戦後80年となる今年、私たちは「いまを、戦前にさせない」をテーマにお伝えしています。爆薬を積み敵の船に向かった海の特攻。通称、マルレ。元隊員の男性が80年の時を経て、当時のことを語りました。 内野藤義さん、97歳。太平洋戦争末期、爆薬を積んで敵の船に突っ込む簡素なボート「マルレ」に乗っていました。事実上の特攻作戦。アメリカ兵からは自殺艇と呼ばれていました。 内野さんは最近まで家族にもマルレのことを話していませんでした。 「マルレ」元特攻兵・内野藤義さん（97） 「生きている者が何を言うもんかと。言うことができんぞこれはと、私は（自分に）言い聞かせていた。それが腹にずっと80年たまっているでしょう。誰かが言わないと（戦死した）こいつらが浮かばれないと。それで言う気になった」 内野さんがマルレに乗ることになったのは昭和19年4月。 「マルレ」元特攻兵・内野藤義さん（97） 「結果的には特攻隊でしょうけれど、それは全然知らなかった。（入隊時は）船舶兵ということだから、船に乗るんだろうだけだった」 しかし入隊後の訓練は… 「マルレ」元特攻兵・内野藤義さん（97） 「前におる船に突き当たれって、突き当たったら、それ（爆雷）が落ちるようになっている。その爆雷が4秒したら破裂するようになっている。それが私たちの仕事」 香川県での訓練の後、内野さんはフィリピンへ向かうことに。しかし、途中立ち寄った台湾で空襲を受け輸送船は沈みました。 船が無事だった別の中隊はフィリピンに到着。そして… 「マルレ」元特攻兵・内野藤義さん（97） 「全部…戦死（と聞いた）」 昭和20年も3月がすぎ、内野さんにも出撃の命令が下りました。 向かった方向は沖縄。 船のエンジンがかけられた出撃直前、戦隊長からの訓示は意外な言葉でした。 「マルレ」元特攻兵・内野藤義さん（97） 「（戦隊長が）俺は生きて帰ろうと思う。（隊員にも）生きて帰れって言うわけだ」 訓示の真意はわかりませんが、台湾・高雄港から沖縄本島までの1000キロほどを簡素なボートで進み敵の船に突っ込む作戦に、戦隊長が疑問をもったのではとも内野さんは考えています。 「マルレ」元特攻兵・内野藤義さん（97） 「（戦隊長は）陸軍士官学校（出身）の大尉だった。結婚して間もなしだったから27､28歳だったんじゃないか。今はもう生きていないだろう」 出撃後、波が荒れて相次いで船が故障。戦隊長は作戦を中止しました。そして、再出撃の待機中に終戦。 「マルレ」元特攻兵・内野藤義さん（97） 「（別の中隊は）1人も残らずに死んだ。（我々）ひとつは1人も死なずに生き残った。いくら運命とはいえど、あまりにもひどいね。ひどいよ、戦争はいかん」 内野さんが娘たちにこの事を打ち明けたのは去年、妻が亡くなった時でした。今、語った理由は… 「マルレ」元特攻兵・内野藤義さん（97） 「なんで私だけが生き残ってね、それが恥ずかしかったんですよ。言うべきものではない、生きている者がと思っていた。しかし、惨めだぞということも、知らしめないといけないと思った。私は言ったら、やっと胸のつかえ重みが取れた。今からちょっとくらいは前向きに進めるじゃろう」