血糖値の乱高下が「がん」を招く…糖質の代わりに摂るべき意外なエネルギー源

ランチの後に眠くなるなら要注意。それは糖質の摂りすぎによって起こる、疲労感や眠気、集中力の低下などといった不快な症状を総称する「糖質疲労」に陥っているかもしれないからです。手を打たないと時間をおいて糖尿病からの病気連鎖を招きかねない状態です。 有効なのは食生活においてゆるやかに糖質を控える一方で、たんぱく質とともに脂質をたっぷりと摂る「脂質起動」。脂質中心でエネルギーを燃やすからだに変化させます。これらのことは「がん」という病気とも関係します。 「油は健康に悪い」「油は太る」という常識を覆す健康のヒントが詰まった、医師で北里大学北里研究所病院院長補佐 糖尿病センター長の山田悟さんの新著『脂質起動』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けします。 血糖値の乱高下が「がんの芽」を育てる 糖尿病(高血糖)でがんが発生し、増える理由を考えてみます。 まず、正常細胞からがん細胞への変化についてです。 血糖値が乱高下すると、体内で「酸化ストレス」が生じます。これは、有害な活性酸素が大量に発生し、それを処理する抗酸化酵素の能力を上回ってしまう状態です。モデル細胞を用いた実験では、血糖値が安定して高い状態よりも、正常値と高血糖を行ったり来たりする「血糖値スパイク」の方が、より多くの細胞を死に至らしめることが判明しています。そして、酸化ストレスは、細胞内では遺伝情報を伝えている遺伝子を傷つける作用もあります。 正常細胞の遺伝子に傷がつくと、多くは自動修復されたり、細胞死が生じたりするのですが、修復しきれないまま生き残る細胞があります。これががん細胞になると考えられています。 次に、なぜ高血糖ががん細胞を成長させるかについてです。 脳の神経細胞は血糖が好物です。脂質由来の栄養素をエネルギーに変えるミトコンドリアを持たない赤血球も血糖が大好物です(糖質しか頼るものがありません)。 そしてもう一つ、血糖が大好物の細胞が存在しています。それが、がん細胞なのです。 がん細胞はミトコンドリアを持っているのですが、なぜかしらもっぱらミトコンドリアを使わずにエネルギーを獲得していることが知られています。逆に、脂質やケトン体はがん細胞が利用しない(できない)と想定されているのです。 血糖だけががん細胞のエネルギー源であるとすれば、「高血糖が、がん細胞を成長させる」のは当然のことです。 がん細胞は、血糖値が上がれば糖質(血糖)を取り込めます。がん患者さんが糖質を過食して血糖値が上がった分だけ、がん細胞に取り込まれる血糖が増え、がん細胞は元気になると考えられます。それでがん細胞の成長スピードが上がったり、ほかの場所に転移したりしたら大変です。 一方、血糖値が上昇すると、それを抑制するために後から過剰に出てくるのがインスリンですが、インスリンには糖を細胞に放り込む作用とともに、細胞を増殖させるという作用があります。 適切な量のインスリンが増殖因子として働くことは、脳の海馬にとって重要なことかもしれませんが、高血糖を抑制するための多量のインスリンががん細胞に働いてしまったら大問題です。がん細胞はブドウ糖という餌を食べながら、インスリンという味方を得て、どんどんと増殖できてしまうのです。 「発がん」にも「がんの成長」にも関与する「果糖」!? また、もう一つ、ブドウ糖以外に危険な糖質もあります。それが果糖です。 「砂糖ががん細胞を成長させる」という主張があります。砂糖はブドウ糖と果糖が1つずつ結合した物質(ショ糖とも言います)です。そして、果糖はブドウ糖以上に発がん性を含んだ怖い糖質であるとの概念が広まってきているのです。 通常食+水で飼育したマウスよりも通常食+果糖水(いわゆるコーンシロップ)で飼育したマウスでは、栄養素を吸収する小腸の一部が発達し、同じカロリー摂取量で飼育しても体重が増加します。 こうした現象はブドウ糖の場合には見られなかったので、果糖でカロリーの吸収能力が上がり、体重が増えたと解釈できます[31]。また、がんになりやすい「発がんモデルマウス」では、がん細胞の数が増えて、悪性度が高くなっていたのです[*Science 2019; 363: 1345-1349]。 また、果糖はブドウ糖以上にたんぱく質と結合して糖化反応産物(AGEs)を増やしやすく、それによって心不全を招くという説も提唱されています[*Diabetes 2016; 65: 3521-3528]。 この糖化反応産物は発がんにも関係すると考えられていますので[*Biomedicines 2024; 12: 1699]、果糖はブドウ糖同様に、発がんにもがんの成長にも関係している可能性があります。 果糖は食べた直後にはさほど血糖値を上げません。しかし、数か月もすると内臓脂肪を蓄積させて脂肪肝を招き、血糖の上下動をブドウ糖以上に悪化させるのです[*J Clin Invest 2009; 119: 1322-1334]。その意味では、砂糖=ショ糖(ブドウ糖と果糖の結合物)は、ブドウ糖と果糖のダブルパンチでがんの悪化を招くかもしれません。 ということで、糖質は控えめ、脂質はたっぷりの食習慣なら、血糖値を上げすぎず、果糖の影響も避けられるため、がん細胞の芽を摘み取り、がん細胞の成長を遅延できる可能性が高いのです。 「超脂質食」が、がんと戦う新しい武器に? さて、改めて脂質起動──ゆるやかに糖質を控え、脂質をたんぱく質とともにしっかりと摂取し、脂質中心でエネルギーを燃やすからだに変化させる──をすると、どんなことが起こるでしょうか? 血糖変動(酸化ストレス)を減らし、高血糖を是正し、高インスリン血症も防ぐことができます。それは、理論的に考えれば、まさにがんの予防食ということになります。 さらに、超脂質食(ケトン体産生食)によって、もっと積極的にがんの予防や治療を考える人たちが出てきています。 お伝えしたように、そもそも、がん細胞は糖質をエネルギー源とします。一方、私たちの正常な細胞は、赤血球を除けば、脂質あるいはケトン体をエネルギー源にすることができます。 ケトン体産生食レベルの極端な糖質制限食(1日50g以下)にし、脂質をたっぷり食べて、カロリーをしっかりと摂取していれば、私たちの正常な細胞は脂質とケトン体で元気に生きることができます。すると、口から入ったわずかな糖質と、肝臓の糖新生でつくられた糖質を、がん細胞と赤血球とで奪い合うことになります。 ここで有利なのは、血液中の赤血球です。すべての栄養素は血液に乗って運ばれますから、赤血球は糖質が小腸から吸収されるとたちまち、また、肝臓から放出された直後から、血糖=ブドウ糖をどんどんと利用することでしょう。 一方、がん細胞は自分のところにブドウ糖が運ばれるまでそれを利用することができません。兵糧攻めということになります。 前述したように、血糖値が上昇した際に分泌されるインスリンは細胞増殖作用をもっていますが、ブドウ糖が得られないとこのインスリンの分泌もますます少なくなるため、がん細胞はインスリンを利用した成長を起こすことも極めて難しくなります。 餌がなく、ひもじく、守ってくれる家もない。がん細胞をマッチ売りの少女の状態にもっていく──これがケトン体産生食の基本概念です。 ケトン体産生食を用いたがん治療の試みは始まったばかり 少し込み入った話になりますが、最近では、ケトン体が遺伝子の調整に関わることも知られるようになりました[*Cell Metab 2010; 12: 654-661]。この作用により、酸化ストレスを消去し、細胞や遺伝子を保護してくれる物質(カタラーゼと呼ばれる酵素などが代表格です)がつくられるようになると考えられています。 つまり、ゆるやかに糖質を控えて、脂質をたっぷりと食べて、脂質中心でエネルギーを燃やすからだをつくる脂質起動を行えば、酸化ストレスが減らせます。加えてケトン体産生食にすると、さらに酸化ストレスを消去する能力も高めることができるのです。 がん細胞を兵糧攻めにしつつ、私たちの正常な細胞は保護できる。確かに理にかなっています。 ケトン体産生食によるがん治療の研究は、大阪大学、延世大学、アラバマ大学バーミンガム校、デューク大学など様々な施設で有望な結果が得られつつあることが報告されています[*Nutrients 2020;12(5):1473]。 まだケトン体産生食を用いたがん治療の試みは始まったばかりであり、明確な臨床データが得られたわけではありません。がん患者さんが自己流で取り組むことはできませんが、近い将来、「脂質はがんと戦う有力な武器だ」といった結論が得られることに期待しています。 【もっと読む】『がん患者は玄米菜食、フルーツを食べてはいけない…健康法の意外な勘違いと正解』 【つづきを読む】がん患者は玄米菜食、フルーツを食べてはいけない…健康法の意外な勘違いと正解

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