岩手県大船渡市の大規模な山林火災で焼損した人工林約１７００ヘクタールのうち、森林保険への加入面積が１割に満たないことがわかった。 　災害のリスクがつきまとう林業で、森林保険は唯一の「セーフティーネット」だが、厳しい経営環境や保険料の高さから加入を見送る人も少なくない。山林火災が全国的に相次ぐ中、岩手県内の森林組合は積極的な加入を呼びかけている。（広瀬航太郎） スギ価格下落 　岩手県や大船渡市によると、２月１９日に三陸町綾里、同２６日に赤崎町で発生した山林火災では、計約３４００ヘクタールの森林が延焼。面積の半分を占める人工林の所有者は、県内外で少なくとも数百人に上ると推定される。 　同市などの森林所有者でつくる気仙地方森林組合が、延焼範囲のうち保険に加入している森林がある三陸町綾里と赤崎町で現地調査を実施。その結果、焼損したとされる人工林全体の９・７％に当たる約１６５ヘクタールで被害が確認された。 　森林保険は災害跡地への再造林を促し、持続的な林業経営を支援する制度だが、岩手県森林組合連合会（盛岡市）によると、県内の保険加入率は２０２３年度末時点で１２・１％にとどまる。加入率が低調な理由について、大船渡市の林業関係者は「主要樹種であるスギの価格は、約３０年前の３分の１に下落している。森林の価値に対し、保険料の高さが見合わない」と漏らす。 被害「想定外」 　三陸町越喜来では、地元の「甫嶺（ほれい）自治会」が共同で管理する松林など約２ヘクタールが焼けた。前自治会長の及川哲（さとり）さん（７７）によると、マツは約５０年前から育て始め、今年にも伐採・出荷を計画していた。しかし、森林保険には加入しておらず、焼け焦げた被害木の活用の見通しも立っていない。 　及川さんは「自分たちが山火事の『被害者』になるのは想定外だった。自動車保険と異なり、加入の必要性を真剣に考えたことはなかった」と打ち明ける。 　気仙地方森林組合には、複数の組合員から森林保険が適用されるかどうかについて問い合わせが寄せられている。ただ、自動更新されないため、中には気付かないうちに保険期間が満了していた人もいたという。 再造林補助へ 　農林水産省は、今回の山林火災で焼損した木の伐採や搬出、跡地への再造林にかかる費用を補助する方針だ。ただ山林火災では出火原因の特定が難しく、商品化するはずだった木への損害賠償請求ができないケースが多いという。林野庁の担当者は「保険に加入していなければ、最初の造林にかけた費用も回収できないのが実情だ」と指摘する。 　岩手県森林組合連合会の千田健哉参事は「岩手は森林面積が広く、風雪害のリスクもあり、できるだけ多くの所有者に保険への加入を考えてほしい」と語る。 ◆森林保険＝人工林の所有者に対し、火災や風水害などで生じた損害を補償する制度。国立研究開発法人「森林研究・整備機構森林保険センター」が運営し、保険金額は樹種や苗木を植えてからの年数を表す「林齢」によって決定する。林野庁によると、２０２３年度末時点での全国の加入率は６．７％。