日本大学重量挙部の前監督・難波謙二氏(63歳)が、スポーツ推薦の奨学生の保護者から納付金名目で現金をだまし取ったとして逮捕された事件。この前代未聞の不祥事の根底には、長年にわたり大学内で黙認されてきた日大特有の慣行と、田中英壽前理事長体制下で築かれた腐敗の構造があった——。 窓口で見た「札束の入った紙袋」 「私も学部の会計課の窓口で、運動部のコーチが現金を持ってきて、学生たちの学費を支払う光景を見たことがあります。コーチは大きな紙袋から現金を取り出し、会計課の担当者が計数機で札束を数えて、お釣りを渡していた。あれは衝撃的な光景でした」 こう明かすのは、日大の元職員で内部事情に詳しいA氏だ。 難波氏は、奨学金制度の対象者である新入生の保護者に対し、「納付金の免除は2年目から」などと虚偽の記載がある書類を送付し、本来納付する必要のない入学金や1年次の学費を部の口座に入金させ、詐取していた。 詐取金は部のコーチによって引き出され、難波氏が大学内の自室のキャビネットに一時保管、愛車BMWのコーティング代やスーツの購入などに充てられていたという。 この手口を可能にしたのが、運動部が学費納付の「窓口」になる日大特有の慣行だ。日大では、運動部が学生の保護者から学費を受け取り、大学への入金は部のコーチが代理で行う「代理徴収」という仕組みがあり、難波氏はこれを悪用していたとみられる。 「こうした集金方法を知り、職員である私も驚きました。なぜ保護者が疑問を持たなかったのかという思いもありますが、保護者からすると、学費や部費などをそれぞれ違う口座に振り込むのは面倒であり、スカウト段階から窓口となっている部にまとめて振り込むほうが楽という面もあったかもしれません。 ただし、本来大学に直接納付されるべき学費を、一度部が預かる仕組みは異常であり、今回の不正行為につながってしまった」(同前) 運動部の幹部が大集合する「宴」 この悪習は重量挙部に限った話ではない。日大側は「重量挙部のような私的流用はなかった」と弁明しているが、陸上部やスケート部でも同様の不正徴収が発覚しており、難波氏自身も「重量挙部に限ったものではない。なぜ俺だけ処分されるのか」などと話しているという。 「年に2〜3回、東京・原宿の中華料理店『南国酒家』で、大学本部所属の34の運動部の幹部が一堂に会する『部長・副部長・監督・コーチ会』が開催されていました。飲み放題付きフルコースの宴会代は、大学の費用で賄われており、田中前理事長や学長らも来賓として参加していました」(同前) 長らく日大を支配していた田中英壽前理事長体制下では体育会出身者が主流派となり、出世してきた。難波容疑者もいわゆる「田中派」の一人だったという。運動部の幹部たちの間で、こうしたノウハウが共有されていたのか。 「表向きの目的は『ヨコの結束を図る』というものでしたが、その実態は有望な選手の情報交換や、推薦枠の貸し借り、そしてカネ集めのノウハウの相談などが目的でした」(同前) 難波氏は「寄付金として保護者の了解を取り付けてもらったお金だという認識だった。詐欺ではない」と供述しているというが、A氏は「一部の運動部の関係者は、世間の感覚とは大きく乖離している。裏口入学を斡旋していたと言っているのと同じだ」と一蹴する。 スポーツ特待生を支えるのは一般学生 「スポーツ推薦制度を悪用するなんて言語道断です。学内からは『運動部なんて廃部・解散してしまえばいい』という極端な意見も出ています。スポーツ特待生の学費を誰が負担しているのか。運動部の関係者はよく考えるべきです。 日大の本部は、各学部や付属高校から授業料収入の15〜20%を『法人費・本部費』という名目で徴収しています。これが、運動部への補助金や運動部の学生寮の維持管理費、さらに特待生の授業料の補填に充てられているのです。つまり、スポーツとは無縁の一般学生やその保護者が、運動部員を支えているわけです。大学内部でもこのカラクリはほとんど知られていません」(同前) 一方、「貴学の本部は、各学部や付属高校から授業料収入の一部を徴収しており、これが、34の競技部への補助金、そしてスポーツ特待生の授業料の補填に充てられていると聞いております。これは事実でしょうか」との質問に対し、日大広報部は「事実ではありません。本部には、各学部や付属高校からその全収入の一定割合を法人費として納入され、様々な支出に予算化して配分されております」と回答した。 「代理徴収」という特異なシステムは、昨年ようやく廃止されたという。きっかけは、作家の林真理子氏が理事長に就任し、外部の会計士などによる監査が厳格化されたことだった 。 「『現金手渡しなど論外。ちゃんと銀行の履歴が残る形でやりなさい』という指導が入り、振り込みが基本になったと聞いています」(同前) しかし、一部のシステムが変わっても、組織の体質がすぐに改善されるわけではない。A氏は「日大が抱える問題の根っこは、想像以上に深い」と指摘する。後編記事『林真理子体制でも断ち切れぬ「腐敗の連鎖」…元凶は「田中派」の残党と私欲に走る「取り巻き」だった!』では、林体制の現状に迫る——。 【つづきを読む】林真理子体制でも止まらない日大の不祥事、元凶は「旧田中派」と「お仲間」だった!