が些細なことでよく怒るようになって母親と衝突する日が増えていった。 ある日、母親が友人と遊びに行き帰りの時間が少し遅くなっただけで祖母はイライラ……。 「あの子、私をほったらかして一体どこをほっつき回ってるんやと大声で何度か叫ぶんです。玄関の前をウロウロしてあんたは私の事が嫌いなんやろって。母親は時々友人と出かける程度でそこまで怒ることはないと思うのですが……」(山本さん) そして、母親が帰宅するとすぐ「あんた一体どこ行ってたの」と怒って、母親も「なんでそんな言われ方せなあかんの。たまに友達と会うぐらいええやんか」と返し口論になる。 母親と祖母の言い合いは、日に日に増え、時にはつかみ合いのケンカに発展して、山本さんが仲裁に入ることも増えていった。 心配した母親の友人から「お母さん(祖母のこと)もしかして認知症の疑いがあるかも、一回病院で検査してもらってごらん」と進言され、母親は祖母に「体のことが心配だから一緒に検査行こう」と誘った。 しかし、母親の言うことはもはやほとんど聞かなくなっていた祖母……。 母親は、「博文、お母さん、おばあちゃん(祖母)をどうしたらいいかわからへんのよ。博文、病院に連れて行ってあげてくれないかな。ごめんね」と頼まれた。 山本さんは、祖母との間柄は悪くなく、祖母も山本さんが言うことならある程度聞くため、祖母に「今度、一緒に病院に行こうね」と諭した。 いざ病院に行くと、祖母の診断結果は「アルツハイマー型認知症」。医師から「今後介護が必要になり負担が増えますので介護サービスを使ってください」と告げられた。 山本さんは、主治医から教えてもらった地域包括センターに連絡し事情を説明。 祖母は、介護サービスを使うのは断固拒否したものの地域包括センターの職員と山本さんの再三の粘り強い説得で少しずつデイサービスとヘルパーを利用するようになった。 筆者自身も、32歳から認知症の祖母とガン・精神疾患の母親の介護、見守り、入院手続き、ひきこもり、生活困窮など計13年をほぼ1人で担った経験をもつが、介護施設や訪問看護など自宅に上がる人を嫌がるケースに度々遭遇した。 しかし、ベテランのケアマネージャーのある知恵で介護サービスを利用するようになった(詳しくは筆者の著書『おばあちゃんは、ぼくが介護します。』を参照してほしい)。 山本さんはホッとしたのも束の間、ある事件が起きる。 ある日祖母が行方不明に。発見された先は… 祖母は、ショートステイから帰宅するとすぐ山本さんに「あんた、また私をだまして訳のわからないところ(ショートステイ)にほりこんだでしょ。そんなに私が邪魔なんかいな」と激怒。 山本さんは「ばあちゃんだって、お話相手が増えたり、一緒に遊んだりしたいって前向きな気持ちやったやん。ケアマネージャーさんからもショートステイのことは何度か説明してもらったやろ」と返事したものの、祖母は全く聞いていない、家で邪魔者扱いされたの一点張り……。 その上、祖母は「それならこの家からお金も全部もって出て行って、家も売ってやるわ。あんたらの面倒は誰がみてると思ってんの」と攻撃的な口調で応酬。 ついカっとなった山本さんは「ばあちゃんの勝手にせえ、家におってもらんでええわ」と言ってしまった。 祖母は、泣きながら家を出て行ってしまった。運が悪いことに母親は買い物に行って不在だった。 興奮状態がしばらく収まらなかった山本さんだが、母親に連絡して「あかん、えらいこと言うてしもた」と言い、一緒に近所を探し歩いたものの祖母はどこにも見つからないまま、1時間、2時間と時は過ぎた……。 山本さんは、ケアマネージャーに連絡。指示を仰ぎ、警察に捜索願を提出、祖母の行きつけの店などあらゆる場所も探したが発見できなかった。 すると一本の電話がかかってきた。 「おばあちゃんが発見されました」 警察からの電話だった。祖母は一人で電車に乗り、約50キロ先の市街地の駅で座っていたところを発見された。 山本さんは、祖母を「ばあちゃん、あんな事言ってごめんな、ごめんな」とギュッと抱きしめると、祖母はうんうんとうなずき、そのまま倒れこむように寝た。 障害年金申請を希望したら、医師からまさかの暴言 そのようなこともあって、山本さんが祖母の介護でうける精神的・肉体的負担を主治医に相談したら、「おばあさまの症状は在宅介護を続けるのは限界にきてますよ。無理しなくても、特養や老健を申し込んだらいいんですって」とアドバイスをうけた。しかし、祖母に申し訳ない、もう少し自宅でケアできるという思いが勝った。 そして、山本さんは主治医に「友人が似たような症状や生活状況で障害年金2級を受給したと聞いたのですが、私は申請できないのでしょうか?」と聞いた。 すると、医者は「障害年金の申請は一切断ってんねん。初診日に障害年金受給目的で来る患者も大勢いる。門戸を拡げすぎてる。今、発達障害がクローズアップされてるけどな海外の流れを汲んで日本もマネしてるだけや」と一蹴し急に不機嫌になった。 「医者に自身の窮状を訴えても、障害年金の申請は無理だと思いあきらめました。気がつけば祖母の介護を始めて10年が経ちました。今後どう人生を送ればいいか途方に暮れています。祖母亡き後は母親の介護が待ちうけていますし、働きたい意欲がわきません。私のようにブランク期間が長い人を採用する会社はほとんどない。最悪、生活保護を検討しています」(山本さん) *     *     * 山本さんのように困っている人でも福祉サービスをうけることはできないのか? つづく記事〈医師に障害年金申請を断られた「就職氷河期ケアラー」にも希望が…「申請で頼りたい専門家」と「費用に困る」場合の裏ワザ【支援者が解説】〉では、山本さんの祖母の介護のその後や、障害年金の申請を拒否された場合に使える裏ワザなどをお伝えする。最後までお読みいただければ幸いです。 奥村シンゴ 介護福祉ライター、講師、支援団体「よしてよせての会」代表。 NHKで解説の他、取材・執筆や大学・自治体など講演多数。また、大阪や兵庫(宝塚中心)に啓発や居場所活動を積極的に展開中。 著書『 おばあちゃんは、ぼくが介護します。 』2023年夏国際ソロプチミスト神戸東クローバー賞受賞。介護離職や若者ケアラー〜就職氷河期10年(ダブルケア、ひきこもり含)経験。生粋の阪神ファン。 ツイッター okumurashingo43 Facebook、TikTokは 奥村シンゴ で検索 【つづきを読む】医師に障害年金申請を断られた「就職氷河期ケアラー」にも希望が…「申請で頼りたい専門家」と「費用に困る」場合の裏ワザ【支援者が解説】

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